隠密不穏
再びアマンダとセネレを加えたコウカは、一路首都ダウンを目指す。フォールンの国は荒れ果てているため、見張りの少ない道など無数にある。少なくとも道中は簡単に行けるだろう、というのが一行の見方だった。
「……そう思っていたんだがな」
「ここまであっさりと行けるとなると、かえって不気味になるね。罠の可能性が濃厚って感じだ。ま、アタシには関係ないがね」
幾ら簡単に行くだろうと見積もっても、全く何もない……その静けさは一行の不安を煽り立てた。同時に疑念も再燃する。
サリオンの神器の特性を活かせば、どこでも不意打ちができたであろうに。それはしないのか、できないのか。コウカには判断がつかない。
そして、ダウンの街の内部にすら容易に入れてしまう。これはもう異常だ。意図的に手を出さないようにしている。そこからどんな手があるのか? 小汚い路地裏に一行は滑り込んだ。
「セネレ、すまないが……頼めるか」
「ん」
短い返事をしたセネレが布をバサリと広げた。布が巻き付いたと思えば、そこに立っていたのは“セネレ”ではなく、“哀れな物乞い”だった。
「行ってくる」
「街の様子はセネレが、王城周辺は俺が探る。ジネット、内部は少しぐらい知ってるんだろう?」
「あ、はい。祭典とかで時折、顔を出しておりましたので……」
「分かった。アマンダ、ジネットをよろしく」
「ま、それぐらいはしても良いか……良いかな? 甘いかな……」
天然物の英雄であるアマンダならば、サリオンの聖騎士に遅れを取ることは無い。ジネット自身も完全に無力ではないので、安心して行くことができる。どういった会話を二人が交わすのか、想像することはできないが……
セネレが演技を始め、ボロを被った哀れな動きで街中に溶け込んでいく。俺は樹槍をフックとロープに変えて、家屋の屋根に飛び乗った。
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ダウンの街は相変わらず小汚い。幾ら田舎者の俺でもこれが一国の首都とはとても思えないほどだ。
屋根の上に立つと見晴らしは良いが、流石に目立つ。しゃがんで慎重に動く……時折手を屋根に付けるが、湿気ってぬるっとした手触りが不快だ。
早く終わらせたいが、そうもいかない。入念に調べてことに当たるべきだ。
俺はサエンザになりたい。だが俺はサエンザではない。
あの男ならこの状況も爽やかにこなしてみせるだろう。だが俺は何かを費やさなければ物事を進められない。
サリオンはこちらの動きを察知している。それは間違いない。奴は神器使いで、同時に権力者だ。誰かを見張るぐらい訳ないこと。
どこかで勝負を仕掛けてくるだろうが、その場所がサリオンの用意した舞台では余りにも不利だ。不利なだけで無く、村のように要らぬ巻き添えが増える。
やはり戦うのならあそこしか無い。王城の内部。敵の巣窟であるからこそ、周りを気にせず戦えるだろう。
その分危険度は増すのが厄介なところだが……
屋根で足を滑らすこともなく、王城の周囲にまでたどり着いた。
周囲を壁が取り囲む形の城だが、壁の高さは自分とアマンダなら登れない高さではない。
外縁にそって動く。この辺りは流石に衛兵が巡回しているが……
「ふわぁ~あ。眠い、ダルい。交代はまだか~」
「初めたばかりだろ」
奇妙にやる気の無い兵達だ。それとも堕落した国の兵士など、この程度の水準なのだろうか? 距離を少し取って、屋根の上に伏せる。
相変わらず気持ちの悪い感触がしたが、兵たちの交代時間などが把握できれば儲けものだ。
「そういえば……明日の夜は舞踏会が開かれるんだったな」
「ああ……聖女様主催のだったか……その間も俺たちは壁と踊っているだけだし、何の関係も無いがなぁ」
……? おかしい。聖女主催?
フォールンの国の聖女と言えば、俺たちと行動を共にしているジネットしかいないだろう。多分。
それが主催の舞踏会? 意味が分からな……
「誘っているのか……しかし、そんな見え見えの罠に飛び込むつもりは……」
ふ、と思いついて愕然とする。
こんな話を流すのはサリオンしかいない。そして、サリオンは俺たちのことを調べ上げているだろう。
「マズい……失敗した……! だが、どっちだ!?」
サリオンは俺が参加せざるを得なくするつもりなのだ。
半端者の考えた準備が最悪の結果をもたらすように……
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