No.12 棺のクロエ

 どうか謎を解き明かして彼女を見つけ出して



 ◆



 クロエという少女が死んだのは、つい昨日のことだった。彼女は国一番の歌姫で、彼女のことを知らない国民はいなかった。


 少女が何故死んだのか、誰も知らない。

 彼女が苦しむことがなかったことを、今はただ祈るばかりだ。


 ◆


 綺麗な顔をした美しいクロエは棺に入れられて、国中を回ることとなった。誰も彼もが彼女の死を悼み、彼女の死を惜しんだ。


「僕は彼女の歌が好きだった」

「私は貴方よりもたくさんあの子のコンサートに行ったわよ」

「ワシはたまにしか彼女の歌を聴かんかったが、まあ好きじゃったよ」

「俺は誰よりも前からクロエの歌を聴いてたんだぜ? それこそまだ地元で歌ってた頃から……」


 思い出を語り合う国民たちの間をクロエの葬列が進んでいく。

 彼らは、彼女の額や手などに惜しむように触れ、別れの言葉を呟いた。

 

 棺が国中を回るのに、数ヶ月かかった。途中、遺体に防腐処理が施されたので腐ることはなかった。



 やがて、棺は彼女の地元に帰ってきた。その頃には、棺の中に枯れ果てた別れ花があるばかりで、どういうわけか彼女の遺体はいつの間にやら姿を消していた。


 ◆


 少女の遺体がどこへ行ったのか、誰も知らない。少なくとも、「知らない」と誰もが口を揃えた。


 彼女が苦しむことがなかったことを、今はただ祈るばかりだ。


 願わくば、どうか安らかに。

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