第17話 桜の花びら

夜中の散歩。

まだ肌寒い春の夜。

トレーナーの中に潜り込んで顔だけ出して、夜の散歩。


月を見ながら、前足をカキカキと掴むように動かして…月に触れるように…掴むように…。


誰もいない…川辺の桜。

散りかけた桜の木、暗闇に…月明かりに…散りかけたその姿は、それでも美しさを浮かび上がらせる。


誰からも見捨てられた桜の木…。


キミの前足を木に触れさせてみる。

前足をチョンと置いたまま、僕の顔を不思議そうに眺めるキミ。

そんなキミの身体に桜の花びらが舞い落ちた。

薄いピンクの花びら、ひとひら…。

キミの目の前に持っていくと、クンクンと匂いを嗅いで、フイッと顔を背ける。


そうだね…桜は、見て楽しむものなのかもしれないね…。

でも…一枚だけ、持って帰ろうか…。

キミの水飲みにそっと浮かべてみたけれど…邪魔みたいだね…。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る