第14話 たゆたゆの邂逅

□第14話□

□たゆたゆの邂逅□


 ――ウルフとドライブ?


 ガタガタガタタン。

 ガッタンコッコ。


 にゃーはわ!


「スターにゃんこの寅祐さんが……」

 むくが、蒼い顔で寅祐さんを優しく抱いた。


 にゃにゃんー。


「寅祐さん、甘えているの? ウルフおじいちゃま、ゆっくり走れますか」

 むくは、水色のカチューシャに白いレースの上下で、後部座席から身を乗り出した。

「大丈夫じゃ。ぶつかった事はないしの」

 ウルフは、呑気に運転していたが、車は呑気ではなかった。


 ガタッコガタッコッコ。


 うにゃうにゃ。


「寅祐さんが、泣いています。可哀想です」


 にゃーにゃはにゃはにゃは。


「喜びの歌ではなかったのかの……」

 ウルフは、肩を落とした。

「ウルフおじいちゃま、むくが車をプレゼントします」

 本気であった。

「ええ? むくちゃんのお小遣いは、玲ぱーぱから、月に三〇〇〇円じゃろ?」

「むくは、貯金箱あります」

 奮発するつもりであった。

「三〇〇〇〇〇〇円は、いつ貯まるのかの?」

「アチャ。何とかなります」


 キイッ。

 ガタッコ。


 ――知り合いのいる、にゃんこっこより。


「着いたぞい」

 ウルフは、後部座席へ行き、先ず、むくから寅祐さんを受け取った。

 むくは、後からすっと降りた。

「ここは……。寅祐さんのねこカフェ、にゃんこっこ」

 むくは、感慨深く花々や木戸、看板に煉瓦道をじっくり見た。


「むくは、ウルフおじいちゃまが、お車で団地のお家に来てびっくりしました。ドライブをすすめられて、まさか、寅祐さんも乗っているとは思いませんでした」

 はうっとため息をついた。

「暫く、むくちゃんが、見えないので寂しかったわい。“JMじいむく”じゃよ、儂らは。遠慮は要らないのう」

「少しだけ、考え事していました」


 にゃはー。


 ウルフの胸の中で顔を埋める寅祐さん。

「可愛いです」

「可愛いのう」


 キイッ。


 木戸をくぐった。

「にゃんこっこは、お久し振りですね、ウルフおじいちゃま」

 左に傾げて、微笑した。

「そうじゃの」


「にんげん二名に、スターにゃんこの寅祐さんじゃ」

 かるぴーすと言うダブルのサインを出した。

「お帰りなさいませ、にゃんこっこ!」

「お帰りなさいませ、にゃんこっこ!」

 にゃんこっこお姉様に元気良く迎えられた。

「寅祐さんは、なかよしドライブの後なので、ケアをします。お預かりしてもよろしいでしょうか?」

「勿論じゃ」

「はい。お願いいたします」

 二人は、はなよにゃんこっこお姉様に大切にお返しした。


 むくがちょいちょいと手を振ると、寅祐はにゃんこっこパンチをしてくれた。

「商運で、車が買えます」

 むくは、縁起良く感じられた。

「ソフィーちゃんは、おらんかのう。鈴ちゃんもな」


 ♪ かっわいい、かっわいい、にゃんこっこ。

 ♪ かっわいい、かっわいい、にゃんこっこ。


「お!」 

 ウルフは、嬉々とした。

「にゃんこっこタイムですね、ウルフおじいちゃま」

 むくは、合いの手を入れた。


 ♪ かっわいい、パン。

 ♪ かっわいい、パン。

 ♪ にゃんこっこ、パンパン。

 ♪ かっわいい、パン。

 ♪ かっわいい、パン。

 ♪ にゃんこっこ、パンパン。


「わあ! 楽しいです! スターにゃんこ達の愉快な舞に合いの手も!」

 むくにしては、はしゃいでいた。

「ふふっ。良かったの」


「お帰りなさいませ、にゃんこっこ!」

 背の高い女性が、入って来た。

 スターにゃんこを抱っこしていた。

「私とソフィーちゃんね。それから、後でもう一人来るわ」

 その女性は、入り口を指した。

「ソフィーさんは、なかよしお散歩の後なので、ケアをします。お預かりしてもよろしいでしょうか?」

「ええ、お願いね」


 ふう、にゃんっ。


 さやかにゃんこっこお姉様に飛び乗った。


 ♪ かっわいい、かっわいい、にゃんこっこ。

 ♪ かっわいい、かっわいい、にゃんこっこ。


「こんにちは。土方むく様」

 声の主を見た。

「Aya様……」

 相変わらず、にゃんこっこタイムが続いている。


「土方むく様は、“ジレとアデーレ” の絵は気に入ってくださったかしら?」

「はい、とても好きな絵です」

 簡素に伝えた。

 初めて見た時の感動は、表し難かった。

「あちらの壁側の席にいらっしゃらない?」

「お話があるのですね」

 こくりと頷いた。

「ええ」

 そこで、Ayaはアッサムティー、むくはココアを頼んだ。


「貴女の描いた二人が寄り添う絵を見たわ」

「それは、アトリエにあります。どうやってご覧になったのですか?」

 むくは、疑問に思った。

「鍵なんて簡単に開きますわ」

 Ayaの開ける仕草は、本物の手つきだった。

「お伺いしたい事があります。赤い×バツをご存じですか?」

「私ではないわ。犯人ではなくて、ごめんあそばせ」

「色々と情報をお持ちですね。Aya様、身構えていませんか? 虫食いの手紙を受け取った時もそうでした」

「あ、あら……。そうかも知れないわね。改めるわ」

 殊勝なAyaをむくが引き出した。


「貴女の絵は素敵ね」

 デジカメで撮って来た絵をむくにも見せた。

「ありがとうございます。でも、そんな事ありませんよ」

 真摯な眼差しに謙虚さが滲み出ていた。


「売ってくれるかしら?」

「え? これを?」

 かなりびっくりした。

「売り物ではございませんので。それは、できかねます」

 困ってしまった。


「この絵が、人を救うとしたら?」

「私の絵が……? 何故そうなるのですか?」

 驚きと疑問が混ざりあった。

「私の好きな人をある組織から救うのに、“ジレとアデーレ” が要るのです」

 それは、彼、Kouの事であった。


「では、地下室にある本物は、駄目なのでしょうか。あの絵も素敵ですが、どうしてもと言われれば……」

「あれは、とっくに持って行かれました」

 Ayaは、残念な気持ちを隠せなかった。

「ええ! 知らなかったです」

 暫らくして、むくが続けた。

「では、どうしましょうか……」


 Ayaは、組織から抜け出られないKouを心底気遣っていた。


 むくは、Ayaを直感的にいとおしく思い、共に悩み出した。


 二人の邂逅は、たゆたゆと流れた。

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