「いつか二次元で嫁にあった時に英語がしゃべれないのダメかなと思って」後編
五分後、國橋君が合流した。
「あれ、そのイケメン誰?」
それが今日私と会った國橋君の第一声だった。二人と同じように説明。
随分買い込んだようで、本屋さんでもらえる袋がとても大きく膨れ上がっている。どうやら漫画を大人買いしたらしい。國橋君は深夜帯に勤務してるので、それなりにお財布は厚いようだ。
「四人か……うまい飲み屋あるんでそこでいいですか?」
「あんたまだ未成年でしょうが!」
何故國橋君がおいしい飲み屋を知っているのかは、聞くまい。
ちなみに年齢は順番に、國橋君19歳、蛍ちゃん20歳、夕夏ちゃん21歳。
三人とも別の大学で、別の学部なのだけど、アルバイトってそういう人とも仲良くなれるのがいいところだと思う。
「じゃあ、いつも通りファミレスでいいよね?」
蛍ちゃんの意見に横に首を振る人たちはいなかった。
「ところで、そちらのレディは外国の血を引いているのか?」
「はい。母がフランスの人です」
夕夏ちゃんは金髪碧眼で眼鏡にポニーテールと、属性をふんだんに盛り込んだ女の子だ。美少女がたくさん出てくるアプリゲームの中から現実に来ました、とか言われても信じられる。
「フランスか」
「何か?」
「いや、観光しにぐるりといったことがある。いい国だった」
イギリス人がフランスをいい国と言われるとすごく違和感がある。
私が好きなアニメキャラの方のアーサーも、フランス人のルイスととても仲が悪くて、「これだからフランス人は」という言葉をよく使う。
「私の母国がフランスというわけではありませんので、褒められてもうれしくはないのですが。母に伝えておきます」
「ああ」
少なくともこちらのイギリス人とフランス人は仲良くなれそうだった。
「アーサーさん、何頼みます?」
すっと、アーサー君の前にメニューが置かれる。と言ってもアーサー君は吸血鬼。メニューを見ても思うのは基本的に「どれでもいい」だ。だからあまり外食はしない。
「俺は……」
「アーサー君好き嫌い多いもんね。私と一緒にしておく?」
「あ、ああ。そうする」
決めてない最後の一人のアーサー君が決まったので、蛍ちゃんがウェイターさんを呼び、各々注文を済ませる。
「好き嫌い多い男ってモテませんよ?」
「? モテたいと思ったことがない」
なんて、嫌味も甚だしい言葉を発するアーサー君。そりゃ吸血鬼の美男子ですから、女の子なんてより取り見取りでしょうよ。
「はぁ!? 男なら一回くらいは思うでしょ!? あんたモテ男か?」
小声で「もておってなんだ」とアーサー君は私は「女性関係に困ったことがない人のこと」と答えておいた。多分そういうことだっただろう。
「女性関係で困ったことは恐らく……いや、あった」
「「なんだって!?」」
私と國橋君と一緒に驚く。美形の吸血鬼に女性が寄ってこないことなんてあるのだろうか。ともあれ私は今まで話されなかったアーサー君の過去に興味を持つ。
「そんなに目をキラキラさせて聞くようなことではない」
ってグイっと目を、というか頭を押される。くっそアーサー君身長小さいくせに手が大きいな。眼鏡にべったりとついた手の油を紙ナプキンで拭きながら、アーサー君の話に耳を傾ける。
「わかりやすく言うと、『幼馴染がヤンデレだった』だ」
その言い方で納得するのは私と蛍ちゃんと國橋君だけである。
「あー」と声を発する私たち三人に対して、首を傾げる夕夏ちゃん。
「すみません、アーサーさん。もう少し具体的な説明を求めます」
「ああ、レディはこの単語がわからないのか」
「すみません勉強不足で」
「いや、知らなくても生きていける物はこの世に多いのだし、知らなくても問題はない」
いつになく、アーサー君の声が優しい気がする。
複雑な気分だ。
「『お兄様は私のものです! 私とずっと一緒にいてください!』と言われ続けた、と言えば分るだろうか?」
「それはわかりやすい説明です。ありがとうございます」
なんか英語の教科書の和訳みたいな会話してるこの二人。見た目も似てるし、隣に座っていると本当になんか兄妹みたいだ。身長は夕夏ちゃんの方が大きいけど。
「はぁー、モテ男にはモテ男の苦労があるんだな」
「そうだな。だからミスター」
くいくい、と右手の人差し指でくいくいと國橋君に近づくようにジェスチャー。耳元で何かを言って。それを見た私と蛍ちゃんはLINEでお話し。
『今の! 腐女子としてはおいしいものを見たような気がする!』
『Me too!!!』
「二人とも、人がいるときにスマホを触るのはマナー違反です」
「「ごめんなさい」」
そんなこんなで。
皆とお食事が終了し、私とアーサー君は帰宅。
「そういえばアーサー君。國橋君になんていったの?」
「男同士の秘密に首を突っ込むな」
男同士の秘密!
これは蛍ちゃんに報告せねば!!
胸の内で決心をしつつ、私は今日一番の疑問をアーサー君に尋ねる。
「そういえば、夕夏ちゃんにやけに優しかったね? 何で?」
「髪型とか目つきとかがな、母さんに似てたんだ」
「へぇ」
意外なことを知った。
今日はいろいろ収穫を得られた日だったかもしれない。
アーサー君は意外とお母さん思い。
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