第6話 宇宙大要塞


 メイ少将が解読したメッセージプレートの内容は、ほとんどが

「アセラ人の基礎知識」であった為、オレは、つむぎから教えを請う

ハメになった。



 太陽系の惑星配置を見て疑問に思ったことはないだろうか?…内側から

質量の小さな星が4つ並び、次に最大の質量を持つ木星が突然あらわれる。


 

 さて、アセラの古代史によれば、木星の内側の軌道には、木星よりも

さらに大きな惑星「グランデ」が存在し、地球などの小型惑星は、アセラ

を含めて、グランデの衛星だったらしい…ちなみに月や火星の衛星も、

もともとは、グランデの衛星なのだそうな。


 グランデは巨大な質量から、惑星と恒星の中間のような星で、見かけは

ガス惑星だが、内部では、小規模ながら連続した核融合反応が続いていた。


 30億年前、グランデに炭素星が衝突!…炭素の触媒効果でグランデの

核融合反応は一気に加速し、数年を経ずして爆散した。


 グランデの衛星104個の内、地球などの星は、かろうじて太陽系に

留まったが、アセラを含め大半は太陽系を追放された。このときアセラ

人は地球に、その歴史を残したメッセージプレートを送り出した。


 地球はまだ、最初の生物が誕生したばかりだったが、いつしか高度な

知能と文明を手に入れたとき、このメッセージが役に立つと考えたの

だろう…


 プレートの内容はここまでだが、アセラ星の歴史には続きがある。


 太陽の光を失ったアセラ星は、深刻なエネルギー不足に陥り、人口の

99.99%を地下空間で冷凍睡眠させる以外に手段が無かった。


 約20億年前、アセラ星に巨大隕石が衝突…太陽系から遠ざかり続けて

いた力は相殺され、わずかに太陽系の方角に向かう力になった。


 太陽系は銀河系の渦状構造の外郭に位置し回転している。アセラが

放り出された方向が、たまたま太陽系の進行方向であったおかげもあり、

太陽系への帰還を果たしたワケだが…


 あろうことか、今度は地球との衝突コースに乗ってしまって現在に至る

…と、まあ、こんな感じ…



 「なあ、30億年も前に高度な科学文明があったアセラ人は、いつから

 どんな進化をしてそーなったんだ?」



 「私たちの祖先は…他所の星から宇宙船でやって来たと…歴史の時間に

 習いましたよ」



 「げええ…何だそりゃ?…反則じゃんか…」


 まてよ、そういえば…連中の船を調べた時、ミサイル系の兵器が

ひとつも無かった…仮につむぎの言う通りなら、アセラ星の地下には

化石燃料が存在しない…


 …意外と有機物は希少なのかも?…ヒドラジンなどは無機物だが

猛毒だし、液体水素も低温で扱いにくい。我々のような固体燃料

ロケットは難しいのかもしれない。



 「大佐…ちょっと休憩してコーヒーを…」


 オマエ!教える側の立場を利用して、何杯飲ませる気だ!…もう無理!

決めた!逃亡する!!


 講義から本気で逃げ出したオレだったが…いよいよ、この戦争も最終局面

が近付いている…「アセラの断片」第3波の到来が迫っているのだ…まあ

貴重な情報だから…もう一度、つむぎさんに頭を下げて教えてもらおう…



 我が軍は今回も偵察艦を派遣した…第3波の巨大隕石は2個…毎度のこと

ながら、撃沈された無人偵察艦には、謹んで哀悼の意を捧げよう…



 …で、得られた情報によると、敵は隕石1個につき宇宙怪獣1体と、3個

艦隊…今さら驚く数でもない。


 我が軍は1個艦隊が増えて、計8個艦隊、巨大戦艦も2隻増えて、計4隻、

ガム爺が言うには「度重なる実戦を経て我が軍の練度は最高潮…新設の

第8艦隊以外は、1艦隊同士なら、ほぼ互角に戦える!」と豪語している。



 しかし…やっぱ戦術的には、前回同様「各個撃破」でいきたいのよ…


 前回の補給艦隊は改造されて、第8艦隊になってしまった…ので

使えないですが…実は、こんな事もあろうかと!…第1ステーションの

推進器増設を、かえでさんにお願いしていたのだ!


 「こんな事もあろうかと!…」…て、いっぺん言ってみたかったけど、

実際、心の中で叫んでも、空しいだけだったわ…



 …というわけで、補給は第1ステーションが担当する…足が速くなった

とはいえ、艦隊や第3ステーションほどには速くない…よって2日掛けても

進出距離は前回の半分ほどだが、隕石も少ないし、まあ、それはそれで、

いいんじゃない。


 そして第3ステーションは、やっぱり修理中で今回の作戦には同行しない…

うーん残念!


 つむぎは、副官としてオレと同行する。パイロット兼司令官だった頃より

なんか居心地が良さそうだ…そりゃ、不味いコーヒー入れて、あとはテキトー

にやってりゃ務まるお仕事だから…ホントは違うんですよ…ポカされたら

困るから、オレがやってあげてるだけだから…うう(涙)



 ……2日後……



 やってまいりました!最初の隕石…ですが…あれ?…敵が…いませんよ…

番犬の宇宙怪獣もいない…何ですかこれは?…



 敵が地球方面へ向かった形跡は無い…そこは前回の「大ポカ」から反省して、

索敵はキチンとやってるハズなんだけど…


 やり過ごしたのでなければ、もうひとつの隕石の所だろう…敵も各個撃破を

警戒して、戦力を集中する気か…


 ま…とりあえず、この無防備な1個目の隕石をブッ壊してしまおう。



 「艦隊へ打電…核攻撃開始」


 隕石は、あっさりと砕かれ、各艦隊は、第1ステーションで補給を受ける…

さてと…次が本番…


 隕石2個目…いました、いました…中央に怪獣2体、左右に3個艦隊ずつの

計6個艦隊…文字通りの総力戦です。



 「第1から第4艦隊は左、第5から第8艦隊は右の艦隊を攻撃!できるだけ

 隕石から引き離せ!…巨大戦艦4隻と第1ステーションで隕石と怪獣を叩く!」


 1から4艦隊は優勢…5から8艦隊はやや苦戦気味か…しかし予定通りに

敵を隕石から遠ざけてくれている。


 さあ、中央勝負!この日の為に第1ステーションには、4基の大型リニア

レールガンを装備済みだ…どっからでもかかって来なさい!



 …………



 …来ませんね…アイツらは、隕石をガードするように躾られているので、

もっと近付かないと襲って来ません…うん知ってた…


 レールガンを命中させる為にはこっちも近付かないと…でも、怪獣の光線、

当たると痛いんだよなー


 ここはひとつ、オトリにミサイルを撃ってみよう…あ…どうせ命中は

しないから、弾頭は抜いといて…ヤツが気を取られているうちに接近する。


 オトリミサイルは簡単に破壊された…しかしあのヤロー、オトリを見も

しない…翼や尻尾の光線で簡単になぎはらった。…そして一番強力な首

からの光線は、こっちに向けて撃ってきた!…おいおい話が違うぞ!



 「こうなったら、もうやけくそ! レールガン、撃ちまくれ!」


 全艦一斉に徹甲弾を撃ち始める…第1ステーションに4基、各巨大戦艦

に1基ずつ…あーあ、たしか第3ステーションは16基だっけ…ここに

いてくれれば楽勝なんだけど…


 …などと考えている間に、勝ってしまった…宇宙怪獣2体…わりと

早かったなー…こっちもそれなりにダメージを受けたけど、幸い

巨大戦艦は1隻も撃沈されてはいない…さあ、急いでブチかまそう。



 「核ミサイル、攻撃開始!」


 最後の隕石は破壊された…地球は救われた…はい・ハッピーエンド…



 …あれ?…違うの?…



 「距離6万kmに巨大な人工物体…直径…約100km!」


 なんだそれー!?…んなデッカイもんが、どうして6万キロまで気付かん

のよ?…まさか、ステルスか?…


 直径が第1ステーションの10倍ってコトは、質量だと1000倍って…

ん…この計算、そういえば前にもしたな…宇宙大要塞…あんなのに勝てんの?


 敵艦隊は後退して要塞の周囲に展開した。次の瞬間、オレは自分の目を

疑った。



 「なんだ…あれは?」


 要塞から放たれる無数の赤い光…我々を攻撃しているのではない…



 「そんな!?…味方を攻撃している!」


 つむぎは、悲鳴のように言った…そりゃ、あんなモン見せられたら、

オレだって怖いわ!


 以前の、かえでさんの言葉を思い出した…赤色光線は生命エネルギーを

吸い上げるのが真の目的だと…


 間もなく光線はおさまった…敵艦隊に変化は無い…しかし、おそらく誰も

生き残っては、いないのだろう…



 「全艦隊集結!…補給および修理急げ!」


 勇気を振り絞って号令を飛ばす!…あれを倒さなくてはならない。



 「司令、要塞の周囲に何か発生しました」



 「クラゲ…さん?」


 つむぎさん…何を言っているんですか…あれ?…でも、このカタチ…

この触手…たしかにクラゲっぽい。


 20体ほどのクラゲは要塞の周囲をガードしている。まるでさっきの

宇宙怪獣のように…コイツも宇宙怪獣の一種なのか?


 何でもいい…とにかく戦うだけだ…やがて戦闘準備は整った…



 「全艦、敵巨大要塞に向けて進軍せよ」


 やはり…というか…クラゲは反応した…触手から光線のような、稲妻の

ような、電撃のような、よくわからない「何か」で攻撃してきた。


 攻撃を受けた艦は「超ド級のカミナリに撃たれたようだ!計器類が全部

過電流でブッ飛んだ!」と報告してきた。


 電気クラゲは、電気じゃなくて毒でしびれるのに、ホントに電気を出して

くるなんでズルイぞー!!


 などと言っている場合ではない。事態は極めて深刻だ…なにしろクラゲ

には光学兵器も物理兵器も効果が無いのだ…レーザーは無効…徹甲弾は

体をすり抜ける…もうお手上げだ!



 「クラゲは無視して要塞を攻撃!」


 …だが、この指示が無謀なのは、オレ自信もよくわかっている…わかって

いるが…どうしようもない。


 クラゲだけでなく、要塞の攻撃も苛烈極まる…次々と破壊されていく

味方艦…だが、どうしても巨大要塞を倒さねばならない。



 「通信が入りました!連合宇宙軍総監です!」



 「おい、バカ息子!、オマエ艦隊を全滅させるつもりか?…援軍に来て

 やったから、ここまで後退しろ!」


 援軍!?…地球にまだ戦力があったのか?…とにかく、今はハゲ…じゃ

なくて、親父の指示に従うより他に無い。



 「全軍、後退!…友軍の待つ位置まで撤退する!」


 地球防衛艦隊は、この日、初めて…敗走した…

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