第4話 史上最大の戦い

 

 敵が戦力を「小出し」にしてくれる事は、何かにつけて、とても

ありがたい。



 彼らとしては、すでに地球人を壊滅、あるいはその寸前まで追い詰めて

いる筈だったのだろうが、ちょっとナメて掛かり過ぎていたようだ。


 おかげさまで、赤色光線や宇宙怪獣への対策に時間を掛けることが

できた。


 宇宙怪獣は、光学兵器を受け付けないので、物理攻撃が有効と判断

した。幸いヤツは任務に忠実なあまり、自らの回避行動をおろそかに

しがちである。


 だが、ロケットブースターを用いると燃料部が弱い為に、簡単に迎撃

されてしまう。したがって全長2千mもの加速レーンを持つ、巨大リニア

レールガンによる徹甲弾攻撃が考案された。


 これは、通常の戦闘艦の全長をはるかに超えており、専用の巨大戦艦を

建造するのと同時に、通常戦艦用の200m級リニアレールガンも開発

された。こちらは針が刺さる程度のダメージしか期待できないが、何百本

も当てれば、さすがに宇宙怪獣を撃退できるだろう。


 第1ステーションへの巨大レールガン配備については、当面後回し

にして、他の工事を優先させた。なぜなら、第1ステーションが宇宙

怪獣と直接対峙する局面は、隕石とステーションが激突する寸前と

考えて良いからだ。



 …だが、この判断は後にオレを後悔させる事になる。



 「アセラの断片」たる隕石群は、大きく分けて3波の襲来が予想されて

おり、第1波はすでに迎撃した…第2波は最も規模が大きく、人類絶滅級

の巨大隕石が3個含まれる。


 今度ばかりは、敵も戦力を出し惜しみしないだろう…と思い、強行偵察艦

3隻を事前に出航させ、戦力分析を試みることにした。


 なぜ3隻かというと、偵察艦は無人で、武装も無い。敵に壊されるなり、

乗っ取られるなり、やられたい放題なのだ。また、隕石も3個が横一線に

並んでやって来るのではなく、ある程度の時間差をつけてやって来る。


 なので、1隻では敵の全容を知る前に、偵察艦が失われる可能性が高い。

3隻で3個の隕石の側面から同時に偵察する。側面からの観測で隕石の影

に隠れている宇宙怪獣も発見できる。



 偵察艦は任務を果たすと同時に撃沈された。ありがとう…無人艦だけど

…君たちの努力は決して忘れない。



 …結果わかった事だが…敵は隕石1個につき、宇宙怪獣1体と2個艦隊

…早い話が、隕石が3個になったので、前回の3倍の兵力を投入してきた。


 イキナリ、兵力3倍なんて、そんなのアリかよ?…さあ、どうする?…

困った、困った…うーん



 我が方の戦力は、相変わらずの7個艦隊と第1ステーション、そして新たに

加えた巨大戦艦が2隻…ホントは、ここに建設中の第3ステーションを加え

たい。


 親父の話によると、ラグランジュポイントで建設中の第3ステーションは、

従来の総合司令部型ではなく、戦闘特化型になるらしい。艦艇の整備機能や

指揮機能は無く、代わりに高い機動性と各種武装を詰め込んだ、いわば

ステーションサイズの超巨大戦艦になるらしいのだ。


 しかし、完成しなければ戦力には加えられない…ぐう残念。


 一晩考えて…翌日、メイちゃんに作戦を伝えた。



 「第1ステーションを除く全軍を出撃させて各個撃破を試みる…

 今までのように水際で食い止めるのではなく、こちらから先に撃って

 出る」



 「我が艦隊は、徐々に後退しながら全戦力で1個ずつ順番に隕石を

 潰してゆく…敵艦隊がどう動くかは、わからないが、宇宙怪獣は

 おそらく担当の隕石から離れないだろう。」



 「待ってください。我々の艦艇は長距離遠征用ではありません!」


 うんうん、もっともな質問だね。さすがメイちゃん。



 「こちらの戦闘艦は、もともと火星移住用の移民船を改造したもので

 原子炉の耐久性は十分だ。2、3日の距離なら遠出しても問題は無い、

 巨大戦艦は…もし遠出が無理な場合は、途中行程を味方艦で曳航

 させればいい」



 「しかし、核ミサイルや、徹甲弾は補給が必要です!」



 「月面基地には、改造待ちの移民船が100隻以上残っているハズだ、

 それを補給艦として使う」


 そこまで聞いてメイちゃんは納得してくれたようだ。早速テキパキと

指示を出し始めた。さすがというか、この辺で楽ができるのは、誰かさん

とは違うなー…でも、寂しいから早く戻ってこないかなー。



 やがて、準備は整い艦隊は発進する。片道2日の行程だから、通信の

タイムラグは5、6秒しか発生しない。とはいえ、通信妨害を受ける

可能性もあるし、安全な場所からふんぞり返って指揮をするのもオレの

性に合わない。


 艦隊の指揮権はガム爺に一任した。がんばってねー!


 ガム爺は、猪突猛進なイメージがあるが、ああ見えて結構冷静さを

わきまえていたりする。親父とライバルってのも、わかる気がする。

まかせて大丈夫だろう。



 ……二日後……



 いよいよ、戦闘開始である。全艦一斉に最初の隕石に襲い掛かる。

宇宙怪獣に向けて、ヤリのような徹甲弾が無数に飛んでゆく。

中でも、ひときわ巨大なヤリは2隻の巨大戦艦が放ったものである。

敵の護衛は2個艦隊から増強される様子はなく、1番目の隕石を

なんなく粉砕した。


 艦隊はすぐさま後退して徹甲弾とミサイルの補給を開始する。

このときが危ない…それはガム爺もよくわかっている。


 予想通り敵艦隊が来襲…しかし、補給の大半はフェイクであり、

反撃用の艦隊がすぐさま迎撃を始める…敵は機先を制され後退した。


 補給は少しずつ…チビチビと行われる。その間、艦隊は隕石と

相対速度を合わせ後退を続ける…時間はかかるが、そのために

2日もかけて先行したのだ。


 やがて、補給を終えると次の隕石に襲い掛かる。このとき

不安なのが無防備の補給部隊だ。改造前の移民船の座席を外して

大急ぎで輸送船に仕立てたもので、致命的なのは赤色光線に対して

無防備なところだ。


 …なので、戦闘中…補給艦隊は可能な限り後退して敵の襲撃を避ける。

この後退距離も2日間先行させる理由にしっかりと組み込まれている。


 やがて2番目の隕石も破壊した。


 「やるなあガム爺…なんか安心して見ていられるわ」


 艦隊が最後の補給に入った時、それは起きた。



 「3千m級の隕石が、第1ステーションへの衝突コースです!」



 「その隕石ならとっくにミサイルを発射したハズだ…不発だった

 のかな?」



 「敵艦隊発見!距離1万5千km!」



 「なんですとー!?」


 ここにきて、大ポカをやらかしていた事に気付いた。敵が大軍を

投入してきた事で、それ以外の戦力は無いと、すっかり思い込んで

しまっていた。


 敵2個艦隊と宇宙怪獣1体が、ステーションよりも小さな隕石に

隠れてこっそり接近していた。今から先行した艦隊を呼び戻しても

遅い!


 完全にしてやられた!


 艦隊だけならまだしも、宇宙怪獣に対抗できるリニアレールガンは、

第1ステーションには、まだ装備していない…つまり戦っても勝てない。



 衝突と同時にステーションを自爆させれば地球への被害は防げる…



 「総員退去!」


 オレが命令を出すとほぼ同時に、オペレーターは何かを発見した。



 「隕石のさらに後方、急接近する大型の物体を確認」


 こん畜生!まだなんかあんのかー?…泣くぞもう…う…何だあれは…?



 「あれは…第3ステーション!」


 メイちゃんが叫んだ…うそ…でもその通りなら、願ってもない援軍だ!



 「総員退去やめー!みなさん持ち場に戻ってー!」


 オレの情けない命令がこだまする…ホント…カッコ悪い…


 第3ステーションが隕石に追い付くと、さっそく宇宙怪獣が向かえ撃つ。

そこに次々と巨大な矢が放たれる。あとで聞いたら第3ステーションは

巨大レールガンを16基も装備していたらしい。


 宇宙怪獣はあっという間に串刺しにされてしまった。


 ガンマ線レーザーの威力も宇宙艦隊の比ではない。次々と敵艦が爆発する。


 あまりの強さに、空いた口が塞がらない…スゲー…これが地球の切り札

なのか…


 オレは、ある事に気が付いた。赤色光線が爆発せず通過しているのだ…

あのステーションは無人なのか?…だとしたらハッキング対策は?


 などと考えている間に、第3ステーションは敵艦隊を全滅させてしまった。

今まで優勢に立つことはあっても、艦隊にとどめを刺せたことは無かった。


 …逃げる余裕を与えないほど強いのか…



 「月面基地より入電、連合宇宙軍総監です」


 げげ…よりによって親父かよ…



 「よう、バカ息子!どーだ!生きた心地がせんかっただろう、

 バーカ、バーカ…」


 ぐうう…あのくそオヤジー!…次に会ったら、残りの髪の毛1本残らず

ムシり取ってやる!



 「第3ステーションが稼動試験中に敵を発見したのだ。司令官に土下座

 して礼を言うんだな」



 「司令官だって?…あれは無人兵器ではないのか?」



 「人間1人だけで制御する超巨大有人兵器…それが第3ステーションじゃ」


 オレは、親父に言われたからではなく、自分の意思で第3ステーションの

司令に土下座することにした…くれぐれも、自分の意思で決めたんだからな、

嘘じゃないぞ…ホントだってば!



 第3ステーションがドッキングアームを伸ばす…連絡艇ではないのか?


 エアロック確認…ゲートオープン…オレは扉の前で土下座して床に頭を

こすりつけて出迎えた…


 「この度は、稼動試験中にもかかわらず、救援に来ていただき真に感謝

 しております…この上は、私に出来る事でしたら、なんなりとお申し付け

 ください」


 なんか、殿様と家来みたいな口上になったな…



 「では、私の入れるコーヒーを毎日十杯、飲んでくださいな」


 え!?…その聞き覚えのある声…オレは、顔を上げた…



 「お久しぶりですね…大佐」


 つむぎさん…なんというか…ああ…声が出ない…



 「コーヒー十杯…約束ですよ」



 「あっ…いや…やっぱ無理…それだけは…コーヒーだけは…後生だから…」


 結局、つむぎさんに泣きついて、コーヒーは1日2杯に負けてもらった。



 ところで、こうしている間も、ガム爺は戦い続けていた。


 …数時間が経過して…無論、我が軍は勝った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る