宇宙大艦隊

しふしふ

第1話 司令官就任


 「あー…かいつまんで説明すると…宇宙から来た惑星が、地球にぶつかりそうに

 なりました。地球人は火星とかに逃げようとして、移民船をたくさん造りました」



 「ところが、その惑星「アセラ」が突然爆発しました。…なので移民の必要

 はなくなりました」



 「変わりに、星の破片がたくさん落ちて来そうなので、移民船に武器を積んで

 隕石を壊すことにしました。…こうして、現在の「地球防衛艦隊」が誕生したの

 です…」




 ……………………ふう。




 「大佐、おつかれ様です」



 「なんで、オレが小学校で、ガキ相手に講演せにゃならんのだ…そんなの広報の

 連中がやれってんだ…まったく…ブツブツブツブツ…」



 「子供相手で、結構楽しんでいたじゃないですか…」



 「それは……」


 …ワリとその通りだったので…言い返せなかった。



 オレは、地球連合の軍人で「大杉 小太郎」(オオスギ コタロウ)階級は大佐。

そっちの女性は、副官の「海堂 つむぎ」(カイドウ ツムギ)階級は中尉。


 父は地球連合宇宙軍総監「大杉 大五郎」(オオスギ ダイゴロウ)、オレは

このオヤジのおかげで、何かと雑用にコキ使われる日々を送っている…大佐に

なれたのは、親の七光りで、実力は無かろう…と、もっぱらの噂である。



本日は、また親父…もとい総監に呼ばれている…今度は、どんな雑務を押し付けて

くるのやら…



 「やあ、息子よ…よく来たな」


 …息子だからって、ムスコって呼ばなくてもいいじゃんか…こんなんだから

オレは30過ぎても、周囲から大人扱いされないんだぞ!



 「嫁は元気か?」



 「あれは、嫁じゃなくて副官です!…元気ですよ…ちょくちょく会ってる

 じゃないですか…」


 副官を、嫁と呼ぶのにも理由がある…つむぎは、7年前に、父の権限で

強引にオレの副官にさせられた…当初は、なるほど…一般常識に欠ける、

典型的な役立たずであった…他の部署だったら即刻クビだろう…最近は、

まあ…そこそこマシになってきた。



 「…で、本日の用件だが、宇宙艦隊の総司令官をやってくれ」


 …は?…それって雑用なの?…なんか、いつもと比べてスケール大きくない?



 「オヤジ…頭は大丈夫か?最近、いっそうハゲに磨きが、かかって

 いるようだが…」



 「話は以上だ…オマエは明日から第1ステーション勤務な」


 親父は強引に話を打ち切った。なおも食い下がろうとしたオレは、SPの

みなさんにつまみ出された。



 …艦隊総司令官って…オレに、宇宙人との戦争の指揮を取れと?



 地球連合は、宇宙人の存在など公式には認めていない。…しかし雑用係でも

わかる…隕石を壊すだけで、あれほどの改造はしない。移民船から立派な軍艦

になったフネをたくさん見てきた。



 「総司令官就任おめでとうございます!」


 つむぎさん…なんでもう知ってんの?…あなた実は、親父とグルなんじゃね?



 「おめでたくねえよ!…また親の七光りで出世したって言われるに決まっている!」



 「あらあら、そんなことを気にしていると、大きくなれませんよ…」



 「オメー!それ子供に言うセリフだろ!30過ぎの大人に言うなよ!」


 つむぎは、すでに出発の準備を整えていた…コイツ本当に、いつから準備して

いたんだか?…こうして、オレは第1ステーションへ向かう事になった。


 シャトルで1時間半…大移民計画で宇宙も近くなったもんだ…さすがに

軌道エレベーターとまではいかないが、超大型リニアカタパルトのおかげで、

シャトルの燃料搭載量は激減し、燃料タンクに断熱シールドを付加できて、

メンテ費用も安くなった。



 なんて考えていたら…もう到着か…第1ステーション



 予想通りというか…なんと言うか…歓迎されていない…これは、針のムシロ

ってヤツですかい?


 …で、就任早々に隕石迎撃を想定した大演習が予定されている。いわゆる

紅白戦みたいなもので、新任の司令官に恥をかかせる気がムンムン漂ってくる。


 兵の信頼を得たいなら、実力で勝ち取れと…そんなもん、いらねーから

ワザと負けて帰ろーかな?



 「大佐…わざと負けようなんて…考えたらダメですよ」


 つむぎさん、なぜオレの心を読んだ発言をする?エスパーかおまえは?



 「しかし…なあ…」


 今回の演習は、オレの指揮する防衛側と、ガム爺の指揮する攻撃側

での戦いとなる。


 ガム爺というのは、ガムズフェルトなんたらかんたら中将…という提督

のことで、略して「ガム爺」となる。若い頃は親父とライバル関係に

あった様で、息子のオレをヘコましてやろうと、俄然…燃えているらしい。


 我が方の戦力は、4個艦隊…それと、この第1ステーションにも1個艦隊

相当の戦闘力がある。


 対する攻撃側は、隕石に見立てた廃棄ステーション(戦闘力ゼロ)と

2個艦隊…なぜ隕石に艦隊が付属するのかは謎である…やっぱ暗黙の了解で

宇宙人がいるコトになっているのだろう。


 戦力なら我が方が断然有利なのだが…防衛側には敗北条件が2つあるのだ。


 隕石が阻止限界線を越えるか、または司令塔である第1ステーションを

失うと、防衛側の敗北となる。


 さらに、攻撃側の第1、第2艦隊は、選りすぐりの精鋭部隊…同数の勝負では

まず勝てない。



 問題はどう戦力を分けるか…だ


 敵2個艦隊はおそらく分散することはないだろう。


 我が方は5個艦隊相当だが、普通に考えれば隕石攻撃に3個艦隊、

第1ステーション防衛に1個艦隊…


 この場合、敵がステーションを襲ってくれば、兵力は同数だが、

練度の差で負けてしまう…防衛を強化すれば、隕石に向かった艦隊が

襲われた場合に敗北する…どうしたものか?


 そもそも5個艦隊を2つに分けるのだから、2と3にしかならず、

戦力の少ない方が敵と当たると負けてしまう。


 ああ…もう、頭が痛い。演習は明日だから今日はもう寝るぞ!



 …………ぐう。



 「おはようございます。大佐…コーヒーを入れたので飲んでください」



 「そのコーヒーは誰が入れたの?」



 「もちろん私です」



 「いらん…」



 「なぜですか!?せっかくココロを込めて入れたんだから飲んでください!」


 つむぎは、ムキになってコーヒーを飲ませようとする…だが断る!



 「オマエが、入れるコーヒーの不味さを知っているからだ!」



 「いいじゃないですか?長い付き合いじゃないですか!」



 「長い付き合いだからこそ、受け入れ可能なものと、そうでないものの区別

 がついているのだ!飲まないったら、飲まないっ!!」



 「大佐…今…このステーションで大佐の味方は私だけですよ…いいんですか

 そんな態度で?」


 この女…実に嫌なところを突いてくる…でも、飲みたくないなあー


 オレはしぶしぶコーヒーを口にした。…やっぱりな、どーやったら、こんなに

不味い入れ方が出来るんだ?


 就任2日目の朝にして、さっそく嫁…じゃなくて副官に敗北した…なんか、

先が思いやられる…



 模擬戦闘訓練開始1時間前…ガム爺からの通信…



 「オマエの親父には、いろいろ世話になっとるからな、今日は手加減抜き

 で泣かせてやるぞ小僧!!」



 「なんだ?…階級が上とはいえ、総司令官に対するこの態度は?…くそう!

 …ワザと負けて帰ってやる!!」



 「そこは、「負けるもんか」でしょう…大佐」


 つむぎが訂正する…オレは本心を言ったまでだが…



 その1時間後…模擬戦闘訓練開始…



 「さて、各艦隊に通達…第3艦隊は本ステーションの直衛、他の艦隊は…」



 そのまた1時間後…敵艦隊発見…



 「第1、第2艦隊、発見…本ステーションに向かって来ます!」


 あらま…本当に来ちゃったよ…もう少し引きつけてから動こうか?



 「勝てそうですね…大佐」



 「それ言っちゃうの?…まだ一発も撃ってないのに…」



 「ステーションの影に隠れている第4、5、6艦隊に伝達…各艦隊、自由に

 展開して敵を攻撃せよ」


 敵が慌てているのが見てとれる…こちらの全戦力が一斉に襲い掛かって

来たのだ。


 隕石と司令部…どちらを重視するかは敵も迷うところ…だったら、戦力を

分散するなんて考えず、どちらか一方に集中させるべき…アテが外れたら、

そのときはそのとき…


 ガム爺の性格からして、隕石で戦略的勝利を得るより、直接、大将の首を

取りに来る可能性が高い…おっと、オレは大将ではなく大佐だっけ…


 

 …そろそろ限界か…いくら精鋭でも、この戦力差は、どうにもならんでしょ



 「第1、第2艦隊、戦闘継続不可能により…降伏信号を受信…」



 「全艦、急いで廃棄ステーション攻撃に向かえ!…以上」



 …30分後…廃棄ステーション陥落…訓練終了…



 「小僧!!全軍で迎え撃つなど、どういうつもりだ?」


 ガム爺が通信して来た…すごい剣幕だわ…なんて返そう?



 「そっちの艦隊…強いんで、3艦隊ぐらいだと負けちゃうかも?って思い、

 みんなで戦うことにしました」



 「…そうか…オヤジに似て、気に喰わん戦い方をするな…」


 ガム爺はニヤリと微笑んで通信を切った。



 勝つには勝った…だが、良い勝ち方ではなかった。もし実戦なら、隕石が

地球に落下する可能性が十分にあったからだ。…あえて言い訳をさせてもらう

なら、敵が宇宙人だったら、オレは隕石の方に全艦隊を向かわせていたのだが…



 結局、オレの評価は、あまり上がらなかった…ガム爺を除いては…

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