月光幻想<ムーン・イリュージョン>

れなれな(水木レナ)

プロローグ

 人影ひとつない砂漠。

 暗い闇の中、天上に開いた穴のような白光だけが彼らを見ている。

 そこにも亡者の群れはうごめいている。

 吹きすさぶ風の中で、小さな点が違和感を醸して。

「目的地が近い。リザ」

 砂の中に伏した、灰色の少女が、黙ったままうなずいた。

「風樹のもとへ行けば、地上に出られる。いつまでもここで、まごまごしてはいられない!」

 ゴルディロック《きんぽうげいろ》のショートヘアの子供が、さっと前へ出る。琥珀こはく色の肌は汚れていた。その目は金色。地獄の亡者の色。

「危ない! 耳を持ってかれるぞ」

 琥珀の肌の子供は、だっと、灰色の子供を押し倒すと、稲妻を手中ではじけさせ、亡者を退ける。

 リザは口元を抑え、どす黒いものを吐いたが、琥珀色の子供は、かまわず立ち上がり、亡者の密集地帯へと、砂地の上を駆けていった。

「バルダーナ、伏せて!」

 灰色のリザが、金切り声でのどを震わせ、走り込みながら、黒い粉を周囲にまく。

「ダメじゃないか、リザ。体はもつのか?」

 リザはまたも黙ってうなずいた。

 バルダーナは安心したように、

「そうか。まだ時間はあるんだな。くらえ、神明のイカズチ!」


 ばちちち! ぼぼう! ずばばばばん!


「神明照覧! どうだ!! 神よ、御覧ぜよ!!!」

 亡者は紅い爆発とともに消し飛んだ。

「やった! 地上から持ってきた燃える粉があれば、亡者なんてこわくない! このままつっきるぞ! 風吹く森へ!」

「うっ!」

 リザの身が沈む。両方の足首に亡者の怨念が絡みついている。

 バルダーナは迷うように前方の暗がりを見つめたが、

「くそったれ!」

 罵声をあげながらもひきかえし、リザの腕をつかんだ。すると、亡者は大きな灰色の影となり、膨れ上がって二人に襲いかかってきた。

 のどもとまでせり上がってくる酸っぱいものと、腹の底にたまる恐怖。脅えながら戦う二人はまるでか細い糸で編んだような、一対の魂のように儚い。

 金色の瞳、琥珀の肌、金色の髪……バルダーナ。

 紅い瞳、蒼白の顔、銀色の髪……リザ。

 二人は闇の中、淡い光を発して、命がけの旅。

 目を失っても、耳を失っても、引き返すことは不可能……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る