第13話
【新しいテクニックの伝授】
ジジイの営業電話のかけ方に、とても自分はできないと落ち込んでいるまさおの気持ちを見抜くかのように、ジジイは丸い背中に声をかけた。
「さて、新しいテクニックを教えよかな。そろそろええやろ」
新しいテクニック
“デメリットを言うことで信頼を得る”
まさおは、暗い気持ちに少しの光が射すのを感じた。
「デメリットを言う?」
「そうや。お前さ、たとえばな、急に電話かかってくるわけや。ほんで、安くなりますだの、あなたのために、だの、言われたら、まず怪しいと思うやろ?」
確かにそうだ。うまい話ほど、罠がある、と考えるのが普通である。
「ワケあり商品って最近流行ってるやろ?ロールケーキの切れ端とかさ。安い値段で売るやろ?ああいうことやがな」
ジジイの話はまたも明快だった。
メリットとデメリットはコインの表裏。
表だけ見せて、このコインを買え、なんて、言われたら裏も見せてよ!と警戒するのが普通だ。
「ここでな、もうひとつのポイントはな、デメリットを正直に言うという誠実さを見せて、この人の言うことなら、安心できるなあと感じてもらうことが大切なわけや。あと、デメリットやけど、一番大きいデメリットを見せたらあかんで。それは隠すんや」
「えっ?そうなんですか?」
「当たり前やがな。一番大きいデメリットは、見せたら、嫌になるがな。小さいデメリットを誠実に謝ることによって、お客さんはどう思う?」
聞かれて、まさおは考えた。
そうか。なるほど。
“この程度の小さなデメリットなのに、誠実に謝ってくれている。この人なら信頼できる”と思わせたら、話がしやすい。
ワケあり商品か。
確かにワケあり商品として、ケーキがつぶれていても、味は変わらないわけだから、正直、買う側からしたら、“たいしたデメリットではない”わけだ。
「よし、分かったら、具体的にどう使うかを教えてやろう!俺がいきなり見本を見せるから電話対応を見ておけ」
そう言って、ジジイが取り扱う商材は、またもや、驚くべきものだった。
“九九ができないし、冷蔵庫の中の食べ物を勝手に食べる家政婦を派遣する”
「ええか?この場合、九九ができないことをめちゃくちゃ申し訳なさそうに謝れ。ほんで、さらっと、冷蔵庫の食べ物を勝手に食べることを言うんや」
まさおは思った。
冷蔵庫の食べ物を勝手に食べないように教育したらええやろ、クソジジイ。
「そ、そんな家政婦、雇いますかねえ」
「大丈夫や。九九ができないことを謝りまくれば、もう信頼関係できるから、冷蔵庫の中の食べ物を勝手に食べることと、寝てる間に主人の髪の毛を切ろうとしてくることぐらい、許されるよ」
まさおは、耳を疑った。
なんか、えげつないやつ、足されてるやん。
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