第11話
【ジジイの課題その4】
ジジイの課題その4
死刑囚が牢獄の窓の格子の柵と柵の間から見る月と同じ美しさの月が見える望遠鏡を売る
「どういうことっすか?」
まさおは聞いた。
「どういうことってそのままやがな。お前、普段、月を観てて感動するか?感動したとしても、たかがしれてるやろ。ところが、死刑囚が窓の格子の柵と柵の間から見る月って、そりゃあ、もう、感動するやろ。こんな俺にも、月は照らしてくださるぅ、ってやつやで!外の世界に対する哀愁の全てが詰まっとるがな!」
「え?なんて?」
「お前、普段、月を観てて感動するか?感動したとしても、たかがしれてるやろ。ところが、死刑囚が窓の格子の柵と柵の間から見る月って、そりゃあ、もう、感動するやろ。こんな俺にも、月は照らしてくださるぅ、ってやつやで!」
「二回聞いてもわからないっす。わかるけど、そんなもん、望遠鏡で覗いてる時点で、望遠鏡あるやん、死刑囚ちゃうやんってなりません?大体、望遠鏡で月を見る死刑囚なんておらんでしょう?柵の間から見てるのがキレイなんでしょう?もうたとえと違いますやん」
「ほな、やめよ。変えるわ」
ジジイがあまりにもあっさりと撤回したことに、まさおは一瞬何が起こったのかわからなかった。
「変えよう。死刑囚が牢獄の中で窓の柵と柵の間から見える満月と同じ美しさのダイヤモンドを売ろう」
「いや、より難しなっとるがな!どう説明したらええねん!そんなもん、普通に、他のたとえのほうが説明しやすいし!ダイヤの美しさのたとえとして、それ、言う?」
「ほな、やめや。変えよう」
あまりにも、あっさりと撤回したジジイにまさおは二回目なのでむかついた。
「ほな、こうしよう。死刑囚が牢獄の中にいて柵と柵の間から見えるダッチワイフを売ろう」
「売れるか!そんなもん!なめてんのか、お前!ダッチワイフダッチワイフって言いやがって!なんで死刑囚が牢獄の中にいて、窓の格子からダッチワイフ覗くねん!ホラーやないか、そんなもん!」
その時、ジジイが飛びかかって来た。まさおに馬乗りになり、何度も何度も殴った。
まさおは、もう逆らう気持ちもなかった。
「わかりました。売ります」
さて、それでは、まさおの第四戦目である。
「もしもし、エヌチーチーコーポレーションの吉永です。お忙しいところ申し訳ありません」
「はい?なに?」
「お客様、死刑囚が牢獄の中で窓の格子の間から、見える月の美しさ、想像してほしいんですよ」
「ちょっと待て、何ゆうてるの?」
「想像してほしいんですよ。でないと、また殴られるんですよ!死刑囚が・・」
「多分、死刑囚、そんな、外とつながったところに入れられてへんと思うしなあ。大体、これは、なんの電話?」
「いや、殴られるから、話聞いてほしいんすよ。その、牢獄の窓から見える月の美しさを想像してもらって、そこから、月ではなくダッチワイフが見えると想像してほしいんすよ。そしたら、ヤリてぇって思いますよね!買えよ!買ってくれ!もう殴られたくないねん!あはーはーはーん。わあーん!」
電話はそこで切られた。
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