SHOCK 9

美濃side

90

 斎藤道三死後、人質の役目を果たせなくなった私は、小見の方の実家である美濃国の明智光安あけちみつやすを城主とする明智城へと帰された。


 信長には寵愛する側室もいて、子供のいない私が疎ましくなったのだろう。


 私が帰蝶の身代わりだと知っている者は、小見の方と明智光秀のみ。お世話になっている明智光安も知る由もなく、私を帰蝶であると信じ、受け入れて下さったに過ぎない。


 信長から解放されても尚、私はまだ声を取り戻すことはなかった。


 動乱の世で、斎藤家よりずっと仕えていた多恵や数名の侍女と共に、明智城にて過ごす。


「帰蝶様、明智光秀殿のおなりでございます」


(光秀殿……!?)


 私は微かな胸の高鳴りを抑えることができなかった。信長に輿入れしたあとも、常に緊張状態が続き、辛い生活を強いられていた。その心を鎮めてくれたのは、光秀からの文だった。


 いつしか私は……

 光秀からの文を心待ちするようになり、心の中で秘かに光秀を慕うようになった。


 その光秀が明智城に訪れ、喜びから感極まる。


「これは於濃の方様。見目麗しく息災で何よりでございます」


(光秀殿も、息災で何よりでございます)


 光秀は人払いをし、私と2人きりになる。


「於濃の方様、実は叔父上様亡きあと、あとを追うように帰蝶が病にて亡くなりました」


(帰蝶様が……)


「一時は病も回復し、話しも出来るまでになりましたが、人目を避けずっと離れの屋敷に隠っておりましたゆえ、心を病み再び床に伏せるようになったそうにございます。亡くなりしあとは叔母上様が密葬にされたとのことです」


(……そうですか)


 斎藤道三も小見の方も帰蝶の幸せを思い、身代わりに私を輿入れさせ、帰蝶を離れの屋敷に匿まっていたが、その親心が帰蝶の体だけではなく心まで蝕むとは……。


(なんと、おいたわしい……)


 不憫な生涯に胸が苦しくなり涙が溢れる。戦国の世に生まれ信長に嫁ぐはずだった少女が……、その存在を知られることなく若くして命を落としたことに、涙が止まらなかった。





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