第六話 梅雨真っ只中の昔遊びの楽しみ方

六月二十八日、月曜日。今日は梅雨の時期としては珍しく、朝から雲一つない青空が広がっていた。

 ところが午後になり、急に黒い雲に覆われ始める。

六時間目の授業が終わったあと、

「あっ、雨が降ってきたよ。置き傘しといてよかった」

「うちも折りたたみ持ってて助かったわ」

 果歩と竹乃は教室から窓の外を眺めた。

「梅雨の時期はいつ降り出すか分からないから、わたしはいつも持つようにしてるの」

「ミツリンは準備ええな。ねえミツリン、ワタシ、傘持ってないんよ。入れてーな」

「しょうがないなぁ」

 光子はため息混じりに言う。栞はそのお礼として、光子の荷物も持ってあげた。

「ぬれちゃうーっ」

「っていうかもうびしょぬれだよね」

「天気予報とちゃうやーん」

 正門から外へ出ようとしたところ、四人の目の前を小学生たちが走り去っていった。女の子が三人、ピンクのランドセルを背負って。

「ちょっと待ち、風邪引いてまうで」

 竹乃は大声で叫んで呼び止めた。女の子たちは振り返る。

「あっ、ピーピー笛のお姉ちゃんだ!」

 その中の一人が叫んだ。

「おう、あの時のお嬢ちゃんたちやんか。ちょっとあそこの下で待っとき。いいもん持ってきたる」

 竹乃はそう言って、女の子たちを校舎の軒下へ連れて行かせた。

 数十秒のち、

「これ、傘の代わりになるよ。自然の恩恵や」

竹乃は校内の花壇に植えられていたフキの葉っぱを数枚引き抜いて戻ってきた。一枚ずつ手渡す。

「わあーい、ありがとう。ほんとに傘になるね」

「お姉ちゃんたち、また面白い遊び、教えてね」

「ええよ、どんどん教えたるで」

「あの、お姉さんたちの学校では、授業でこういうのもやっているのですか?」

 一人が、興味心身に尋ねてきた。

「これは部活動みたいなもんやな。うちらは昔遊び同好会っていうのを作って活動しとうねんよ」

「へえ、面白そうですね。あたしの学校にはそんなの無いな」

「お姉ちゃんたち、さようなら。また会おうね」

 女の子たちは葉っぱの傘をさして、とても楽しそうに帰り道を歩き進んでいく。運動靴で水たまりをピチャピチャと踏みしめながら。


「私、雨の日って大好きだな。雷はいらないけど」

果歩は一旦帰宅したあと、すぐさまレインコートを着て長靴を履いてお外へ出た。お庭に植えられてあるアジサイなどを観察する。

「こんばんは、カタツムリさんにアマガエルさん」

 ザーザー降りの雨の中、葉っぱの上にいた生き物たちに話しかける無邪気な果歩。夏美お母さんはおウチの中から嬉しそうに眺めていた。

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