帰宅途中の異世界遊戯

おいも

第0話


 青い月が広大な森林の表面を照らす中、月明かりが届かない深い森の奥底で銃声が轟くと同時に金属音が響いている。


 月の光が届くことのない闇の中で、日常生活とは掛け離れたその音を聞けば緊迫感を孕んだ空気が生まれてしまうのは当然だった。銃声の主と金属音を鳴らした者の姿は闇に覆われているため、傍目からはその様子を見ることは出来ない。


 そんな中銃の主は自身の銃撃が上手くいってないことを理解しているのか、諦念を感じさせつつ多少の嫉妬心を含めて一言呟いた。


「やっぱり近距離ブレイブ系のジョブはズルい……」


 小さく不満を呟きながら銃声の主は右手に持つ黒い銃で相手を狙う。その銃には3本の赤いラインが奔り銃口から安全装置近くまで伸びたそれは、マガジンを辿るように銃床へ向かって鋭角に折れているのがわかる。しかし、どう考えても普通の銃には見えない。


 前方から迫ってきている相手を銃口で捉える。鈍い光を反射させている金属の刃、刀を持った人物の頭部と心臓の2カ所にある急所を瞬間的に狙って引き金を絞る。


『『ダァン!』』『『ダァン!』』


 マズルフラッシュと共に発射された弾丸は急所を正確に捉えて2発ずつ放たれるも、その行方は当然狙った刀を持つ人物を殺すために放たれている。暗いながらも正確に狙えているのは、遠距離ジョブ特有の【暗視】と【ピンポイントシュート】のおかげだ。


 パッシブスキルの【暗視】は遠距離ジョブを選んだ者が得られるスキルで、その名の通り自身を中心に半径50mを暗くても視界を確保出来るスキルだ。


 アクティブスキルの【ピンポイントシュート】は目視で定めた場所に威力を落として精密射撃を行うスキルである。


 銃口から放たれた刀を持った人物を射殺すための凶弾が、狙い通りに急所へと飛び込む。


 筈だった。


『『ギィン』』『『ギィン』』


 急所に撃ち込まれるはずの弾丸は金属が擦れる音と共に弾かれてしまう。例え当たったとしてもスキルのせいで弾丸が急所を貫くことはなかったのだが、銃弾を防がれた今となっては関係ない話だ。


 それを受けて銃の主は再びぼそりと呟く。


「やっぱズルいだろ……」


 弾かれた拍子にオレンジ色の火花が散り、一瞬だけ刀の刀身がはっきり見える。その火花が顔を照らし、弾丸を弾いた相手の顔色は敵対している銃の主に侮蔑ぶべつの笑みを浮かべている。


「弾けるんだからしょうがないだろ? これだから遠距離シューターは役立たずなんだよ!」


 刀使いの言うとおり、近距離ブレイブには遠距離シューターに対抗するスキルがあり、この時刀使いは【心眼】と【球弾き】を使用していた。


 パッシブスキルの【心眼】は自身を中心にして半径5mまでの空間を把握し、敵意ある攻撃を察知するスキルで、暗いながらも周囲の把握と迫る攻撃の迎撃が可能となる。


 アクティブスキルの【球弾き】は自身の武器オルターで遠距離の魔法、物理問わず弾くことが出来る。これは自身のステータスであるSTR値とDEX値の合計が相手ステータスのDEX値を上回れば、攻撃の質、大きさ問わず必ず迎撃に成功するスキルだ。


「弾かれるだけなんだから撃っても無意味だぜ!」


 そう告げると同時に刀使いはスキル【瞬歩Lv.5】を使って一瞬で銃使いとの距離を縮める。距離を縮め終わる直前に刀を振るい、相手を袈裟斬りにしようと刀を振り下ろすが銃使いが右手の銃でその斬撃を肩に触れる直前で受け止めた。


 段々と銃が押し負け刀が顔面へと近づいていくが、それでも銃使いは余裕の表情を崩さない。距離は縮まるがその縮こまる動きを利用して、ゆっくり銃口を刀使いの顔に向けると即銃弾を2発発射する。


『『ダァン!』』

『『ギィン』』


 だが、目前に居る相手に対して弾丸を放ったにも関わらず、弾丸は弾かれる。


「ほんとおかしくね? この距離で弾丸なんて弾けるか普通?」


 銃使いはこの現象が起こるのをわかっていても愚痴らずにはいられない。刀使いは銃を扱う相手の言動よりも気になることがあったのか、自身の思考に意識を割いていた。


(……若干とは言え近距離ブレイブの俺と力が拮抗した? なぜ俺と鍔迫り合いを多少なりとも維持出来る! 競り合った感触はシューターが出せる“力”じゃねぇぞ)


 原因不明の疑問を振り払うように、銃使いを無視した形で挑発する。


「マジでシューターは不憫だな! ブレイブのスキルは、シューターに対して絶対的有利なのは知ってるだろ!? とっとと諦めて俺に斬られてくれねぇっかっな!」


 そう告げるも刀使いは威勢の良さだけで戦闘スキルを使わず、様子を見るように斬りつけてくるのみである。言葉とは裏腹にもし攻撃スキル使用時にカウンターで弾丸が放たれれば、この刀使いの技量では捌けないからだ。


 当然それを補う方法は存在する。


 しかし、相対する刀使いには出来ない芸当であるし、刀使いが言うほど近接ブレイブ遠距離シューターに対して“今の時点”で絶対的有利と言うわけではない。


 対峙している銃使いは兎も角、理解しているとは思えない発言を刀使いはした。それを受け銃使いはふざけたように銃に向かって語り始める。


「だってよこいつはシヴァのことが弱いって」

『ソレ、ヒドイ、ボク、ツヨイ』


 銃使いの頭の中で何かが喋りかけてくる声が聞こえるが、その声は刀使いには聞こえない。


「だよな、俺もお前の“力”だけは最強だと思うぞ」

『ウン、ボク、マケナイ、ダレニモ』


 銃使いが自らの武器に語りかける様子を見て、刀使いが疑問を声に出す。


「あぁ? 何“オルター”と会話してるんだよ、まるで自分のオルターは“エゴ”に達してる様な雰囲気だしやがって! あまりにも絶望的な状況にブラフでも仕掛けてるつもりか?」

「お前相手にそれは必要ないだろ?」

「現に使ってるだろうが! せめてブラフを使うならその前の段階の“イド”までにしとくんだったな!」

「そいつは酷いんじゃないか? 俺のオルターは“エゴ”まで行くぜ? だからこんなにしっかり会話してるんじゃないか」

「ハッ! それにしては弾丸に手応えが無さ過ぎるな。“エゴ”にできる奴が“本能”並の威力しか出てねぇのはおかしいじゃねぇか!」


 嘲るように斬りつけにくる刀使いに対して、銃使いは剣筋を避けるためにスウェーで動きながら斬撃を躱す。


「俺ですらまだ“イド”が精々!本の一部の奴しか辿り着いてない“エゴ”に、なんでお前みたいなシューターがブレイブの俺よりもオルターが育ってるんだよ! 普通に考えても有り得ねぇだろ!」


 目の前の銃使いが防ぐ素振りを見せず、避けているのが気に喰わないのか更に言い募る。

「それにお前はさっきから避けてばかりじゃないか! やはり“エゴ”に達してるのはブラフだな!」


 相手は手詰まりになってブラフを仕掛けていると確信する刀使いに、銃使いは告げる。


「はぁ……お前の斬撃を防がない時点で力量の違いを察してくれないか。それとオルターの成長の遅さはお前に問題があるからだろ? お前が俺の何を知ってるんだ」


 銃使いは性格面に対して刀使いに告げる。そして攻撃を躱しながら説教までする始末だ。


「たしかにブレイブは脅威だな、弾丸避けたり切ったり弾いたりするんだから対遠距離ロングレンジにとっては致命的と言っていい。だけどな、勝てないわけじゃないんだ。本来のシューターの戦い方じゃないが、現にお前の攻撃は俺に一切当たっていない。拮抗しているように見えるから勘違いしたか?」

「フン! またブラフか! 勘違いしてんのはそっちだろうが!」

「勘違いしてるのは俺、ね」


 銃使いはその言葉にそろそろ我慢出来なくなったのか、予定を変更する。


「すぐ終わらせるのもどうかと思って、“まだ”対近距離クロスレンジの練習をしていたかったんだが、お前の相手は精神衛生上あんまり良くないな。ってことで終わらせるぞ」

「強がりもここまで来れば大したもんだな! それならお望み通り本気を出してやる……よっ!」


 刀使いが言うと同時に銃使いの腹部目掛け足裏で蹴りを入れる。銃使いは右手に握った黒い銃の銃床でその蹴りを受け止め、威力を殺しながら後方にステップする。


虎徹こてつ!」


 刀使いが自身のオルターの名前を呼ぶ。“虎徹こてつ”と呼ばれた新刀風の刀は鎬部分が黄色く光輝き、刀身の色が燃えているかの如く明るい光を放っている。薄っすらとだが、刀の周りからはショートしたかのような細長い火花が見える。


 明らかに脅威度の上がった斬撃が銃使いに向けられる。先ほどと違って斬撃の速度が上昇しており、銃使いは避けるのではなく受け流すことを選択した。


 銃の握り方を一瞬で変えるスキル【ガンシフター】を使って迫る刀を銃のスライド部分で刃紋を殴りつけるように一瞬だけ触れさせて受け流す。


 当然このスキルは受け流すためのスキルではなく、咄嗟の握り方の調整や不測の事態で握りそこなったりした場合、触れている銃を一瞬で持ち直すことを想定した使用用途が薄いスキルである。


 だが、一瞬で持ち方を変えるこのスキルは、銃使いの想定している戦闘スタイルにマッチしていため使いこなす程度に重宝しているスキルの一つだ。


 銃を逆手に握り腕で支える。スライド部分のみ腕甲のように扱うことで対接近戦クロスレンジでの防御を行動を可能にしているのだ。


 銃使いが刀を迎撃するように受け流しているせいで、刀の軌道は銃使いに当たるはずの位置からズレてしまい、受け流しの動作でそのまま回避を可能にしている。銃使いはシューターという遠距離攻撃に特化したジョブなのだが、近接戦にそれなりの技量を持っているのだろう。


 銃と刀が触れる一瞬、擦れる音が鳴るがその音は先ほどの金属が擦れる音ではなく溶接する際に鳴る『ジジッ』と言うスパーク音だった。やはりと言うべきか、刀使いが使った“イド”というのが先程の刀の状態に関係しているのは明白だ。


 それなら銃と言う金属を握っている銃使いは感電しそうな物だが、銃使いの握っている物が特別なのか、それとも手に装備している手袋グローブらしき品が特別なのか、受け流した際に感電するような現象や状態が見受けられない。


 まともに刀が触れているのに感電しないことに刀使いが訝しげにしているが、その違和感を押し殺して更に剣速を上げていく。


 銃使いは、右手だけでは防ぎきれない攻防になったと判断し、左手から“緑の銃”を虚空から召喚するように取り出し、右手の黒い銃同様にスキルで逆手にし、受け流しに徹した。


 その緑色の銃は右手に持っている物と同じく3本のラインが奔っているが、緑と青と白の3色の色の違いが見られる。傍から見れば左右に握る銃が残す色とりどりに輝く残光は、銃使いが舞っているかの様な印象を抱かせる。


 反撃ができずに防戦一方の銃使いを見て嫌な雰囲気を吹き飛ばすためにまた話しかける。


「どうしたどうした! 防戦一方じゃないか! 二丁出した銃も撃てなくちゃ意味が無いなぁ!」

「ほんとうっさい奴だな、俺がオルターを“イド”にしていないのになんで挑発する余裕があるのか理解できんな。俺のオルターが一つ下の状態だってのにお前が言う雑魚シューターに苦戦してるんだぞ?」

「ハッ、しないんじゃなくて出来ないんだろ! 俺がシューターの雑魚程度にイドでも無い状態で苦戦するわけがない。ブラフ好きのホラ吹き野郎はとっととご退場願おうか!」


 そう言葉を発すると同時に防戦一方だと思われた戦況が銃使いによって動きだす。右手の銃を【ガンシフター】で通常の射撃体勢にし、銃口を刀の刀身の側面にある刃紋に当てる離れ業から、更に速射まで行うという絶技を当然のように実行した。


 速射と同時に『ドカァァン!』と大砲でも鳴ったのでは無いかと思わせる爆音がその場に轟く。そして刀使いが握っていた虎徹こてつを吹き飛ばし、刀使いの姿勢を崩す程の衝撃だった。


 どうやってか、刀使いは素早く虚空から当然のように虎徹こてつを取り出して構えてみせるも、動揺が隠しきれていない。


「な、なんだ? 今のは?」

「もういい、ほんとに気分が悪くなるな。お前みたいなのといつまでも一緒に居ると苛ついてしょうがない。落ち着いて対応できる程俺も大人じゃないし」


 銃使いは答えない。もしこの場で銃使いの表情が窺えるなら、刀使いが居るらしき場所を見るその瞳には不愉快な物を仕方なく捉えようとする表情が窺えただろう。


 答えない銃使いは、刀使いの疑問なぞお構いなしという態度でゆっくりと緑の銃口を自身のこめかみに自然な動作で運ぶ。緑の銃から伸びている3本のラインが先程と違い、全て青く光っているのが印象的だ。


 そんな銃使いの行動を怪訝に思いながらも刀使いは持論を慌てながら展開する。


「はっ……はん、間違ってねぇだろ! この世界ゲームでは対遠距離ロングレンジは役に立たねぇんだ! 俺ら対近距離クロスレンジ対中距離ミドルレンジに任せて街に引きこもっていればそれで……」


 刀使いは銃使いの今の一撃をシューターが初期状態の本能で出せる威力とは想定外だと判断する。刀使いは自分ではできない桁外れな威力を目の当たりにし、に未だ動揺を隠せていない。


 この銃使いの持ってる銃の光のラインが、本能の次の段階であるイドの状態を表していると考えた方がまだ説得力が増すだろう。


 銃使いは刀使いの言葉を無視するかのように、左手に持った銃のトリガーに指を掛け、ゆっくり引き金を絞る。刀使いは焦りながらもこの光景を見てチャンスとばかりに斬りかかるが、同時に銃使いが自身の頭部に向けて引き金を引いた。


『キィン!』


(な、なんだ? やけっぱちか? それともまたハッタリか!? ふざけやがって!)


 銃使いのやることを動揺しながらもハッタリと決め付けるが、それも仕方がない。引き金を引きはした物の、発砲音は甲高い銃声が鳴っただけで銃使いの頭はピクリとも動かなかったからだ。


 この時に音が出るだけで持っている銃からは何も射出されていないと思い込んだのだろう。刀使いは気を取り直して斬りかかろうと刀を振り下ろす瞬間、銃使いが目の前から消失する感覚に虚を突かれた。


 消える前まで居たと思わしき場所からは、青と赤の残光が見え、刀使いは視界にその描かれた軌跡を目で追おうとした。


 だが、即方針を変えて自身の危機に気づく。スキル【心眼】によって一瞬で後ろに回りこまれてしまったのを知覚したのだ。


(ま、まずい! 【残影】!)


『ダァン!』


 刀使いは咄嗟に近接スキルの【残影】を使用した。このスキルは攻撃を受ける前に使用することで、自身の死角から受ける遠距離攻撃を一度だけ透過させるスキルだ。再使用時間も1分に設定された緊急回避スキルだ。


 遠距離攻撃が当たっても死にはしないが、先の大砲のような音と衝撃を実感した後だと当たったらただでは済まないと判断しての行動であった。


 刀使いのこの判断は正しく、今の攻撃が頭部に的中していれば即死はしなくてもダメージは甚大であり、決着がはやまっただろう。


「いつまでも序盤の時だけ出てくる差をグチグチと言われるのも嫌だから言っとくぞ? シューターは“最初だけ不憫”であって“不遇”ジョブじゃない。わかったか?」

「う、うっせー!」

「はぁ……気が変わった。隠すつもりも無いしお返しに俺も“イド”を見せてやるか」


 この発言に刀使いは驚愕し、堪らず叫んだ。


「は、はぁ!? 今の銃撃が“イド”じゃなくて初期段階の“本能”だってのか!? んなことあってたまるか!」

「それが現実だ」

「そ、それだけじゃねぇ、シューターであるお前がどうすればあんな速度で動けるんだ! おかしいだろ!?」


 言いたいことを言った銃使いは刀使いの困惑した返答に対して丁寧に刀使いの疑問に応える。


「さっきの一撃は単純に右手のシヴァの一撃だ。今の速度も制限があるがただのバフだ」


 そう告げた銃使いは肩を揺らしニヒルに笑いながら答える。正確に答えた訳ではないが、質問は終わりだと態度で現すかのように再びこめかみに銃口を向ける。


 当然それをさせまいと刀使いは斬りかかった。


「良い判断だ、だけど遅かったな」


 刀使いを褒める銃使いは再び【ガンシフター】で握りを変え、右手の銃で殴りつけるように受け流しながら左手の銃口をこめかみに当てたままトリガーを強く引く。その時の銃はなぜか緑色になっていた。


『キィン!』


 その瞬間、銃使いが刀使いの間合いから逃れると同時に叫ぶ。


「シヴァ! ヴィシュ! イドだ!」

『ハヤク、ハヤク』

『シヴァ、オチツ、ケ』


 銃使いが自身のソウルの分身であるオルターに向けて名前を叫ぶ。


 同時に、右手に持つ銃からほとばしっていた赤い3本の線が、銃全体に染み渡るように真っ赤に染まる。まるでルビーのような輝きを放つ赤い銃同様、左手に持つエメラルドのような輝きを放つ。


 そして次の瞬間、覆った光はその銃身をサファイアのように染め上げていた。


 銃を再びこめかみに押し当て、引き金を引こうとする瞬間を見て、刀使いは思う。


(まずい……まずい まずい まずい! あれだけはさせちゃいけねぇ!)


 刀使いは先程のやり取りで移動速度の大凡の察しがついたのか、反射的に先ほどより強力であろうバフをさせまいとスキルを使用する。


 そこには侮った態度は微塵も見られない。ただただ焦っているだけだ。


「空絶!」


 【空絶】は斬った位置方向に斬撃痕を指定の位置まで飛ばし、間にある全ての空間を断つブレイブジョブが持つ遠距離系の攻撃スキルである。


 実際は断つ勢いだけで間に障害物がある場合は攻撃の判定が行われ、斬った場所を両断せず威力だけが削られて斬撃が突き抜けてしまうからだ。


 使用者が設定した位置まで攻撃は続行されるが、ただ一瞬隙を作るのに威力は要らないためこのスキルで十分だった。


 足止めをしてから刀使いはその隙に自身のスキル【瞬歩LV.5】を使って即座に接近するつもりでいたのだが。


『カァァン!』


 先ほど聞こえた大砲の様な音とは違って金属同士がぶつかり合うような遠くまで染み渡る甲高い音が鳴る。それと同時に【空絶】による攻撃で銃使いを斬った。


 かに思えたがその瞬間、刀使いの胸の中心が銃使いの拳の形に沈む。


「ゴハァ……!」


 刀使いは視界に銃使いの姿を捉えられず、今度は光の軌跡すら見えなかった。心眼で認識した時は既に殴られた後だ。


 刀使いの目に映ったのは、宝石のように赤く光る銃を反対に握り込んだ銃使いだった。この握り方は先程防御に徹している時と同様の握りだが、素手で殴る時も同様に握っている。


 近接ジョブの自分がなぜ血反吐を吐いて吹き飛ばされているのか、理解は出来た。が、当然納得はできない。


 銃使いはそれでは足らないと言わんばかりに、吹き飛んでいる刀使いの傍へと瞬間移動のように現れる。


 そして、その背中目掛けて逆手で握り込んだ青い光を纏った銃を持ちながらアッパーを放つ。それを遅れながらも理解した時、既に森を突き抜け青い月にその身を照らされていることに刀使いが気づく。


(は?)


 だが空中に居るはずの自分の視界が影で覆われることに気づく。空中にいるため周りが何もない状態が普通になるのだが、にわかには信じたくない想像を刀使いは掻き立てられた。


(う、そだろ?)


 その想像は現実の物となる。


 見覚えのある服装が目の前に居るのだ。銃使いがなぜか吹き飛んだ自分より上空で踵落としの体制に入っている姿を認めると同時に、踵が腹部に強くめり込んだ。


 ここまででHPの半分近く持っていかれ、高速で落下する刀使いは踵落としの影響で状態異常に陥っていた。薄れる意識の中で刀使いは無意識に疑問だけを浮かべる。


(な……んでブレイブが、シューターに……クロスレンジで圧倒……されてん、だ?


 森を再び突き抜けて地面に追突する直前、どうやってか先回りした銃使いは更に追撃で右の拳を振りかぶっている。その拳が迫る刹那の瞬間、自分の未来を諦めながら刀使いは意識を失った。






 銃使いが右の拳を振り落とす直前にそのモーションを止め、地面に墜落する様を見届ける。


「冷静になってみると殺しちゃまずいよな。俺そこまで冷酷なつもりないし、プレイヤー同士のよしみで今回はこの位にしておくか。まぁ次はないと思いたまえ」


 意識のない相手に言いつつ何故か左手の銃を青い光から再び緑の光に変えるとその銃口を刀使いに向ける。


 助けると言ったのは何だったのか? と思うほどその行動は、傍から見たらとどめを刺すようにしか見えない。銃使いはなんの躊躇もなく弾丸を放ち、金属同士の甲高い銃声と共に、見た目通り発射された弾丸は刀使いに突き刺さったのだった。

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