第130話 憧憬の世界 その4
俺がそう言うとディーネは目を丸くして俺を見る。
暫く黙ったままだったが……その後、観念したという感じで肩をすくめる。
「なるほど~……ウルスラさんの言っていたとおりですね~。中々鋭い人ですね~」
そう言うとディーネは大きくため息をついて、霧の中に包まれている町を見る。
「……ウルスラさんとはここに来る前まで一緒だったのでしょう? 何も聞かなかったのですか~?」
「聞いてない。ここがテンペスという名前の町だというだけだ」
「そうですか~。では……私も、かつては帝国の研究所の魔女だったんですよ~?」
「……ウルスラの同僚か。道理で同じような匂いがするわけだ」
「うふふ~。でも、私もウルスラさんのように実験に失敗してしまいました~。どういう実験だったかわかります~?」
そういって、不気味に微笑むディーネ。俺は思わずゴクリと生唾を飲み込んだ。
一つの身体に二つの魂を入れたウルスラ、死人を兵士として利用しようとしたロッタ……それを踏まえると、このディーネの実験も、どう考えてもロクなものじゃない。
「……考えたくもないな」
俺がそう言うとディーネは嬉しそうな表情で俺のことを見た。
「……簡単な実験ですよ~。この町を一つ……幻に変えようとしたんです~」
「町を……幻に変える?」
意味がわからない俺の反応を見て、やはりそうかという表情でディーネは先を続ける。
「そうです~。当時、帝国は幻を戦争に利用できないという案がありましたから~。私は元々、幻を生み出す機械や~、薬とかの研究をしていたんですよ~? で、ある日、町を一つ、幻に変えろ、というメチャクチャな命令が来たんですね~」
そこまで言うと、ディーネは遠い昔を思い出すかのように目を細める。
「……私はとりあえずやってみました~。すると……失敗しちゃったんですよ~……いえ、成功したには成功した、っていうんですかね~?」
「……それで、どうなったんだ?」
俺が先を聞くと、ディーネは得意そうな顔で俺を見る。
「町に住んでいた人達は全員……霧になってしまったんです~」
「え……じゃあ、この霧って……」
「そうですよ~。霧になったまま元の姿には戻れない……だけど、永遠にこの町から離れられない『元』人間の方たちですね~」
そう言うディーネの表情は……どこかで見たことのある、この上なく狂気に塗れた恐ろしいものであった。
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