第127話 憧憬の世界 その1
丁度リザは家から出てきたところのようで、大きく伸びをしながら洗濯物を干している。
「……どういうことだ。リザは……俺が……」
信じられない思いで、俺はディーネを見る。
しかし、ディーネはニコニコしているだけで、なにも答えない。
と、続いてさらに驚くべき事が起きる。家の扉を開けて次に出てきたのは……俺だった。
「は……? 俺?」
俺らしき存在は、リザを見ると嬉しそうに近づいていき、優しく抱きしめる。リザもそれを嫌がる素振りも見せずに受け入れている。
「あれ、現実だと思いますか~?」
と、そこでディーネが俺に訊ねてきた。その言葉を聞いて、俺は理解する。
「……幻だな」
俺がそう言うとディーネは小さく頷く。
「前に会ったアナタは~、完全に狂気に飲まれていました~。死んだ人を蘇らせたい……それだけでした~。だから、そもそも見たい景色も、望む風景も見せてあげることができなかったので~、早々にシコラスさんの島に送ってあげたんですよ~」
ディーネの話を聞きながら、俺はずっとリザと俺自身を見ていた。
あり得たかもしれない光景……しかし、あれは幻想だ。実際には俺はリザを殺しているし、リザも俺を拒否した……よって、目の前の光景はあり得ない幻想。
今でも俺が……心の中で望んでいる幻想。
「……もういいだろ」
「え~? いいんですか~? もっと見ていてもいいんですよ~?」
ディーネは俺がこの光景を見ているのを辛いことをわかっていてそう言っているようだった。
ある意味……今まであった魔女の中で一番質が悪いかもしれない。
俺は腰元にあった短剣を引き抜く。
「……お前が死ねば、俺は元の世界に戻れるのか?」
俺の行動が予想外だったのか、ディーネは大きくため息をついた。
「やれやれ~。ウルスラさんの言っていたとおりの人みたいですね~」
そういって、ディーネがパチンと指を鳴らすと、一瞬で光景は変化した。
俺は……寂しい港の埠頭にたっていた。岸壁にはいくつかのボロ船が繋がれている。
「さぁ、本当に私の家に案内しますよ~」
「……待て。俺の連れは?」
そう言うとディーネはまた嬉しそうに微笑む。
「さぁ~? 幻想の世界から帰ってきたいと思ったら、そろそろ帰って来ていると思いますよ~?」
……この態度どうやらリゼとエルナのこともディーネが知っているようである。
仕方がない……とりあえず俺は、この相当性格がひん曲がっていそうな魔女の家に向かうことにしたのだった。
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