幽霊ちゃんとの無意味な日常。

くろのくん

幽霊ちゃん

俺はある地方の大学に通う冴えない大学生。


特にサークルに入っているわけでもなく、かと言って勉強に力を入れているわけでもない。


授業には単位を落とさない範囲で適当に出ており、成績はまぁ、普通だ。


人付き合いは最低限。授業が同じやつと顔を合わせたら挨拶する程度。


アパートの家賃は親に払ってもらているが、光熱費、食費、その他雑費を稼ぐため、バイトはしている。


「くぁーーー…。暇だな。」


大学での試験も終わり、今は春休み真っ最中だ。大学生の春休みは長い。とにかく長い。俺みたいな人付き合いが0に等しい奴にとって、地獄のように長く、無意味な期間だ。


暇なら、バイトのシフト増やすなり、一人旅とかしてみるなり、色々と選択肢はあるじゃん、と言う人も多いだろうが、どうもやる気が起きないのだ。仕方がない。


いつから俺はこんな無意味な日々を過ごす、無気力人間になってしまったのだろう。と、考えるのも面倒な始末である。


「なんか面白い番組ねーのかよ。」


さっきから俺は5分ほど観てはチャンネルを変える作業を繰り返している。今の昼の時間帯は、どこも同じような番組ばかりで、俺の退屈を紛らわしてくれそうにない。


「ん・・・?」


恐らくチャンネルを5週ほどした時だろうか、変な映像が目に留まる。


「井戸・・・?」


画面には暗い森の中にある、古びた井戸が映っている。なんだろう。あの有名なホラー映画のワンシーンで見たことあるような気が・・・。この時間帯って映画放送してたっけ?


急いで番組表を見ようとする。あれ?リモコン壊れた?画面が変わらない。どのボタンを押しても同じである。画面の中では、井戸から女が這い出て来た。俺の知ってる展開だ。


「おいおい・・・嘘だろ・・・。」


画面の中の女はどんどん近づいてくる。例の映画では、テレビから直接出てきて人を呪い殺すことになっている。


「まさか・・・な・・・。]



ズズズ…


そのまさかである。なんと画面から直接白い腕が出てきたのだ。そしてゆっくりと、着実に頭、胴体と・・・。


「うわあああああああああああああああああああ!!!!」


殺される。恐怖のあまり足が動かない。


ああ、俺の人生はここで終わるのか。俺は死を覚悟して固く目を瞑った。



______




「キャッ!!じ、地面がない!お、落ちるっ…!!!」


ドスッ


ん?俺まだ生きてる?というかなんだ?今の声は。


恐る恐る目を開けると、そこにはテレビの前でひっくり返ってる少女の姿があった。高校生くらいで、白装束を着ている。なんとまぁ、間抜けな姿である。


俺の家のテレビは、一メートルないくらいの高さの本棚の上に置いてある。まさかテレビから出てきた勢いでそのまま落ちたというのか。


「こ、コノヤローっ!テレビをこんな高いとこに置くなァ!グス…。今日はひざ擦りむいちゃったから帰るっ!覚えてろコノヤローっ!」


半泣きになりながら捨て台詞を言い残すと、幽霊(?)ちゃんは窮屈そうにテレビの中へ帰っていった。

シュールな光景である。


「なんなの・・・。てかもう来んなよ・・・。」


呆然と立ち尽くす俺。


画面では、先ほどの井戸の映像は映っていない。見慣れた昼の報道番組が流れている。


「訳わからん…。まぁいいか。そう言えばお腹空いたな。何か食おう。」


あれこれ考えるのは面倒だ。俺はとりあえず、腹を満たすことにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る