天誅 8

死にそうなお姉ちゃんを片足で蹴りながら、笑い続けた。

もう周りに人なんて居ない。

皆、何処かへ逃げてしまった。


さっきまで、賑わっていた駅前が、今ではアタシとお姉ちゃんの2人っきり。



そろそろこいつは死ぬだろう。

視線を、地面に横たわるお姉ちゃんへ移すと、目から涙が零れ、口を必死にパクパクと動かしていた。


何かしら?

もしかして、最後にアタシに罵声を飛ばしたいの?

それとも、遺言を残したいとか?

いいわよ、聞いてあげるわ。

死ぬ前に、アンタの言葉を聞いてあげる。

アタシは優しいから。



その場にしゃがみ込み、お姉ちゃんの口元付近まで耳を近づける。



「さあ、言いたい事があるなら言いなさい。

聞いてあげるから。

ただし、余計な真似をしようとしたその時は、全部の指から爪を剥がしー・・・・」


話を聞くにしてもね。

相手は重症を追っているとはいえ、一応用心しなくちゃ。

話を聞く上での、注意事項をまず話す事にした。

これ以上、アタシは怪我を負うわけにはいかないから。


それなのに、アタシが話している途中で、お姉ちゃんは勝手に喋り始める。

その言葉はとても短いもので、



「悲しい顔をして笑ってるね」


たったそれだけを言い残すと、お姉ちゃんは目を閉じ、動かなくなった。



「何よそれ」


余りにその言葉が不可解過ぎて、眉間に皺がよる。



「ねぇ、どういう意味?それアタシの事?」


その言葉の意味が知りたくて、お姉ちゃんの襟を掴み揺するが、目を開けようとしない。



「まだ死なないでよ!教えて!それ誰の事?どういう意味?」


他人が死んでも、何とも思わなかった。

死んだ人間になんて興味はない。

アタシが欲しいのは、人ではなく、人間に流れる血そのものだから。

だから、対象が死ねば、獲物は次へと写る。

動かなくなった 物 なんて、ただの汚物、ゴミでしかない。


そんなアタシが、さっき始めた会った、名も知らないお姉ちゃんの遺体に必死にすがり付いている。

不思議。



「何も知らない癖に!

アンタに何がわかるのよ!」



グルグルと、走馬灯のように生まれた頃から、先ほどまでの思い出が流れていく。

楽しかったあの頃。

それが壊れたきっかけは、りょうだった。



「そうだ・・・・りょうが悪いんだ。

こうなったのも全部、りょうのせい!

あの日、あの時、自殺まで追い込んだのもりょう!

うちや近所にあんな写真をばら撒いたのも、きっと犯人はりょうよ!

りょうのせいで、アタシはこんな目にあってる・・・・・全部全部りょうのせい!」



大きな声で叫んだ。

憎き人物の名を。



そうだ、やっとわかった。

アタシがこうなったのも、全てりょうのせいなんだ。

許さない!あの男を!



お姉ちゃんから手を離すと、一目散に駅前を駆け抜ける。

りょうが居る、ホテルへと。


「はぁ・・・・っ・・・はぁ・・・・」


やっとホテルに到着した頃、普通の人ならもう寝てしまっている時間になり、周囲は静まり返っていた。

自宅からホテルまで、それなりの距離はある。

途中でタクシーにでも乗ろうと思ったけれど、不思議な事に、誰一人として止まってはくれなかった。

酷いわね。

アタシがまだ子供だから、運転手にナメられたのかしら?

だから、ひたすら走ってここまで戻ってきたわけ。

お陰で息は切れ、足がふら付く。

こんなに必死に走ったのも、一刻も早く りょう に会う為で、

運が良かったのか?ロビーを見渡すと、隅っこの椅子で何やら話しをしているりょうの姿がみえた。


そちらの方へ、ズカズカ近づいていく。

距離が縮まるにつれ、アタシの存在に気づいたりょうは、驚いた顔をしながら、


「どうしたんだ、その血。大丈夫か?」


なんて、早速話を別の方へズラそうとした。

そんなんで、アタシを騙せるとおもっているの?

もうその手にはかからないんだから!



ドンっと、目の前にあるテーブルを叩くと、


「どういう事!あんな写真をうちと近所にばら撒くなんて酷いじゃない!」


りょうの事をにらみつけると、



「え?写真?ばら撒くって何?」


苦笑いを浮かべながら、しらばっくれた。

そんな演技に騙されないんだから!



「アタシには全部バレてるのよ!

アンタが、アタシを酷い目に合わせる為に、前もって写真をばら撒いた事は!

いつもそう!

アタシにわざと優しくして惚れさせたのも、告白させたのも、サナエを自殺に追いやった事も、その罪を全てアタシになすりつけた事も!

全てアンタが仕組んだってわかってるんだからね!」



ここまでバレてるっていうのに、相変らずりょうは苦笑いのまま。



「え?いや、写真は知らないし。

っていうか俺、お前に告白された記憶なんてないんだけど。

そもそもサナエが自殺とか知らないし・・・・ん?何か聞いたことがあるような・・・・」



ほら!尻尾を出した!

何が聞いた事があるような・・・・よ、アンタが首謀者じゃない!



「告白した事を忘れたっていうの?最低!

いや、そもそもアンタって最初から最低だったわよね!一回もデートしてくれなかったし!」



「はぁ?何言ってるんだよ。怪我して頭がおかしくなったとか?

早く治療してやるから、落ち着けって」



りょうの両手が、アタシの肩に伸びる。

あの時、一度も手を繋いで帰ってくれなかったくせに、気安く触らないで!


その手を振り払うと、アタシはりょうの襟を掴んだ。

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