天誅 6



「・・・・はぁ・・・・・・っ・・・あははは・・・・」


逃げた奴を除き、うちに押しかけてきた奴らを皆殺しにした。

周りには、無数の遺体が転がる。

余計な事をしなければ、死ななくて済んだのにね。



遺体を踏みつけながら、母が居る2階のバルコニーへ近づいていく。

グニャグニャしてて、歩きづらかったから、少し時間がかかっちゃったけど。


真下へ辿り着くと、


「ママ、見て!ウザイ奴らを、全員殺したよ!

これでアタシ達が死ぬ必要はなんてないの!

安心して、玄関の鍵を開けてよ!」



万遍の笑みで、母に訴えかける。

もう、うちの家族を困らせる 者 は居なくなった。

だから、これで母も扉を開けてくれるだろう。

アタシの事を、快く出迎えてくれると、そう信じていた。



それなのに、



「・・・・やっぱり、あの写真は本当だったのね・・・・」



さっきまでの嗚咽は消え去り、低く乾いた声。



「私の育て方が悪かった?生んだのが間違いだった?

・・・平気で人を殺す子を、生み出してしまうなんて・・・・」


「なんで、そんな声を出すの?

アタシはママの為に、ウザイやつらを殺したのに」



聞いて、アタシの声を。



「どうして無実の人達を殺したの?皆、何もしてないじゃない!」


「アタシが死んだら悲しいでしょ?

それにこのまま奴らを生かしておけば、間違いなくママの命だって狙われたはず」



アタシの話に耳を傾けて。



「貴方が人を殺す姿なんて、この目で見たくなかった!

どうしてココに戻ってきたの?もう、たくさんよ!」


「だからそれは・・・、ママを助けようと思って・・・・」



アタシは悪くない。

だから、話を聞いてー・・・・。



「ここから出て行って!貴方の顔なんて見たくない!」



アタシの名前を呼んで!貴方なんて言わないで!


「ママ!・・・だから、これは・・・・」


引き続き誤解を解く為、2階に向かって両手を伸ばしたその時、

バリッ という、何かが割れた音が後方から聞こえてきた。


また誰かが押しかけてきたのかしら?懲りない奴らね。


音の原因を探るため後ろを振り返ると、アタシから2m程離れた位置に、割れた花瓶と花が無残の転がっていた。

その花瓶には見覚えがある。

まだこの家に住んでいた頃、ママが趣味で育てていた花を植えていた物。

それが、どうしてここに転がっているのだろう?

不思議に思い、それを眺めていると、次々とバルコニーから物がこちらへ飛んでくる。



クッション、枕、洋服・・・・。

それは全て、見た事がある物。

うちに置いてあった物だ。


それが、なんで2階から降ってくるの?

思考が停止してる。

頭が回らない。

呆然と立ち尽くしていると、どんどん物は投げ捨てられていく。



「早くココから出て行って!人殺し!殺人鬼!アンタの顔なんて、見たくない!」


ヒステリックな母の声。



そしてアタシは、ようやくある事に気づいた。


もしかしてこれは、母がアタシに向かって投げている?

アタシをココから追い出すため、威嚇してるの?



嫌よ、家の中に入りたいの。

だから、そんな事しないで・・・・。

悲しくて、胸が張り裂けそうになる・・・・。



「ママ!コレは何かの間違い!アタシは悪くないの・・・!」


必死に声を振り絞ると、母はようやく姿を現した。

まるでゴミを見るような冷たい目で、アタシの事を見下ろしている。

今まで見た事がないその表情に、ゾクっと寒気が走った。


そして、



「消えて疫病神」



耳を疑いたくなるような言葉と共に、頭にガンっと衝撃が走り、アタシはその場に崩れ落ちた。

何かが、頭にぶつかった。

ゆっくり目を開けようするが、目に何かが入って開けられない。

必死に擦り、目の中の異物を排除し、地面に転がる物を確認した時、このままここに居てはいけない事を悟った。



地面に落ちていたのは、ハンガー。

そのハンガーの周辺に血痕が飛んでいる。


必死に目を擦った左手にも、さっきの奴らを殺した物とは別の血が付いている。

そして何より、目の前のガラスに映った、額から血を流し立ち尽くしている自分の姿を見た時、

ママが本気でアタシの事を排除しようとしているとわかった。

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