植え付けられる恐怖 3

目の前にあった幕が降ろされると、鮨詰め状態に群がる街人と目が合う。

そこに居る、何百という人間に言葉を失う俺達。


「・・・・・・」


そしてそれはそちらも同じだったみたいで、

全身黒尽くめで、見慣れない異様な姿をした俺達を目の当たりにした街人達も

先ほどのざわめきがまるで嘘のように静かになった。



全員言葉を発する事なく、互いを見詰め合う・・・・・所謂お見合い状態が数秒続くと、



「何しているのですか?皆さん!早く任務をこなして下さい!」


背後から、係員の急かす声が聞こえてきた。



「そう言われても・・・・、なんていうか・・・・・」


やりにくい。

やらなくちゃいけない事は、十分理解しているのだけど・・・・・中々漆黒の翼を出す勇気が出なかった。


それは、目の前に居る人達が、確実にモンスターである という実証がないからだ。

モンスターなら、ひと思いにザックリイケるのだけど、恐らくモンスターではない人間だって混じっている。

その人達を殺すには、覚悟を決めたとはいえ、いざ目の当たりにすると決心が揺らいだ。



「どうするの?・・・・涼」


それは、マリアも同じみたいで、珍しく俺に質問をしてくる。



「僕は反対だ。出来ないよ・・・」


腰抜けハヤトにいたっては、想定通りの弱虫発言をする。

お前なんて、モンスターですらまともに討伐してねぇだろ!雑魚は黙ってろよ。



「ちょっと待って下さい!皆を説得しますから・・・」


振り返り、背後に居る係員に交渉しようとした時、




「だーかーらー、もう痛くて我慢出来ないのよぉおおおお!!!」


ミカのそんな叫び声と共に、



「きゃあああああああああっ!!!!」


街人の叫び声が、響き渡る。



振り返りると、それはまるでスローモーションのように、

すぐ目の前に居た老人が喉から血を噴出しながら崩れ落ちていった。


「はぁっ・・・はぁっ・・・、つべこべ言わずに、さっさと皆殺しにするわよ」


息を切らしながらそう話す、ミカの腕についているカギ鉄鋼から血が流れ落ちる。

その血は、今目の前で息絶えた老人から流れた血だ。



勝手な行動をしやがって!!

リーダーは俺なのに!!


「勝手に何やってるんだ!」


と、俺がミカを注意しようとしたつもりが、それをかき消すかのように、



「きゃあああああっ!!!人殺し!!!」


女性の甲高い声が響く。


「テロだ、テロに違いない!」

「皆逃げろ!」

「警察!誰か警察を呼べ!」


街人の叫び声と共に、一斉にその場を逃げる者、こちらに立ち向かおうとする者でドタバタとしたこの場は、

先ほどまでの静寂とは打って変わり、混沌とした現場へと変貌を遂げた。

その混沌とした現場に俺達は、ただアタフタと立ち尽くすばかりで、


「ちょ・・・あっ・・・、どうするんだよ!!涼!!」


いつもはリーダー面のハヤトが、俺に質問を投げつける。

しかし、俺もそのドタバタ劇に頭がついていく事が出来ず、



「待てよ!今考えてるんだから!!」


そう怒鳴り返すしか出来なかった。


冷静になれ!俺はリーダーなんだから!

でも、どうしたらいい?この場を沈めるには・・・・。

やっぱり、殺すしかないのか?

殺すにしたって、もう逃げた奴だっている。

皆殺しには出来ない・・・・、それじゃあ昨日のファミレスの二の舞だ!!!

くそぉっ!


考えるにしても・・・・・、あまりの出来事に、冷静になる事が出来ず、頭がパニックだ。



「・・・・アリス・・・」


マリアも不安になり、アリスの名前を呟くと、手に持っていた小包をギュっと抱きしめた。

いつも冷静なマリアがこんな行動を取るなんて、余程の事なのだろう。




「やれやれ・・・・、だから言ったじゃないですか。

私達も拳銃で応戦しますから、皆さんも早く漆黒の翼でサックリやって下さい」


係員は大きなため息を付くと、手下に何かを指示を出す。

手下が何処かへ走っていき、それを確認すると懐に手を入れ、

そこから拳銃を取り出す。



「持ち場についたら、お前達も早く殺すんだ」


そう呟くと、逃げていく街人の背中に、無差別に パンパン 拳銃をぶっ放した。

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