第123植え付けられる恐怖 1
「到着しました」
車が停車し、降ろされた場所は、広場だった。
特に何があるという訳でもない、だだっ広い広場に200人前後の人間が集められている。
・・・ここで俺達は何をするのだろう?
疑問に思いながら、そこに居る人間を、見渡す。
ヘラヘラ笑っている奴。
怪訝そうな顔をしている奴。
老若男女問わず、さまざまだ。
係員に連れられるまま、俺は簡易に作られた控え室に通される。
控え室と行っても、テントの中にパイプ椅子が4つと机があるだけ。
一番奥にある椅子へ歩くと、それに座り込む。
なんとなく、手前に座る勇気はまだなかったから。
「あの・・・・、僕達はここで何をするんですか?」
リーダーの俺を差し置いて、ハヤトが係員に尋ねた。
・・・・さっきまで、情緒不安定かと思いきや、出しゃばりやがって。
すると係員は、手に持っている書類をパラパラ捲りながら、
「貴方方には、ここでパフォーマンスをして頂きます」
無表情に、そう答えた。
そもそも、今ここで出会ったこの人は何者なのだろう?
初対面にも関わらず、俺達の存在を全て知っているみたいだ。
俺達の存在が国民に発表されたのは、つい最近の出来事。
それにも関わらず、俺達の事を全て知り尽くし、指揮を取る、この人物が気になる。
そして、ずっとあの男が目を離さず眺めている、あの書類は何なのだろう・・・・。
「パフォーマンス?・・・・・それはもしかして・・・・・」
まだパフォーマンスとしか聞いていないにも関わらず、ハヤトの顔が歪む。
何かを察したみたいだ。
「もしかして、また真鍋が偉そうに面倒な事言い出すんじゃないでしょうね?」
パンをモグモグ口に頬張りながら、ミカも首を突っ込む。
マリアは、大切そうに小包を抱えたまま、俯いている。
そして俺は、口を挟む事なく、一番奥の場所から、係員の書類を見つめていた。
「これは真鍋さんの指示です。皆さんには、それに従って頂きます」
書類から目を離すと、こちらをチラっと見た。
しかし、すぐに書類へ視線を移す。
その行動は、とても人間とは思えず、ただのロボットに見えた。
「これから皆さんには、パフォーマンスをして頂きます。
内容は簡単、あの広場に居る 物達 を、なるべく残酷に殺すだけ」
物・・・・という事は、あの場所に居る人間は、罪人なのか。
冷静に物事を考える俺と、
「それは、どういう事だ!」
ドンっと目の前にあったテーブルを叩くと、声を荒げるハヤト。
しかし係員は、そんなハヤトの行動に驚く所か、眉1つ動かす事なく、
「そのままの意味です。ただ残酷に殺すだけです。
もうすでにシナリオな出来ていますから、皆さんはただ目の前に居る人間を一人残らず殺せばいいのです。
ただ、1つ注意して欲しいのが、簡単に首を跳ねるのではなく、なるべく両手や両足を斬ったりして欲しいって事だけですね」
普通の人間なら、驚くであろう出来事を、動揺する事なく、まるでそれが当たり前の事のように話す。
「そんな事をしてどういう意味がある?!
仮に、あそこに居る人間が罪人だとして、殺す必要があるにしても、楽に死なせてやればいいじゃないか!」
ハヤトの怒りは、頂点へと登りつめる。
すると、今まで無表情だった係員は少しだけ驚いた顔をすると、
「罪人・・・・?いえ、今この場所に集まっている人たちは、罪人ではありませんよ。
ただこの街に住む人間です。
彼らには、生贄になってもらうのです。
これから始まる、新しい法律と政治を円滑に進める為に」
すぐにまた真顔に顔を戻した。
どうやら、ハヤトの怒りに驚いた訳ではなかった様子。
そんな係員の態度が、ハヤトの怒りに油を注ぎ、
「何を言っているのか、わかっているのか?
そんな話、許される訳がないだろ!!
大体、悪口を言った人間を殺す時点で狂っているというのに、何もしていない人まで殺すなんて!」
大きな声で怒鳴り散らす。
あぁまた始まった。
ハヤトの情緒不安定。
しかし、そんな事で係員は動じる事なく、
「真鍋さんの命令は、絶対。
それに従えないのであれば、そこに居る街人と同じく、死ぬだけです。
では、準備を整えましたら、また呼びに来ますので」
ペコリと頭を下げると、係員はテントを、後にした。
ハヤトは怒りが収まらず、荒い呼吸をしながら、立ち尽くしている。
静かになったテントの中。
最初に口を開いたのはミカで、
「な~んだ。これから討伐するなら、もうパンを食べる必要はないのね」
そう言うと、手に持っていたパンを、机へと放り投げた。
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