第109話人とモンスター 8

「今、景気が悪いでしょ?ボーナスがカットされちゃって・・・・・」


ボーナスがカットされたって、毎月給料が貰えるだけマシだろ。

兄だって働いてるし、母は専業主婦とは言え、一番金がかかる学生の俺が居ないんだ。

父と兄の給料で十分生活出来るはず。

騙されてたまるか・・・・・。




「お母さん、この前階段から落ちて、足首を骨折しちゃったのよ~。

やっと松葉杖無しで歩けるようになったけど、まだまだ完治するには時間がかかるって先生が。

治療費も結構かかっちゃって・・・・」


骨折ねぇ・・・・。

完治するまで、時間がかかる割りに、スタスタ歩いてるんじゃねーか。




「おばあちゃんがボケちゃって、先月から老人ホームに入居したのよ。

お母さん一人じゃ面倒見れないから、預けたんだけど、あそこ凄いお金かかるのよ!」


まるで自分が金を払っているみたいな言い方をしてるけど、

どうせばあちゃんの年金で賄えてる癖に。

ばあちゃんが看護師として、定年までバリバリ働いていた事は俺も知っている。

年金だって、自分一人が生活するに困らないだけ貰っていた。




母の言葉は、何一つ響く事はなかった。

ただ「金が欲しい言い訳」にしか聞こえなかったんだ。

絶対に、金なんて渡す気はない!・・・・と思っていたけど、

とある話を聞いた時、俺の気持ちが大きく揺らぐ事になるなんて、考えもしなかった。




「一番の問題は、お兄ちゃんなの・・・・。

実は、会社を半年前に退職してねぇ・・・・」


・・・ゴクリ。

俺は思わず、唾を飲み込む。



いつも比較され続けた、兄。

母が愛してやまなかった兄。


それが、会社を辞めたねぇ・・・・。

俺は、どんなにイジメられ続けても、学校に通い続けたのに。



「それで、なんで会社を辞めたの?」


ようやく俺は、口を開いた。

無意識に表情が緩む。


「頑張って働いてたんだけど、上司が癖のある人でね。

陰険にイジメられたのよ!

それで、お兄ちゃん精神的にやられちゃって・・・・」


その言葉を聞き、俺の脳裏にハヤトの顔が思い浮かんだ。

いつも女王様と真鍋さんの悪口を言い、モンスターを討伐しようとしないハヤト。

あいつと兄の顔が、重なる。


イジメられただって?

それ本当に、イジメだったのか?

ハヤトは、特にイジメられた訳じゃないけど、女王様達の悪口を言う。

それと同じなんじゃないの?




「それって、兄ちゃんにも悪い部分があったんじゃないの?

真面目に働かないから怒られたとかさ。

ClearSkyにも居るんだ。文句ばっかり垂れて働かない奴」


真面目にモンスターを討伐している俺に対して、女王様と真鍋さんは優しく接してくれる。

しっかり仕事をこなさなかった、兄が悪いに決まってる。

俺が石川達にイジメられていたのとは、訳が違う。

諸悪の根源は、兄に違いない・・。




「そんな事ないわ!お兄ちゃんが真面目に働かない訳ないじゃない!

・・・・でも、あの子。

私に似て不器用だから、誤解されちゃう部分があるかも知れないわね・・・」


不器用?そんな理由でイジメられねぇよ。

そもそも、会社に出社しない兄の心配を、何故しているのだろう?

俺が学校に行きたくないって言った時は、「死ね」という言葉を発した癖に。



・・・・・やっぱり、母さんの頭ももうすでに犯されてしまっている・・・?



ダラダラ話をするのは止めよう。

話すだけ、時間の無駄。



スッと立ち上がると、


「風呂沸いてる?身体中血だらけだから、風呂に入りたいな・・・」


そう言うと、


「今お風呂沸かすからちょっと待ってて!」


母は小走りで、浴室へと走っていった。



あれ?足、骨折したんじゃなかったっけ?

完治するには、まだ時間がかかるんじゃねぇの?

・・・・・愚か過ぎて、突っ込む気が起こらない。



考えてみたら、普通に会話していたけど、俺の全身には血痕がついている。

この状態で普通に会話出来た事の方が、不思議な訳で・・・・。

むしろ、先に風呂に入るように進めなかった母に多少の違和感を感じた訳だが。

まぁすでに、脳が犯されてるのなら、仕方がないか。

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