第28話マリア 5



翌朝、目が覚めた後、すぐにマリアお姉ちゃんの所へと向かった。


心臓に耳を当てると、


ドク・・ドク・・・。


心臓が動く音が聞こえた。

良かった!生きている!



マリアお姉ちゃんの隣には、昨日、食事の時間にスプーンを落とし、シスターに連れて行かれたトムも横たわっていた。


トムは生きているのかしら?

トムの心臓にも耳を当ててみる。


・・・・。

・・・・。

・・・・。



音が・・・しない?



何も音が聞こえない。

どうして?



トムの身体を触ってみると・・・・、生温かい。

温かいって事は、生きている!


鼻に手をかざしてみるが・・・・、呼吸は止まっているみたいだった。

口から息をしているのかしら?

口にも手を当てて見るが、呼吸はしていない様子。



どうして?

身体は温かいのに!




トムの身体を揺すってみるが、目を開ける事なく、身体がダラっと崩れた。


どうしちゃったの?

だって、温かかったじゃない!



「トム?おはよう!」


耳元でそう囁いてみる。

でも、返事は無い。


目を開けてくれない、喋ってもくれない・・・・どうして?




すると、隣から聞きなれた声が聞こえてきた。



「アリス、止めなさい。

トムはもう死んでいるわ、目を開けないの」



マリアお姉ちゃんの声だ。


「でも、身体を触ったら、温かかった!死んでなんか居ないわ!」


嘘じゃない!

触ったら、生暖かかった!


しかし、マリアお姉ちゃんは



「それは今だけよ。

じょじょにトムの身体は、冷たくなっていく。

皆そうだから・・・・トムはもう、目を覚まさないの」


死んだような目をしながら、淡々とそう答えた。



「だって、おかしいじゃない?

私はココに、 生きる 為に連れて来られたのよ?


前のまま、お家に居たら、死んじゃうから・・・・だから、お母さんとさよならしてココに来たのに・・・・」



私がココに来た理由。

それは、お母さんが私に食事を与えてくれなかったからだ。


ううん。

お母さんは家にずっと帰って来なかった。

私は、一人ぼっちで、ずっと、お母さんが帰ってくるのを待っていたのだ。

食べる物も底をつき、歩く事も出来なくなった時、

誰かが保護してくれて、ココで生活する事になった。


ココでは、食べる事も眠る事も、何も心配せずに暮らせる・・・・ってそう、聞いたのに・・・・。




「表向きには、ね。実際は違う。

知らないのよ、皆、ココがどういう場所なのか?


我慢するしかないわ。

大きくなれば、ココから出ていけるのだから。

そうなれば、私達は自由よ。

それまでの我慢なの」




なんとなく、気づいていたのよ。

1日過ごしただけでも、ココがどういう場所なのか?シスターがどういう存在なのか?

理解していたから。


でも、信じたくなかったの。


やっと、安心して暮らせるって、そう思ってたから。

そう思いたかったから。

だから、現実を見ないようにしていたのにね。



目から涙が零れた。



どうして私は生きているのだろう?

あのまま、お母さんが居なくなり、食べ物が底をつき、歩く事が出来なくなった時、そのまま死ねば良かったのに。


どうして、見つけたの?


あの時、私を発見した、あの人を私は恨んだ。

あのまま、私は死ねば、こんな悲しい思い、しなくて良かったのにね。



大きなお世話よ。

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