KEMONO DREAM MATCH 決勝戦
――野性解放を使わざるを得ない戦いが、そこにはある。
「それでは。かばんちゃん諸々お祝いイベントの目玉として企画された『ちゃんばら』合戦も決勝を残すところとなりました!」
「温泉にあるゲームみたいだねー、すごい。だらける暇もないよー」
「みんな強いや! すごいね!」
「サーバルちゃんもすごかったじゃない」
「そ、そうかな? えへん!」
「……はじめはちょっと怖かったけど。たまにはこういうのも、いいかなって」
以前かばんの提案によって行われたという、身体につけた紙風船をどちらが先に割るかで競う『ちゃんばら』合戦。
当初は怯えるような調子で見守っていたかばんたち観客も、いつしか盛り上がっていた。
司会の『プリンセス』ことロイヤルペンギンの声も熱を帯びる。
「これまでの熱戦を勝ち抜いたのはこちらのフレンズ! まずはセルリアンハンターとして日々私たちの生活を守ってくれている、キンシコウ!」
セルリアンハンターは元々目立たず平和を守ることを使命としている。だからいまいちみんなの注目を浴びることに慣れていないのだろう。恥ずかしそうに登場する。
私たちセルリアンハンターの代表としてここまで勝ち抜いたのだ、そんなにかしこまらなくてもいいんだが……まあそういう謙虚さがらしいといえばらしい、か。
「続きまして! じゃぱりとしょかんのハカセことアフリカオオコノハズク!」
ハカセと言われ慕われているこの小さなフレンズ、その体格に似合わず猛禽類としての無類の強さと、かばんにも勝る叡智を持っている。
このジャパリパーク全体を眺めても、おそらく最強にもっとも近い存在だろう。
「これは決勝戦にふさわしい好カードになりました。どう思いますか、イワビー」
「どっちが勝っても文句なし! 最強のフレンズが決まるって感じだぜ!」
「そうですね。フルルはどうですか?」
「……フルルはねー、あ、これー決勝なのー? はやいねー」
「えっ今になって!? ……あんたらしいわ」
会場内がどっと笑いに包まれる。
その様子を後方で眺めていると、ふたりのフレンズが声をかけてくる。
ヘラジカと、ライオンだ。
「……らしくなく心配そうにしてるじゃーんヒグマー。セルリアンハンターといっても相手はあのハカセだからねぇー」
「そういうお前はキンシコウとの準決勝、手を抜いていたんじゃないか?」
「まっさかー。やだなーそんなことはないさー、純粋に実力差だよー」
「ははは! 私も準決勝敗退だ! やっぱりハカセは強いな! ぜひまた決勝で本気のライオンと戦いたかったのだがな!」
「んー、めんどくさいからそうならなくてよかったよー」
口ではそうは言ってもヘラジカと戦うのならおそらくまた本気を出すのだろう。
「それでは! レディー……ファイッ!」
――そんなことを話しているうちに、はじまった!
「……信じてるんでしょー? なら、大丈夫さ」
……そうだな。
私たちは普段から巨大なセルリアンを降してきたんだ。ハカセといえど、後れは取らない。如意棒にしても身体的にしても、リーチでは圧倒的に勝る。
細かく牽制して近づけさせなければ……
キンシコウのスカートがひらりと舞う。
「哼ッ! 哈ッ!!!」
「如意棒、ですか……なかなか懐に入れさせてはもらえない、なのです」
「……高いところまで飛んで逃げてもいいんですよ? ハカセ」
「真面目なあなたが――無理した挑発ですね。負けることなど、ありえないのです。パークの長なので。まして、逃げるなど――!」
――疾い! あっという間に距離を詰め――
「……くっ!」
「あなたこそ、自分を創作の存在――孫悟空と思い込んでるフレンズなのではないですか?」
「……『あの時』私は何もできなかった。結果かばんさんを危険に晒してしまった。だからこそ――思い込みでも、独り歩きした噂でも、なんでもいい。私は……さらに強くならなくてはならない!」
……キンシコウ。そんなこと気にしていたのか。
くんっ――と如意棒を瞬時に持ち替え、突きをかわしたばかりのハカセを捉える。
「――!?」
ハカセは目を見開き、すんでのところで上体をくねらせる。
あれほどの不意をついてもダメなのか……とはいえこれで動きが止まった!
――今だ!
「もらいましたよ――呀ァッ!」
狙いすました一撃。動体視力の特別優れたフレンズでも対応できないだろう。
だが――それでもハカセの紙風船を割ることはできなかった。
「! 消え……」
「……ホォー……危ない、ですねェッ!」
……あれは……野生、解放!?
キンシコウも即座に野性解放して防ぎ切る。ハカセの攻撃は見た目よりもはるかに重いと、見ただけで伝わってくる。
「――っ! ……ハカセを本気にさせることができて、光栄ですよ」
「ホォッ!」
「嘿ッ! 呀ァァァーーーッ!!」
激しい応酬が矢継ぎ早に繰り出されていく。
観客も実況も、あまりもの闘気に、言葉を発することすらできずにいた。
普段は熱いところを見せぬふたりがらしくなく全力で戦いにのめり込んでいた、その時だった。
ズゥン……ズゥン……と地響きが近づいてくる。
! あれは――!
黒い、セルリアン――だと!? なぜだ、あの時倒したはずじゃ……!
「どうやらあの時のサンドスター・ローの飛来で誕生したセルリアンは、あの個体だけではなかったようですね……」
そんな……バカな。あんだけ苦労してやっと倒したっていうのに……!
「合戦は、中止。なのです。そのまま、最初から野性解放でいきますです」
「……そうですね。もとより出し惜しみはいたしません。ハンターとして、今度こそ――大切なフレンズを守ってみせます!」
――黒いセルリアン。さすがに以前ほどの大きさもなく、『あの時』を経験したフレンズ総出ならば苦労する相手ではなかった。
ゆうえんちのパーティーで多くのフレンズが集結していたことが幸いしたということになるだろうか。
「……ふぅ。ちょっと本気出せば余裕なのです。われわれは猛禽類なので」
「さすがはハカセです。高いところからの急降下はやはりお手の物ですね」
「そういうあなただって、よくセルリアンを引きつけ、足を止めてくれました」
「……ハカセ」
キンシコウとハカセは和やかに笑い、お互いの健闘を称え合う。
そんなふたりに美しさを感じていたところで――あることに気づいた。
対セルリアン戦で、どちらの紙風船も割れてしまっていたようだ。
「結局、合戦どころじゃなかったですね、ふふっ」
「……ふ。そうですね。引き分け――ということにしましょう、なのです」
「次は、勝ってみせますよ。」
「ふ。言ってろ、なのです」
――こうして、思わぬトラブルに見舞われながらも、『ちゃんばら』合戦、およびかばん送別会は幕を閉じた。
おそらく、この『ちゃんばら』はへいげんで盛んに行われている球蹴りと同じく、今後もフレンズたちの間で盛り上がる競技となることだろう。
フレンズたちの野性を呼び覚ます戦いは、終わらない――
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