第64話 合流と魔王サタンの危機

「ここは・・・人間の町か?」


突然城壁の前に出現したのは魔獣王ライオルと妖鳥シレーヌ、そして魔王サタンの娘マインであった。


「おじさん、お母さん。あれを倒す為に協力して」


マインの真剣な眼差しに2人は互いを見合わせ考える。

元々人間を滅ぼす目的でドラゴンを生み出したのは魔族なのだ。

だがこのままではそのドラゴンに魔族も人間族も滅ぼされてしまう。

今のドラゴンは様々な魔族の魔力を取り込んだ上で3柱の1人、ベルゼブブをも取り込み恐ろしいほどの魔物と化していた。

実際魔王サタンが1人で抑えていられるのが異常なくらいである。


「おや?あなた方は?」

「ダーリン・・・ロクドーさんに会いたいの、マインが来たって伝えてくれる?」


近寄ってきた兵士に声を掛けられマインは答える。

元々魔族との戦争中だったので人間では無いとバレルと面倒な事になると理解しているので一応変装はしていた。

全身の毛が目立つライオルはフードつきのマントを被り、手足が鳥のシレーヌは衣類で誤魔化していた。


「ロクドーさんの知り合いか?分かった少し待て」


その兵士の対応にライオルは目を見開いて驚いていた。

通常であれば魔族の3柱の1人である魔獣王ライオルが普通の人間の前に立てば人間はその魔力に当てられて恐怖に震えてもおかしくなかった。

だがそこに居たたった一人の兵士から感じた魔力はライオルに及ばないがそれでも通常の魔族以上であったのだ。


「まさか・・・」


そう言ってライオルは城壁からドラゴンと魔王サタンの戦いを眺める人間に視線を移し驚愕した。

視界に入る人間の殆どが魔族の中でも強者と呼ばれるのと等しいレベルの魔力を保有していたのだ。


「人間とはこれほど凄まじい種族だったのか・・・」


ライオルと共にシレーヌも視線を向け頷く。

自分達が戦いを挑んだ相手の強さも計れなかった愚かさを嘆いていたのだ。

幾ら魔物を攻め込ませても相手にすらなってなかった理由がやっと判明したのだ。

そして、2人は背筋にゾクリと寒気を感じた。

ありえない次元の魔力を持つ個体が存在する事に気が付いた。


「あっお母さんとおじさん、多分ソレがダーリンだよ。でもかなり弱ってるみたい・・・」

「これでか?」


この時3人が感じた魔力は勿論ロクドーの物であった。

だが中華キャノンを放つのに殆どの魔力を使い果たし、やっと回復しだした魔力もソロ筐体6台を生み出すのに使った為に殆どなくしていたのだ。

それでも魔族の3柱誰一人として遠く及ばないレベルの魔力であると確信していたのだ。


「マイン・・・貴女の彼氏?」

「ううん、まだだけど・・・それにお姉ちゃん達も狙ってるの」


恥ずかしそうに否定しながらも母からそう尋ねられれば当然嫌ではないマイン。

人間相手に恋なんてって言われないだけマシなのだ。

それくらい人間と魔族の関係は悪かった。

そのせいもあり人型に近い魔王サタン寄りの種族は昔から迫害されていたと言うのもあった。

だが、魔族は実力社会。

当然魔力が強い者が正しいという考え方が一般的なのだ。

そうこうしているあいだに先程の兵士が戻ってきた。


「連れて来るようにとの事だ。だが今はあの状況だ、あまり時間は取れないぞ」

「感謝する」


普段であれば人間などに頭を下げるなんて、と考えるライオルであるが自然と感謝を返していた。

人間であっても強者には礼を尽くすのが魔族なのだ。

そうして兵士に連れられて行った城壁の上で3人は固まった。


「ロクドーさん、私頑張るから応援してね」

「あぁ、見せて貰うよ」


エミに膝枕をされてアリスに魔力回復ポーションを飲ませてもらいながら横になっている人間が居た。

そいつにマインの姉であるアイが手を握って会話をしていたのだ。

そして、手を離して戻ってきたマイと入れ替わって今度はマイがロクドーの手を握る。

まさかアレが?

そう言いたそうに二人はマインを見る。

勿論ロクドーの体から絶望的な程の異常な魔力を感じてはいるのだがライオルにとっては3人の姪、シレーヌにとっては娘があんな女垂らしに・・・

そう考えてもおかしくは無かった。


「ダーリン、大丈夫?」

「えっ?」


そんなハーレムを満喫しているようにしか見えないロクドーに、母であるシレーヌですら聞いた事の無いような甘えた声で話しかけたマインに驚いた。

そして、視線を移されてマインと二人がいるのに気付いたロクドーは起き上がった。


「すみません、ちょっと具合が悪くて横にならせてもらってました。それでお話と言うのは?」

「私は魔族の3柱の1人、魔獣王ライオルと言う。貴方が人王か?」

「えっと?俺は単なる一般人なんですがね」


お前の何処が一般人なんだと周囲から聞こえてきそうな視線が集まるがロクドーは気にした様子も無く普通に会話を始めた。

話してみれば人間であろうが魔族とは言葉も通じるし考え方もそれほど変わらない、だからこそライオルは自然とロクドーを受け入れつつあった。

ライオルはまだ独身だが王とは子孫を残していく為に妻を多数娶るのが当然である。

だからこそロクドー程の強者であればソレは当然であると考えたのだ。

なにより、今現在周囲で多数の人間が踊って叩いて演奏している大きな物から次々と魔力がロクドーに流れ込んでいる。

リアルタイムに更なる高みへと進化を続けている目の前のそれが人間とは到底思えなくなっていた。


「なるほど、分かりました。こちらも戦争を長く続ける気は当然ありませんから」

「感謝する、こちらから仕掛けた戦争だと言うのに」


ライオルとシレーヌが頭を下げて懇願したのは戦争の終結であった。

ベルゼブブがドラゴンに喰われた時点で魔族側は負けたも同然である。

しかも人間側に被害は皆無であったと知ればこれ以上続ける意味なんて当然無い。

全滅するまで戦ったところで残された魔族の事を考えれば降伏を宣言した方がはるかにいいのは明白であった。

そして、ロクドーはコンマイ国王からその権限を一応与えられていた。

だからこそ今この場で戦争集結が決定したのだ。


「となると、残るはアレだけですね」


そう言って全員が視線を移したときであった。

魔王サタンがドラゴンの尾の一撃を喰らって吹き飛んだのが見えたのだ。


「お父さん!?」

「あなた!!」


コンマイ国の城壁からかなりの距離が在ると言うのにその光景が見えているマインとシレーヌが声を上げる。

慌てて飛び出しそうになったマインの手をロクドーは握った。


「確か、マインだったよな?あれが君のお父さんなのか?」

「うん、お父さん1人でお母さんとおじさんを助ける為に・・・」


そう言われてロクドーはドラゴンに視線を向けた。

先程よりも更に強くなっているそのドラゴンを倒す手段をドワーフのガイルが思いついたと言ってたのだ。

だからこそ準備が整うまでは時間稼ぎをして貰えている今は非常に助かっていた。

しかし、それが知り合いの父となれば話は別である。


「助けに行けるか?」

「うん、でもドラゴンの気を何とか反らせないと」

「それなら任せて!」


そう声を掛けてきたのは先程までギターフリークスでプレイし続けていたエルフのリュリが立っていた。

激しくプレイをしていたせいで顔はうっすらと汗をかいていた。


「あのドラゴンを一瞬止めて見せるから助けてあげて」

「誰だか知らないけど・・・分かったお願い」


マインはリュリと見合って互いにロクドーに惚れている者同士だと瞬時に理解し合った。

既に姉2人、膝枕をしていたエミ、ポーションを飲ませていたアリスとライバルが居たので4人が5人に増えても然程変化は無い。

そして、マインは近くの影の中へダイブした。


「それじゃあ1発お見舞いしようかな!」


チラリとロクドーの顔を見ていい所を見せるからしっかり見ていてとアピールしたリュリは魔力で作った弓を出現させる。

それはまるでロクドーの空想具現化の様に魔力を固めて質量を生み出す異常な行為である。

普通のエルフには当然こんな事は出来ない、だが音ゲーをやり続けたリュリは自身の魔力が異常な程上昇してきた際に思いつきでやってみたら偶然出来た事であった。

非常識を非常識と認識しなかったからこそ出来た奇跡の魔法。

そして、当然その矢も魔力によって生み出される。

そのままの姿勢でリュリはタイミングを計るのであった。





「ぐはぁっ!くそぉ、まるで効かんな・・・」


魔王サタンは痛む体を鞭打ちながらドラゴンの顔面を蹴り飛ばした!

しかし、吹き飛ばされつつも何度も反撃しドラゴンを攻撃したのだが闇の衣に全て受け止められているのかダメージは殆ど通っていなかった。

それを悔しそうに睨みながら再び尾の一撃をかわした。

ドラゴンの攻撃は基本的に噛み付きかブレス、そして尾の振り払いである。


「しかし、このままでは・・・」


ダメージを与えた様子も無ければドラゴンの魔力が減っている様子も全く無い、となれば先に魔力が尽きて動けなくなるのは魔王サタンであるのは明白。

どうやってダメージを与えようか考えてながら飛び上がったのは失敗であった。

振り払われた尾は飛び上がって回避したのだがそれを読んでいたのかドラゴンの体がそのまま魔王サタンの方へ倒れてきたのだ!


「しまっ?!」


迫るのはドラゴンの短い腕、だが短いだけで決して使い道が無いわけではなかった。

その爪が一気に伸びてサタンの体を引き裂こうと振り払われたのだ!

そして、その一撃が魔王サタンの肩から脇を切り裂き吹き飛ばした。

地面をバウンドしながら吹き飛ぶサタン。

そのサタンをそのまま捕食しようとドラゴンは口を伸ばした。


「お父さーん!!!?」


近くの岩陰から飛び出したマインはそのままサタンの方へ駆け寄る!

だがこのままでは間に合わない、傷が深いサタンはピクピクと痙攣していて危険な状態なのは目に見えておりドラゴンの口を回避する事が出来そうに無かったのだ。

喰われる、そう考えて無我夢中で飛び出したマインであったがそれが幸いした。

丁度ドラゴンの顔面にそれが着弾したのだ。

光る球体、それはリュリが魔力で生み出した水属性の矢であった。

しかし、そんなものでドラゴンの動きを封じる事はもちろん不可能。

だがそれに続いてもう一本の矢が全く同じ箇所に飛んできた。

その矢は火属性、それが水属性の矢尻に突き刺さりそれを引き裂きながらドラゴンの顔面に直撃する。

2本の矢、水属性と火属性、その2本の矢はそこで混ざり合いドラゴンの顔面で爆発を引き起こす!


水は熱せられて水蒸気となった場合に体積が約1700倍にもなるため、多量の水と高温の熱源が接触した場合、水の瞬間的な蒸発による体積の増大が起こり、それが爆発となる。

それが水蒸気爆発である!

体積の増大、それは当然そこに存在するものを押し退けるように圧が掛かりドラゴンは顔面を一気に押される形で後ろへ下がった。

その隙にマインはサタンに到達しその体を抱え込むように周囲を覆っていたドラゴンの影の中へ飛び込んだ。

爆発の衝撃の中、マインはサタンを救出したのであった。

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