第45話 ビートDJマニア2DX 通称『弐寺』
・ビートDJマニア2DX
ビートDJマニアの操作デバイスにボタンを2つ追加し、さらにエフェクト機能の強化を図った機種である。
鍵盤が5から7に増えたことで音階が7音階になり『ドレミファソラシ』が鍵盤で演奏可能となった。
更に1P側はスクラッチが左側、2P側はスクラッチが右側になりプレイスタイルで譜面の難易度が大きく変わるのが特徴である。
ちなみに略称が『弐寺』ニデラと呼ばれるのは可動当初タイトルのDXを「デラックス」と勘違いした大多数のユーザーが勝手に呼び出したからなのは秘密である。
「す、すげぇ・・・なんだこの筐体は・・・」
DDRを見るのは好きだがプレイする自信はあまり無かった一人の男性が列に並んでいなかった為近くでポツリと呟く。
そのまま筐体に上がりいつもの様に指をコイン投入口に触れて魔力を流し込むとタイトル画面の音楽が流れ出した!
「う、うわっ?!」
あまりの大迫力の音量に驚いた男性であったが恐る恐るスタートボタンを押す。
男性は通常のビートDJマニアを普段から好んでプレイしており一通りの曲はクリア出来るほどの腕前である。
「えっ・・・4と5と7?」
スタートボタンを押して最初に表示されたそれに驚くのも無理は無いだろう、このビートDJマニア2DXには初心者も安心してプレイできるように3つのモードが搭載されているのだ!
・4つの白鍵盤のみを使用する4KEYモード
・5つの鍵盤のみを使用する5KEYモード
・7つ全ての鍵盤を使用する7KEYモード
「えっと、それなりに出来ると思うから7で・・・」
独り言を言いながら決定して選曲画面に入る。
そこは通常のビートDJマニアと似た様な画面で安心しながら選曲が出来るのだが・・・
実はここで罠が仕込まれていたりする。
このビートDJマニア2DXの初代には全部で32曲が収録されているのだが実は通常のビートDJマニアからの移植曲が何曲か存在しており・・・
「あれ?これって・・・おいおい・・・マジかよ・・・」
男性は操作感を掴む為に知っている曲をプレイしたのだがその曲は7KEYモードを選んでいるにも関わらず右の2列に譜面が一切降ってこなかったのである。
しかし、逆にそうであったからこそ男性は助かったと言う事も在った。
「何だこれ・・・幅が狭い?やりにくいな・・・」
そう、鍵盤が5つから7つに増えた事で鍵盤と鍵盤の幅が狭くなっているのである。
基本音ゲーと言うのは慣れてきたらブラインドタッチになるのが基本である。
その為、初めてのプレイで知らない曲を慣れない幅で演奏しなかったのは彼にとって幸運であった。
更に判定ラインの違いが大きくあった。
通常のビートDJマニアは赤い判定ラインと重なった時に鍵盤を演奏するのであるがこの弐寺は赤いラインの上に薄っすらと表示される緑のゲージに重なった時に演奏しなければベストタイミングとはみなされない。
つまり少し早めに演奏する必要があるのである。
「でもすげぇ音が良いなこれ・・・てっえっ?!」
男性が1曲目を終えて視線を感じて振り返るとDDRに並んでいた筈の人々が集まって集中して見学していた。
普段ビートDJマニアをプレイしている時にもこれ程人に見られる事の経験が余り無い男性は緊張の余りそこで固まってしまった・・・
その結果・・・
「あっ・・・」
時間切れで曲が決定されてしまった。
勿論スクラッチを回していないので初期配置に合っていた一番簡単な曲である『flo jack』が決定されてしまった。
通常のビートDJマニアとは違い曲数が何曲なのか分からないので男性は少し後悔していた。
後ろの見学の人々の事を考えると次はいつプレイできるか分からないのである。
DDRと同じであれば3曲、ビートDJマニアと同じであれば4曲・・・
果たしてどうだろうか?
そう考えながら最初の鍵盤を押した瞬間彼の目の前に新しい世界が開いた。
「す・・・すげぇ・・・」
観客からも唖然とする表情のまま囁くように声が漏れる。
通常のビートDJマニアとは段違いに良い音質で流れるこの世界には無いHIPHOPというジャンル。
それが実写ムービーと共に流れたのである。
残念ながら英語と言う地球の外国語なので意味は分からないが声が楽器となり見聞きしている人々を魅了した。
僅か1分40秒ほどの演奏であるが周囲に居た人々はまるで夢見心地と言う言葉がピッタリなウットリとした表情を浮かべたまま固まっていた。
その周囲の人々の顔が真っ暗になった画面に反射して映りこんだ。
(お、俺の演奏でこんなに多くの人が・・・)
男性が緊張のあまり演奏に集中出来なかった気持ちがこの瞬間吹き飛んだ。
最後の曲かもしれないと彼はスクラッチを回して覚悟を決める!
(や、やってやる!撃沈上等!俺は1人じゃない!)
1人である、変なスイッチの入った男性は事もあろうに一番難しい曲を選ぼうとスクラッチを回したのであるが・・・
GRADIUSIC CYBERとLUV TO ME(discomix)と言う2曲で彼の手は止まった・・・
他の曲が表示上限の☆5に対してこの2曲だけは難易度を示す☆が幅寄せされ6つ並んでいたのである。
(LUV TO MEは通常の5鍵盤にもあるが後ろになんか付いているし・・・この難解な文字列は一体何なんだ?)
勿論英語が読めない彼等はロクドーから聞き込みしたりしてローマ字読みに近い読み方はマスターしていた。
恐るべきは好奇心である、異世界の言語を好奇心のみで独学でマスターし始めているのである。
(グラヂウシクシベー?一体どういう意味なんだこれ?あっ?!)
そんな悩みをしている間に2度目の時間切れがやってきた。
GRADIUSIC CYBER、通称『騒音MIX』果たしてこれは音楽なのか?と聞かれても答えに困る曲である。
このメーカーが出しているシューティングゲームの様々な効果音と音楽を混ぜ合わせて作り出された迷曲の一つである。
そして、曲が開始されて誰もが驚きに包まれる・・・
「な・・・なんだあれ・・・」
曲の理解不能なリズムに加えセンターに流れるムービーに誰もが釘付けとなった。
ゲームをプレイしている人間には良く分かるムービーなのだがこの世界の住人にとってはゲームどころかSFいや、宇宙すら理解の及ばない世界なのだ。
その為そこに映し出される動画を完全に勘違いしていた。
「せ・・・精霊の世界だ!」
「おお・・・これが神の居られる世界・・・」
弐寺に向かって跪き祈りを捧げる者や感動の余り涙を流し始める者・・・
明らかに間違っているのだがプレイしている本人は降りてくる譜面をさばくのに必死でそれどころではない。
そして、何度もミスを繰り返しながら曲は遂に後半へ辿り着いた。
(残ゲージは74%・・・いけるか?)
曲終了時にゲージ残量が80%を超えていればクリアとなるのは通常のビートDJマニアと同じなのは分かっていたので気合を入れる男性。
そして、最後の塊を演奏しゲージ残量が・・・80%!?
「やったぁ!?」
思わず声を上げる男性に静まり返る周囲の人々。
上に上げた手を顔を真っ赤にしながらゆっくりと下ろす男性であるが一瞬送れて盛大な拍手が送られる!
恥ずかしがることは無いのだ、この世界で始めて弐寺の☆6をクリアしたのだから!
そして、弐寺の方は再び選曲画面が表示されていた。
「あっ4曲設定なのか・・・」
そう考えた男性はもう1曲の☆6のLUV TO ME(discomix)を選曲するのであった・・・
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