第43話 第1回DDRフリースタイル大会 その9
プレイが始まり2人は普通に踏んでいた。
先程のアイとマインのセクシーダンスの後だけになんとも物足りないと誰もが感じつつも曲は流れる。
しかし、ロクドーだけはそれに気付いていた。
1Pで踏むズーと2Pで踏むナーヤその流れてきている譜面が違うのだ。
実は曲が始まる前に1PのズーはRIGHTオプション、2PのナーヤはLEFTオプションを入力していたのだ。
そして、正面を向いて普通に踏んでいた2人は突如互いを向き合って踏み始める。
そこで観客の誰もがその動きを見て驚いた。
「な・・・なんで二人共同じ動きが出来るんだ?!」
そう、DDRのオプションで代表的なMIRROR。
これは上下左右が全て逆になるオプションである。
これを片方にだけ入力すると完全に鏡で見た配置になる。
それでは左右対称のシンメトリーな動きにはならないのである。
だがそれを現在筐体に上がっている二人は驚くべきアイデアで実現させていた。
1P側がRIGHT、2P側がLEFTを入力する事で配置は互いに内側を向いた状態の形となっているのである!
だがこれだけでは左右対称になるのは←と→だけである。
にも関わらず2人は全く同じ左右対称なプレイを行なっていたのだ!?
「そうか?!同時踏みをしているのか?!」
ロクドーが立ち上がり声を上げた!
2人のプレイ内容の秘密を解き明かしたのだ!
互いに向き合う形に↑を動かした状態のままでは1P側の←は↑に、2P側の←は↓になってしまう。
それを↑と↓は全部ジャンプして同時踏みで捌く事で完全な左右対称プレイを実現したのだ!
そして、互いに譜面を完全に暗記しているのであろう。
プレイしながら互いに同じタイミングで90度ずつ回っていく二人。
まさしくその動きは中央に鏡を置いて左右対称のモノを見ているそれである!
ただ普通に踏みながら回っているだけ、一見そう見えるプレイであるが2人の動きが完全に一致しているからこそこのパフォーマンスは栄えているのである!
そして、曲のラストである本来は↓矢印が互いに外側へ流れてきた。
それを2人は天を仰ぎ片手を上に上げながらもう片方の手で押して攻略した!
沸き上がる拍手、ラストの決めポーズまでしっかりと行なった二人に惜しみない拍手が送られるのだが次の瞬間驚きはMAXとなる!
「つ・・・つながってるぅうう!!!!!」
2人のクリアランクがSSランクと金色で表示されていた。
DDR2ndのSSランクとは1曲の譜面を全てグレート以上の判定でフルコンボした上に一定以上のパーフェクトを出さなければ出現しない。
つまり、2人してパフォーマンスを行ないながらフルコンボを画面を見ずに達成したのだ!
割れんばかりの拍手が送られる、普段スコアを狙った真面目なプレイしかしてないと思われていた2人だからこそその驚きは一際大きかった!
「ただ今の結果!8、9、9、10、8!合計44点!!!!」
その発表に会場は静まり返った。
それはそうだろう、フルコンボを取ったのは凄いのだが二人が行なったパフォーマンスは言ってしまえば練習すれば誰にでも出来る内容なのである。
だが、だからこそ審査する面々はこの評価を付けたのだ。
「ありがとうございました!」
エミの言葉に会場は再び沸きあがり手を振るナーヤとイマイチ居心地の悪そうなズーは奥へと引っ込んでいった。
「それではいよいよ最後のプレイヤーとなりました。実はエントリーの際にこの方から他の方がOKするのであれば最後を譲ってもらいたいと申し出がありまして自らオオトリを務めて下さる事となりました!」
エミの言葉に会場はざわつく、それはそうだろうパフォーマンスと言うのは他の人間と内容が被ってしまえば完全に後になる方が不利。
更に会場がヒートアップするかどうかも他のプレイヤー次第である。
その上見ている側にも疲れと言う物が溜まっていく、声援を送る観客たちも後半になるにつれてその疲れで声が出なくなっていたのだ。
誰もがそれを理解した上で自らラストを名乗り出たそのプレイヤーに期待が高まる。
「それでは登場してもらいまし・・・」
エミがそこまで口にした時にドゥキュンッ!っとDDRから起動音が出た!
誰もが気付かなかった。
いつの間にかその人物は筐体の前に立っていたのだ。
黒いズボンに白いシャツ、顔には銀のマスクを装着しているので一体誰なのか本来なら分からない。
(マスター?)
(マスターだ!)
(マスターだよね?)
(マスターじゃん!?)
銀のマスクをしているので正体を知られたくないのであろうがこの場に居る者の殆どはその人物に見覚えが在った。
ロクドーが音ゲーをメインに設置している酒場と言う名目のゲームセンター、そこの店主であるマスターにそっくりの髪型と背丈と格好である。
「マス・・・あの、お名前をお聞きしてもいいですか?」
「私はミスターMと名乗らせてもらおうか」
(マスター・・・)
エミも危うく口に出しそうになるがなんとか耐え抜いて唾を飲み込んで落ち着く。
「そ、それではミスターMさん。曲は一体なんでしょうか?」
「ふむ、ならば私はこの曲を選ばせてもらおうか!」
そう言ってミスターMが選んだのはブンブンダラーであった。
ブンブンダラー:地球の80~90年代のユーロビートの代表曲の1つで当時のディスコ等で頻繁に流れた事で知っている人も多い曲である。
ちなみに雑学なのだがあの有名なモー○ング娘。の「L○VEマシーン」がこの曲をモチーフにして作られたと言うのは有名な話である。
「そ、それでは早速プレイしていただきましょう!マス・・・ミスターMさんどうぞ!」
予想外のプレイヤーの登場に誰もがその目を光らせる。
それはそうだろう、マスターと言えばいつもお店には居るが音ゲーをプレイしている姿は誰も見た事が無いのだ。
そんな期待の視線を一直線に受けてミスターMはそれを取り出した。
それは・・・雑巾である!!
「えっ・・・えぇ・・・えぇえええええええ?!?!??!!」
エミの裏返った声が響き渡る!
それはそうだろう、突然ミスターMは後ろを向いてバーを綺麗にし出したのだ。
ゆっくりと曲に合わせて流れてくる矢印を左右に移動しながら踏むその姿は美しく矢印の方向を踏んでいるのではなくミスターMの移動する方向に矢印が来ているように錯覚するほどであった。
そして、後ろのバーを綺麗にし終わったらしゃがみ込んで床のパネルの清掃を始めるミスターM。
「う、嘘だろ・・・」
プレイヤーがしゃがんだ事でゲーム画面が客席からハッキリ見える為に誰もがそれに驚いていた。
ミスターM、雑巾でパネルを拭きながら押し付けるように拭いたり体を動かす工程で足や膝を置いてゲームをプレイしているのだ!
一応イベント用のバージョンと言うことで曲の途中でゲージが0になっても直ぐには終了しない設定ではあるのだがその心配は全く必要なかった。
「おや、ここのネジ上がって来てますね」
パネルを清掃中に少しだけ上がりだしていたネジを懐から出した先端がプラスドライバーになった工具で締め出すミスターM。
筐体のメンテナンスをゲームをプレイしながら行なっているのだ!?
そして、曲の後半がやってきた。
バーも綺麗になりパネルも清掃が完了した上にネジのメンテナンスも終わり最後の締めに入ろうとした時であった。
突如客席を向いて両手を挙げて横へ飛び降りた!
曲がまだ終わっておらず矢印が流れてきているにも関わらずプレイを放棄したのだ!
そして、筐体の本体横へ移動してミスターMは足をクロスしてポーズを取り体重を本体に預けて親指を画面へと向けた!
それは最後の矢印が通過するのと同時であった。
丁度ぴったりとゲージの残り残量がその1歩分で0になり曲が終了するのと同時に閉店となった。
途中で曲が終了しないこのイベントモードであるが曲が終了した時点で残ゲージ量が0になっているとそこで閉店となる仕様なのである。
それを狙ったのかどうかは分からないがそこまで清掃やメンテナンスでゲージ残量をMAXにまで持っていき、最後の放置する矢印の数で丁度残ゲージ量が0になるのまで計算されたそのパフォーマンス。
その体勢のままポーズを決め続けるミスターMに対して静まり返っていた観客たちは1人・・・また1人と拍手をし始め会場は拍手で包み込まれた!
ミスターMは最後の最後を見事に務めきったのであった!
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