第19話 バージョンアップと出会い

「ファイアレインボー!」


草原で一人の女性が数匹の魔物相手に戦っていた。

だがその戦いは異様な光景であった。

少し離れた所でそれを見ていた冒険者達はそれを唖然と見詰める。


「なん・・・だあれ・・・」


それはそうであろう、戦っている魔道士であるナーヤの姿はどう見ても魔道士である。

ローブを羽織ってフードは外していて手には杖を持っている。

通常冒険者は数人で1匹の魔物と戦うのが普通である。

特に魔道士は接近されたら終わりなので剣士や闘士系の職業の冒険者とパーティを組み遠距離から援護するのが基本である。

接近戦が出来る魔道士なんて魔物とのレベル差がかなりないとまともに戦えないのが普通なので。


「アイスガトリング!」


再びナーヤから放たれる大量の氷の矢が魔物達を襲う。

そして、ナーヤは駆け出す!

そう、ナーヤは逃げ回りながら呪文を唱え振り返って魔法で攻撃、そしてまた逃げるを繰り返していたのだ。

まるで鬼ごっこ、ナーヤ一人で既に15匹ほどの魔物を倒しているのである。

だがナーヤの様な女の魔道士にやられるのが悔しいのか魔物達はナーヤを執拗に追い掛けその数はドンドン増える。

それでもナーヤは焦らず次々と処理していく・・・

その魔力残量が異常な事に気付く前にあれだけ動ける魔道士に驚いているので彼らは気付かない・・・


「ストームショット!」


突然ナーヤがその冒険者達の方へ土で作った槍を放って来た!


「おわっ?!」


その射出速度は異常でかなりの魔力が込められているのが直ぐに分かった。

そして、それは冒険者達の横をすり抜け彼らの背後から迫っていた一匹のゴブリンの腹部に突き刺さる!


「ぐげぇ?!」

「なにっ?!いつのまに!やるぞ!」


3人の冒険者達は背後から聞こえた声に振り返りそこに居たゴブリンに気付き一斉に襲い掛かる。

既にナーヤの土魔法で腹部に大ダメージを負っていた為簡単に討伐できたのだがその魔法の威力に3人は固まる。


「おいおい・・・マジかよ・・・」


一人が声を上げて残りの二人も振り返るとそこにはモンスターの死体の列が出来ていた。

その戦闘でナーヤは膝に手を置いて肩で息をしていた。

明らかに一人で20匹以上の魔物を討伐したナーヤ。

そして、冒険者の方を見て息を整えながら・・・


「すみませーん、お裾分けしますんで剥ぎ取り手伝って下さい~」

「あ・・・あぁ・・・」


あの気弱なナーヤは既にどこにも居なかった。

ロクドーにDDRで鍛えられた彼女は既にこの町でも一人前冒険者となっていたのだ。









「いや~助かりました」

「いえ、こちらそこ助けてもらって・・・」


ナーヤの手伝いをして魔石等を分けてもらった冒険者達も一緒に街にコンマイの町へ戻っていた。

今回の稼ぎだけで今週分の生活費は余裕で賄える、むしろ少し贅沢しても今週は余裕なくらいである。


「私一人だったらまた剥ぎ取りの最中に魔物に襲われてまた作業が増えていましたよ」

「ははは・・・」


ナーヤの言葉に教われることに対する恐怖は一切無い、それに驚く冒険者達はいつの間にかナーヤに惹かれていた。

見た目は少しふっくらとした幼さの残る女の子だがその肉体はどれほど鍛えられているのか、明るく自分に自信を持ったナーヤの笑顔は冒険者達の心を鷲掴みにするのに時間が掛かる筈が無かった。





「はい、こちらが今回の査定分です」

「ありがとうございます。それじゃこれどうぞ」

「えっ?いや、でも・・・」


ナーヤは利益を完全に4等分していた。

どう考えてもナーヤの取り分が少なすぎる。

でもそれに一切躊躇しないナーヤは告げる。


「私一人じゃこれくらいしか運べませんでしたからね、それにお仕事途中で中断させちゃったんでお詫びも兼ねて受け取って下さい」

「・・・分かった。それじゃここから今日の打ち上げの代金は出させてもらうな」

「はいっ」


ナーヤ信者がまた増えていた。

ここ数日ナーヤは討伐依頼を受けて出かける度に同じ様に知らない冒険者と帰ってきてこうやって知り合いを増やしていた。

本人的にはロクドーとDDRのお陰で魔力も肉体も鍛えられたのでそれを実戦で使うのが楽しいのでやっているだけなのだがそれが副次作用でナーヤの株を上げているとは本人気付いていない。


「あっ打ち上げするにはまだ早いですよね?ちょっとDDRして来ていいですか?」

「えっ?ナーヤちゃんDDRやるの?」


冒険者達もコンマイ国に滞在しているのでロクドーの出した音ゲーの事は知っていた。

だが音楽に興味の無い3人は一度もプレイするどころか見た事も無かったのだ。


「そろそろロクドーさんが帰ってくるらしいんで」


ナーヤはエミからロクドーが帰ってくる予定を聞いていた。

そして、3人のお供を引き連れてまるで鬼退治にでも出かけるようにいつもの酒場へ行った・・・

そこには丁度ロクドーの手によってバージョンアップした音ゲー達が勢揃いしていた。


『ビートDJマニア3rdMIX』

『DDR』

『ギターマニア』


2種類の進化した音ゲーに新しくギターと言う見た事も無い楽器の音ゲーにその場は盛り上がりを既に見せていた。


「おっナーヤちゃん来たね!」


店のマスターがナーヤの存在に気付いて声を掛けてきた。

以前は酒場のマスターと呼ばれていたんだがいつの間にか店長と呼ばれているマスターは先程ロクドーが来て音ゲーのバージョンアップと新作音ゲーを出現させて他の設置場所を巡りに出かけた事を教えてくれた。


「もう一つ上のレベルのマニアックレベルですか・・・」


その言葉にナーヤの目が輝く。

既に穴パラノイヤを安定クリアしていたナーヤであったが更に難しい難易度のレベルがプレイできると知って小さく歓喜していた。

その嬉しそうな表情に見とれる3人の冒険者はこの後ビートDJマニアにハマりプレイした事で魔力が上がり一気にその力を上げる事をまだ知らない・・・

彼らは共に考える・・・

ナーヤ様一生付いて行きます。と





「えーと、難易度選択画面でANOTHERにしてから『←←←→→→←→』と・・・」


画面下のANOTHERの部分が緑色のMANIACと言う表示になりナーヤは早速プレイする。

勿論自信は在るが今までよりも更に難しいと言う事で最初はNOMALを選択するのだが・・・


「なにこれ・・・レベルが一番低くて5?!」


その場に居る誰もがその表示に恐怖を覚えた瞬間であった・・・

そして、そこへ偶然やって来た麻薬中毒者の様な目をした男『ズー』

ナーヤが驚く画面を見て彼もまた唸り声を上げていた。


「更に上の難易度だと?・・・くくく・・・おもしれぇ・・・それにあの女・・・」


ナーヤを見詰めるズーの視線、まるで獲物を狙う鳥の様な鋭い目つきにマスターはズーがナーヤに何かしないか警戒するがズーはナーヤのプレイを見てその目を大きく開く。


「こ・・・この女・・・できる?!」


ナーヤとズーが出会った瞬間であった。

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