第31話 エピローグ

 特殊個体の討伐が終わってから7日が経過している。

 心配していた残党の姿は見えず、平和が戻ってきた。


 戦いの成果とレオの推薦もあり、家庭教師の試験は無事に合格。誰もが認める、アミーユお嬢様の家庭教師になれた。兄さんのパーティも公爵家の騎士になる手続きが進んでいて、もうすぐハンターを卒業する予定だ。


 順風満帆。


 そんな状況なのに、僕は今、暗い顔をして酒場の一室に座っていた。

 テーブルにはステーキとお酒が置いてあるけど、一切手を付けていない。


 正面にいるのは、黒髪を後ろでまとめ、ポニーテールにしている少女だ。両親が殺された原因を調査してもらっているマスターの伝達役で、彼女がいるということは進展があったことを意味する。


「これが最後の報告です」


 そういってレザーアーマーの隙間から、一通の手紙を取り出した。

 僕は無言で受け取り、文字を読む。


『公爵家の人間が手を下した』


 一行だけの簡素な文章。でも僕には十分だ。


「…………ありがとう」


 そう言って金貨を一枚テーブルに置く。


「ご依頼ありがとうございました。またの利用をお待ちしています」


 事務的な言葉を口に出した少女は、僕を見ることなく、金貨を持って外へ出て行った。


「ふぅ……」


 予想通りの結果に脱力してしまった。背もたれに寄りかかり、天井を見つめる。


 アミーユお嬢様の家庭教師になった今、公爵家の内部を調査するには最適なタイミングだ。


「僕に出来るかな?」


 アミーユお嬢様を筆頭に、親しい仲間が出来た。そんな人と表向きは仲良く裏では疑い続けるなんて、彼女たちの信用を裏切る行為だ。それに疑っていることがバレてしまえば、騎士になったばかりの兄さんにも迷惑をかけてしまう。


 リスクは大きく、見返りは両親の死の真相。

 釣り合っているとは思えない。


 だけど、犯人には、相応の罰を与えたい。そうでなければ両親は浮かばれないし、何より僕が許せないんだ。


 それに最近、結婚したばかりのリア様や娘のアミーユお嬢様が関わっている可能性は限りなく低い。二人を疑わないで良いのだったら心理的な負担は少ない。


 ……なんて、自分を説得させるための言い訳だ。結局、理性より感情が上回っているのだ。結論ありきの悩みなんて、もう止めよう。


「僕は感情を優先する」


 そう決意すると、ステーキにフォークを突き刺し、食事を始めた。

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