第113話小説家の憂鬱


「書けない…。」


「少し気分転換してみたら?」


「気分転換って何?」


高圧的な声が交番の電話に流れた。



木村剣は、また始まったとばかりに受話器を耳から離した。



「俺は、東大卒で天才だぜ。」



三流大学卒と剣は知っていた。


友達が偶然、交番に電話をかけてきた。



最初は、熱心に聞いていたが友達は有言実行という言葉を知らないらしい。


自室からもう2年間は出ていない。


他の友達から聞いたがKは就活に疲れ果て引きこもりになったらしい。


幼稚園からの腐れ縁である。


Kは、電話相手が剣だとは気が付いていない。


プライベートで飲み会に誘っても仕事が忙しいとメールが返信がくるだけである。





















学生時代、人一倍見栄を張りたがるKは周りから敬遠されていた。



そんなKは何故か剣にだけには弱音を吐いていた。



「俺は怠け者で口ばっかりなんだよ。」


「そんな事ないよKからビッグマウスが無くなったらつまらいぜ。」


「剣はいい友達だな…。」


理屈じゃない。


友達って。



どんな嘘をついても信じるか流すそれは聞いてる方が決めれば良い。




何故か俺と似ていると剣は思っていた。



父親が偉大過ぎる。



Kの父親は開業医だった。



兄は歯科医師である。



宿命なのか…。



剣は、その場しのぎで生きてきたと自分では思っていた。



父親は、どうしようもない俺に警察官という重りをつけてフラフラしないようにしたのだと思う。



剣とKの違いはプライドである。




剣は、プライドは高く無い。


Kは、地方にある誰も知らない無名医学部に…つまりは金で入れる大学を蹴っ飛ばして


小説家を目指している。



剣からみれば自分なら乗っかるコネである。



Kは、プライドの塊なのだ。



だから、向上心はある。



現実は厳しい。



だからこそ誰かとぶつかり合う事は多かった。



剣は、Kが自分の殻に入らないようには気を付けている。



交番に電話をしてくるのが15時ぐらいなのだ。



しかし、最近ろれつが回っていない事が多い。


「おまわりさんよ、俺は異常なのかな?」


「何があった?」


「兄貴に殺意を感じる。俺を底辺なバカと思ってる。」


「そんな事はないだろ?」



確かにKの兄は人を見下すような性格なのだ。


「見返してやれよ!小説家として!」


少し感情移入している発言をしてしまった。


「珍しく感情的だね、おまわりさん。」




「でもよ…最近死にたいと思うようになってさっき風邪薬を大量に飲んじまった。」



「吐け!」



電話を切って救急車に電話をしてバイクでKの家と剣は向かった。



閑静な住宅街にたどり着いてKの家のインターホンを押した。



【どなたですか?】


冷たい声…。


母親だろう。



【警察ですけど息子さんから連絡があって来たんですけど…。】



扉が開いた。



痩せた女性が出てきた。


母親だ。



「部屋にいるんですね?」


「はぁ…。」



「失礼します。」



と言ってKの部屋に向かった。


学生時代何回も遊びに来てる。



扉は開いていた。



Kは、ベットに寝ていた。



部屋はきちんと綺麗だがテーブルの上に風邪薬が散らばっていた。



「K!K!」と剣は顔をひっぱ叩いた。


「やっぱりお前か剣…。」


そう言ってまたKは眠ってしまった。


救急車の音が聞こえた。



Kは、病院に運ばれた。


待ち合い室でKの母親と剣は待っていた。



Kは、植物状態になった…。






Kは、剣が電話相手だった事に気がついていたのだ…。



【本音を吐けるのはお前だけだからな。】



Kの寝顔がそう言っているように見えた。



母親は、憔悴仕切った顔をしている。



「木村君、ありがとう。」


「いや、仕事ですから…。」



泣き崩れる母親に、そう…剣は何と声をかければ良いのか分からなかった。



最後にKは自分にSOSを送っていたのに…助けるチャンスはたくさんあったのに…。



警察官としても人間としてもまだまだ幼い自分に情けなさを感じた。



母親は、Kの体に取りついてる医療機器全て外してKを抱きしめて窓から飛び降りた。



二人とも即死だった。



深い愛情の現れだろうか?…。



しかし、二人の体は誰かの手に渡って生きているはずた。



Kも母親もドナー登録してたのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る