第73話覚醒剤


俺は、生まれて初めて覚醒剤を使った。


頭の中がクリアになって何でも出来る気分になってくる。


青柳春馬は、友達が忘れて置いていった薬を吸ってしまったのだ。


何も怖くなかった。


学校の中で不良に絡まれても素早い動きで不良達をなぎ倒した。


薔薇色の世界だった。


テストも満点、しかも女子からの告白。


しかし、次の日、薬の効果が切れたように何もかもがどんよりして布団から出られない。


鼻血も止まらない。


「野部ちゃん!野部ちゃん!」


え?俺は野部ちゃんなのか?


起き上がると仮眠室の布団の中にいた。



「何か悪い夢でも見た?」


太郎が野部の顔を見た。



「はい、ちょっと…。」


「野部ちゃんはさ、真面目だから疲れやすいんだよ。」


確かに俺は疲れているがあの記憶抹殺したいあの記憶を思い出すだけで吐き気がする。


「最近さ、危険ドラッグとか流通してるしね。事件の裏には覚醒剤絡んでるよね。」


「そうですね。」


「前から気になってたんだけどさ。」


内心、野部は冷や汗をかいていた。


「野部ちゃんって手長猿みたいだよね。」


「はぁ…。たまに言われます。」


太郎の発言たまには肝を冷やす。


「青柳春馬って知ってますか?」


「知ってるよ。覚醒剤使った後に人を包丁で刺して、今も逃亡中だったよね。たぶん。」


「僕の双子の兄貴なんです。青柳春馬は…。」


「うん。知ってるよ。」


あまりにもあっさりした答えに野部は頭の中が真っ白になった。


「名字は、親戚の養子になって変わったんだよね。」



「はい。国家、警察が監視下に置くためです。」


「だから、野部ちゃんは自動的に警察官になった。」


「そうです…。爆弾を抱え込むように指導されました。」


「そして最近の事件に兄が関わっているかもしれない…。」


「さすが木村さんですね。」


極秘なのにこの人は知っている…。

何故だ?




「野部ちゃんは覚醒剤使った事ないの?」


「ないですよ!全く。」


太郎は、珍しく神妙な顔をして野部を見つめた。


「そりゃそうか。」


「覚醒剤と兄を恨んでるくらいですからね。」


「そうだよね。」


テレビで起きてる事は今まさに青柳が拳銃を持って本屋に人質をとっているところだった。


「お兄さん覚醒剤辞められなかったんだね。」


テレビを指差して野部に太郎は言った。


野部は、テレビを見て呆然としている。



「兄貴、本が大好きだったんですよね。うち、本屋だったし。」


「そっかあ。」


「でも、ずっと優等生だった兄貴が一度の過ちで壊れてしまいました。兄貴は、本屋継ぎたかったんでしょうね。」


「でも無くなっちゃった?」


「はい…。元々小さい本屋でしたからね。事件が起きてすぐに両親は本屋を畳みました。」


野部は、テレビ画面を見つめて言った。


「じゃあ、お兄さん説得に行こうか。」


珍しく太郎が真顔で野部に言った。


「あ…。でも良いんですかね?親族が行って逆に悪い事態が起こるかもしれないし。」


「気にしない気にしない。」


と太郎は屁をしながら言った。

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