飛べずと火を眺める夏の者

物事にはそれ相応の意味がある。


大交差点で信号を待ち、

合図と共に一斉に進む人々は、

誰しもが意味のない行動ではない。


目的なき行動ではないのだ。


信号を待つのは、

向こう側に進むという、

明確な目的があるのだから。


人の集まる場所には、

そうあるだけの理由があるのだ。


それは誰かの求める目的で。

それは彼らの求める目標で。

それは私達の求めた場所で。


どこかで望まれたことなのだ。


しかし

誰かがどこで望んだとして、

集まり集められた誰もが、

それを求めているわけではない。


そう。知ったことではない。


学校での近くの夏祭りなど、

一体どこの誰が始めたのか。


喧騒の中に入れば、

自らもまた喧騒となり、

騒がしさがさらに鬱陶しい。


串焼きが美味いことは評価するが。


見知った顔といくつかすれ違うが、

気にかけられることはほとんどない。


元来から俺は、

アウトドア派ではない。

そこまでインドア派でもないが。


近くで夏祭りがあるからと、

はしゃいで家を飛び出すような、

そういう人種は別の種類だ。


今日は、なんというか、そうだ。

少しだけ、気が向いたのだ。


もしかすると

淡い熱に浮かされたのかも知れない。


「来てたんだ」

「まぁな」


偶然の装いなんてのは、

唐突に意図しないもので。

図れるものでもない。


そうだからといって、

運命の導きなどでは決してないが。


導かれたのは、

意識された無意識であるが故に。



これは望まれた必然。

偶然に必然となった望み。


彼はその意味をどう考えるのか。


それはまだ、

少し暑い青春の思い出の中で、

燻るだけの時間を過ごすのだろう。


飛んで火に入る夏の彼には、

まだその勇気と覚悟を踏みしめる。


そんな力は備わっていないのだから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る