Scene.55 エピローグ

「いじめは犯罪なの。靴を隠せば窃盗罪、傷つけたら器物損壊罪、暴言を吐いたら名誉棄損罪か侮辱罪、暴力を振るえば暴行罪あるいは傷害罪、お金を脅し取れば恐喝罪、全部立派な犯罪行為よ。でもいじめなら何となく許される雰囲気がある。だから私がいる。

 七海の机の中に暴言を書いた紙を山ほど入れたり張り付けたりしてたでしょ? 死んだススメバチを無理矢理食べさせたでしょ? それをいじめって言うの。勉強になったでしょ」


「だってアイツがキモいコミュ障だからいけないんだよ! 生理的に無理なくらいキモいだもんアイツ! オレは悪くねぇって!」

「それはいじめをしていい理由になんかはならないわよ。じゃあね」


 そう言って私は大斧を振り下ろし、依頼を完遂させた。日曜の昼下がりの頃だった。




 乃亜のあが死んでから3年がたった。あの人が死んでからというもの私は刈リ取ル者の2代目として今でも仕事を続けている。

 加えてあの人が以前ほんの少しだけやっていた、いじめの被害者を支援する団体への寄付も積極的に行っている。

 彼の遺産と私の稼ぎを合わせればそれなりに裕福な暮らしもそこそこの支援も出来る。


「ただいまー」

「おかえりー!」

「ママおかえりー!」

「優、愛、いい子にしてた?」

「うん。いい子にしてたよー」

「いい子にしてたから褒めてー」


 愛と優はもう3歳になる。2人の育児と仕事の両立は家政婦を雇ってはいるもののはっきり言って大変。

 でも絶縁状態の両親に頼るわけにもいかないし施設に預ける気も無いので何とかやっている。

 将来に関しては特にして欲しい事は無くてただ元気に育ってくれれば、とは思っている。悪魔とのハーフである優に関しては特に。


「はいはい、よくできましたね。ママ今日は早めに帰ってこれたから、公園に遊びに行こうか」

「うん! いくいくー!」

「やったー! いっしょに行こー!」




 公園に着くと優はさっそくお気に入りであるバネ馬に乗ってはしゃいで、愛は砂場で遊んでる。あの子たちが楽しそうにしているところを見るとホッとする。

 そういえば2人は来年から幼稚園児か……時間が経つのが年々早くなってる気がする。ほんの数日前まで2人は赤ん坊で、毎日オムツを換えていたように感じる。


 この3年間、新たな組織が出来るのかと注意深く監視してたけどそんなことはなかった。

 サバトは頂点にいた悪魔、サマエルが消滅した上に幹部も組織員もいなくなり空中分解。

 聖ルクレチア女学院も天使の加護を受けた少女たちもほぼいなくなった。

 東京が人ならざる者の脅威にさらされることは今のままならこの子たちが大人になる頃までなら無いだろう。そう思うと安心できる。


「優、愛、もう帰るわよー」

「えー? もう?」

「もっと遊びたいー!」

「わがまま言わないの。家でママが遊んであげるから我慢しなさい」

「はーい」




 家に帰って優と愛に夕食を食べさせ、お風呂に入らせて寝かしつける。


「ママー、パパのお話聞かせてー」

「私も聞きたーい」

「分かった分かった。聞かせてあげるわ」


 そうして、私とあの人の活躍を子供相手でも安心できるような形にしたものを寝る前に聞かせている。

 私の人生は平坦なものではなく、特にあの人と出会ってからは本当に色々あった。せめてこの子たちだけは平穏な暮らしを、私のような命のやり取りをする仕事はしないで欲しい。そう思いながら、私は子供たちにパパのお話を聞かせ始めた。


【終】

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