Scene.48 いじめは本能
「ん?
「あら
乃亜はいじめを苦に自殺したのかどうかを調べようとして駅のホームで電車に飛び込んだ男の魂を回収しに来たら、麗と出会った。
いじめを苦に自殺した者たちに関係する場所に行くと、サバトの幹部連中が先回りしていることは以前から良くあった。
自殺した人間の魂を回収しているようだが、なぜ先回りできるのかは……謎だ。
翌日、気晴らしに赤羽駅周辺を歩いていると、下校中なのか北区立赤羽高校の制服を着た高校生とすれ違う。
在学中は常にいじめの対象になっていた乃亜にとっては見たくもない服だったが、違和感を感じて振り返る。
ミストが魂を喰って力をつけたためか、意図的に隠していた麗の魔力を感じることが出来た。
「何でアイツが手を出してるんだ……?」
疑問に思い、乃亜は憎い過去しかない母校へと立ち寄る。すると生徒はもちろん、教師からもわずかながら彼女の魔力を感じとれた。
何かある。そう思って調べるとすぐにわかった。この学校の校庭に魔法陣が隠されていたのだ。そこから麗の魔力が生徒や教師たちに伝わるようになっていたのだ。
一体何のために……? その理由は数日経つことで分かった。
その日、赤羽高校で自殺未遂を起こした生徒が出た。飛び降りはしたがあくまで未遂で終わり、命は助かったようだ。
真っ先に駆け付けたのは麗だった。無論結界を張って姿は隠しているが。
「サチの奴が飛び降りたんだって?」
「うん。でも植木がクッションになって命だけは助かったみたい」
生徒たちが噂話や誰かから聞いた話をタネに噂話をしていた。
「とんだ無駄足ね」
死んでない事を「とんだ無駄足」とぼやく彼女と乃亜が鉢合わせした。
「麗、今回のいじめの件はお前らサバトが関わってるんだな?」
「……何の事?」
「とぼけるな。ここの校庭に魔法陣を張っただろ。俺には分かるんだ」
「……ばれちゃあしょうがないわね」
校庭に張ってある魔法陣をを指さしながら脅すように話す乃亜に観念したのか彼女はしゃべりだす。
「日夜いじめられた人間の魂は恐怖や絶望といった負の感情で少しずつ黒く染まる。ワインが熟成されるのと同じようにね。それはサマエル様に供するにふさわしい至上の馳走となる。それを回収するのも私たちの大事な仕事なの」
「……ってことはお前が今回のいじめを作り出したんだな!?」
「勘違いしないで。これは彼らが望んでやった事よ。私たちはほんの少し背中を軽く押しただけ。憎しみの心をほんの少しだけ増幅しただけよ。アレでね」
麗は校庭を、正確には校庭に書き込まれた魔法陣を指さしつつ言葉を続ける。
「人は弱い。弱いからこそ自分を守るために群れる。でも群れただけじゃ天敵に喰われる『確率が下がる』だけでまだ『確実に助かる』わけではないわ。だからいじめる。いじめられて自分より弱った仲間を用意すればそいつが天敵に喰われて自分は『確実に』助かるってわけ」
「……何が言いたい?」
苛立つ乃亜に麗は構わず話を続ける。
「自分より下の人間がいないと自分が一番下になって天敵の餌食になるから、人はどんな手を使ってでも自分より劣った仲間を作るって言いたいの。自分が一番下になるってことは死に直結する恐怖だから誰も抗えない。だからありとあらゆる手段を駆使して自分より下に引きずりおろす。それがいじめが起こるメカニズムってわけ。人間だけじゃない。集団生活をする魚や鳥もいじめをやるらしいわ」
「いじめは本能だ。とでも言いたいのか?」
「そうよ。人間が人間であり続ける限りいじめが消えることは無い。永遠にね。それこそ神か天使にならない限りなくなることは無いわ。男も女も、大人も子供も、老人でさえいじめを行う。人間は誰かをいじめて下に引きずりおろさないと安心して夜も寝られないわ」
「だったら、俺が生きている間は一人でも多くの人を救済するまでだ。あの地獄をこの世にばらまくやつらは全員ぶっ殺す! 背中をほんの少しでも押した貴様等も同罪だ!」
「バカな子ね。あなたの戦いは勝ち目のない戦いよ。無駄なあがきになるわよ。今回は仕事仲間という事で1回だけ見逃してあげる。次からは容赦しないわよ」
麗は去って行った。
「そう。サバトを辞めたのね」
乃亜が正義感に突き動かされるままサバトを辞めた事に真理とミストはいたって冷静であった。
「すまん。勝手に辞めて。これから子育てもあるから安定した収入ないといけないのに……でもあいつらが許せなかったんだ。言い訳がましいけど」
「まぁお前のやる事に間違いはないって思ってるよ。貯金もたっぷりあって10年は遊んで暮らせるから心配しなくていいぜ」
「お前たちには迷惑かけっぱなしで男のメンツって奴が立たないけど許してくれ」
「まぁあなたがやりたいって言うのならいいんじゃない? 変に自分を曲げる乃亜は正直見たくないし」
2人とも彼の事を理解してくれたみたいで、軽い返事で終わらせる。
「んじゃあ夕食つくるから待っててくれ」
「うん。くれぐれも焦がさないでね」
「調味料の配分も間違えるなよー」
妻2人の声を背に、彼は戦いよりもよっぽど難しい料理を始めるのだった。
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