Scene.46 三者三様
「
「そう。簡単に言えば、主と特別な約束事をしてそれを守る代わりに力を貰うの。特に『処女である事』は大きな力の源になるの。だから天使の加護を得て戦うのは思春期前後の女の子ばかりってわけ」
「その
「多分舞は
「人生無駄にしてるなそいつ」
兄としてはあんな凶暴な生き物も、ほかの人間から見れば愛らしい人気絶頂のモデル兼ネットアイドルに見えるらしい。
「ところでミスト、お前はさっきから何やってるんだ?」
イスの上で座禅を組んでじっとしているミストに乃亜が問いかける。
「あ、ああ。
「わかった。じゃあ今日は新しくできたイタリアンの店に寄ろうぜ」
3人は出かける準備をするのだった。
赤羽警察署 刑事組織犯罪対策課の一室、自分のデスクの上に資料を並べていたタカこと高橋に山根が声をかける
「タカさん。まだ乃亜にこだわってるんですか?」
「ううむ……こいつが
「しつこいですねぇ。乃亜は完全にシロだってのがもう分かってるじゃないですか」
直属の後輩である山根もさすがにあきれ顔をせざるを得ない。
6月26日に発生した、後に「刈リ取ル者」によると思われる連続殺人事件の最初の事件当初、乃亜が起こしたと考えられていた。が、すぐにアリバイがある事が分かり捜査線上から外れた。
まず北区立赤羽高校2年1組の生徒及び教師が惨殺された事件当日の午後12時50分ごろ、赤羽駅近くのコンビニの防犯カメラに彼の姿が映っていた。
事件発生時刻は13時ごろと推定されるため、駅から歩いて学校に行くには30分はかかる位置にいる乃亜に事件を起こすことは不可能だ。
原付でもあれば話は別だが彼は運転免許証はおろか自転車すら持っていなかったし、当時の交友関係などから誰かから借りることも不可能だった。
念のため盗んで使った可能性を考え目撃証言や当日の乗り物の盗難記録、あるいはタクシーを利用した可能性も調べたが、空振りに終わった。
また、乃亜の家族が殺された事件に関しても午後6時55分ごろ、赤羽駅の防犯カメラに彼が映っていた。駅から自宅まで歩いて15分以上は時間がかかるため徒歩しか移動手段の無い乃亜に午後7時ごろ起こったこの事件を起こすこともやはり不可能だった。
そういうわけで誰もが乃亜を事件と無関係とする中、ただ一人タカこと高橋は乃亜にこだわっていた。
「俺の勘はこいつが
「刑事の勘ってやつはいつも的中するとは限らないんですよ。いい加減別の容疑者を当たりましょうよ」
「ううむ……」
結論から言えば、タカの勘は当たってた。だがそれを科学的な捜査で裏付ける事だけはどうしてもできなかった。
悪魔の力を借りた犯行。だなんて普通の人間は思いつきもしないのだから。
その日の夜、美歌は教師の家に下僕たちと共に乗り込んだ。
「ミカ! 何のつもり!?」
「警察に無実の罪で取り調べを食らったこっちの身にもなってみろよ。言っとくけどよぉ、オレは恐喝した覚えなんて一切ないぜ? ただお布施、言い換えれば寄付金を貰っただけだよ」
「何言ってんの!? それを恐喝って言うのよ! 恐喝は犯罪でしょ!?」
「だから恐喝じゃなくてお布施だって何度言ったら分かるんだよテメェは。そりゃ恐喝は犯罪だよ。そんなのオレだってわかる。でもお布施を貰うのは犯罪じゃないだろ? 要は寄付だよ。寄付。分かんねえようならお仕置きだなぁ? やれ!」
お仕置きを加える。4人の少女たちに命じて切り裂き、突き刺し、叩き割る。ズタボロになった教師に美歌は声をかける。
「長男のマイケルは今カリフォルニア大学ロサンゼルス校に通うために一人暮らししてるんだろ? で、次男のアンドリューは離婚した夫のデイビットと一緒に同じくカリフォルニア州に住んでいる。そうだろ?」
「な、何で知ってるの!?」
「調べりゃ簡単に出てくるさ。こいつらに余計な気苦労かけさせたくなければ大人しくしてもらおうか?」
「私の事も脅すつもり!?」
「脅してねえよ。ただ万が一の事が起きるかもしれねえと老婆心ながら忠告しただけさ」
美歌は遠まわしに「家族に危害を加える」と警告する。その辺のヤクザとやってる事は変わりない。
「マリーたちから奪ったお金は返すよね!?」
「テメェは教会への寄付金を「後で返せよ」って言って渡すのか? 違うだろ? オレへのお布施が帰ってくるわけねーだろボケ。それとも何だ? デイビットが飼ってるセントバーナードのマッシュが足腰立たなくなってもいいのか?」
もはや隠すそぶりすら見せずにストレートに脅迫する。
「今日はこの辺で勘弁してやる。今度オレの邪魔したらガチで酷い目に遭わすからな」
そう言って彼女は教師の傷をいやす。一瞬で傷がふさがり、飛び散った血も体内へと戻っていった。完治したのを見届けた後、美歌たちが去っていく。
その後入れ替わるようにザカリエルが教師の前に姿を現した。
「ザカリエル様! いくらSランクだとは言えあまりにもやりたい放題させ過ぎではないですか!」
「カタリーナ。貴女にとっては不本意かもしれませんが我々は主も含めてなるべく彼女のやりたいようにやらせています。彼女の力はたった一人で世界を相手に戦えるほどです。私たちにとってはとても貴重な戦力なので多少の横暴は耐えてください。私自身、美歌専属のサポーターという位置づけですからね」
「ザ、ザカリエル様もあろうお方が専属サポーターですって!?」
教師は驚きの声をあげる。
「それだけ美歌は貴重な存在なの。それこそこの世界から悪を全て消し去れるほどの力を持ってる。だから彼女の機嫌を損ねるような真似は極力やめること。いいですね?」
「……わかりました。主のお導きとあらば従います」
教師は渋々従う。今は嵐の時機だ、過ぎ去るまでただひたすら待てという彼女にとっては非常に不本意な命令だったが。
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