第12話 決定しました 2
「……ん」
「あ、ユキちゃん起きた。おはよう」
目を覚ますと、目の前で多々良が微笑んでいた。
「にゃんか、少し恥ずかしいね」
微笑んでいる多々良の頬には、赤みが差している。
「そういわれると、なんかバカップルの朝みたいだな」
「えっへへ、確かにそうだね」
ぽりぽりと頬を掻く多々良。
どうやら照れているみたいだ。
なんというか、俺も照れる。
「今日も学校だし、起きようか」
「そうだね」
多々良が起きると、着替えを持って部屋を出て行った。
どっかで着替えてくるのかな。
俺もちゃっちゃと着替えちゃおう。
「そういえば今日学校で何か決めるんだっけか……何を決めるんだっけ」
いまいち思い出せない。
確か文化祭……あ、違うな。
えーとなんだっけ……。
「だめだ、思い出せねえ。先に飯食ってから考えるか」
部屋を出て、ウズメの部屋の扉を開ける。
「おはようウズ……」
「にゃっ……」
そこで、言葉が止まる。
ウズメの部屋で、多々良が着替えていた。
下着姿の多々良が、こっちを見て止まる。
「あ、おはようございます幸さん」
笑顔で挨拶をするアメノウズメ。
全く気にする様子はない。
多々良のショーツは白か……。
「ユキちゃん!!!」
「ごめんなさーい!!」
顔を真っ赤にして多々良が叫び、俺はウズメの部屋を飛び出した。
「ほんとにもう!ユキちゃんはエッチにゃんだから!!」
「いやほんと申し訳ない……ウズメの部屋で着替えていたとは」
「空いてる部屋考えたらそこかにゃって分かるじゃにゃい!」
多々良がキレている。
まあこれに関しては俺が悪いよな……。
「ユキちゃん……まあ、見たよね」
「ああ、バッチリ見た」
「たたらの下着、凝視したよね」
「ごめん、した」
俺の頭には多々良のブラジャーとショーツがバッチリ焼き付いている。
しばらく、忘れられそうにない。
「もう……」
「あらあら、幸ったら、多々良ちゃんとあんまり困らせちゃだめよ?」
母さんがにこにこしながら朝食を出してくれる。
完全に面白がってるだろこれ。
「ユキちゃんに裸見られちゃいました」
「おい待て俺の罪が加速してる」
「乙女の肌をまじまじと見たユキちゃんは有罪ギルティ」
「ほんとごめんて!」
謝る意味も含め、多々良の頭をなでる。
「子ども扱い!フシャー!!」
逆に怒ってしまった。
「とりあえず食べちゃいなさいな。学校遅れちゃうわよ?」
「い、いただきます!」
「……いただきます」
多々良が口をとがらせたまま、朝ご飯に手を付けた。
「むー……」
手をつかむ力がかなり強い。
まだ怒っているのかもしれない。
「なあ、もう許してくれよ。見たことに関してはほんとすまんかったって」
謝るたびに、多々良の下着姿が思い浮かぶ。
やっぱり忘れられそうにない。
「……じゃあ、今日帰りに一緒に甘いもの食べに行こうよ」
甘いものか……。
「多々良、甘いもの好きだったっけ?」
「いいの!食べに行くのー!」
……うん、今日は多々良の言うことを聞いていた方がよさそうだな。
「わ、分かった。じゃあ、行こうか」
「ユキちゃんのおごりだからねー!」
「……分かった」
「けってーい!」
多々良のテンションが戻った。
あんまり財布に痛くないといいな……。
「そういえば最近さ」
「ん?」
「手、つにゃいで学校行くこと増えたね」
多々良に言われて気づく。
そういえば最近増えた気がする。
「まあ、これが一番安全だからな」
「確かに、電信柱に頭ぶつけにゃくてすむもんね!」
そんな光景見たことないが。
「危にゃくにゃったらユキちゃんが助けてくれるもんね!」
「いや、危なくならないように多々良の手をつかんでるんだけど……」
危なくなってから助けたら俺が巻き込まれる可能性もあるし。
前の赤い服着たお姉さんとか。
「よっし!じゃあユキちゃん走っていこう!」
「走ったら多々良が転ぶからダメ」
距離感が取れずに足がもつれて転ぶビジョンが見える。
「じゃあおんぶしてくれる?」
「また多々良のおっぱいが俺の背中に当たることになるが」
「う~……」
「もし早く学校に行きたいんだったら姫川の背中に乗せてもらうとかどうだ?」
「それだとユキちゃんが朝寂しい思いしちゃう」
何その気遣い。
「俺と一緒にいられなくて逆に多々良が寂しいんじゃないの~?」
「にゃっ!」
多々良の顔が赤くなった。
「別にそんにゃんじゃにゃいしー!」
背中をたたかれた。
「まあまあ、俺は多々良と一緒に登校できなかったら寂しいし、普通に行こうぜ」
「……むう、ユキちゃんは寂しがり屋だにゃー。仕方にゃいから多々良が一緒に登校してあげるよ?」
「あー、仕方ないなら多々良の迷惑になっちゃうし、明日からは姫川に任せようかなー」
「今日お店で高いもの頼んじゃうからね!!!」
「悪ふざけしてごめんなさい!!!」
「おっす佐倉、お前ら後ろから見ると恋人みたいだぞ」
学校に着いたところでうしろから佐々木が話しかけてきた。
「おはよう佐々木。俺たちそう見えちゃう?」
「にゃんでうれしそうにゃのよユキちゃん。別にたたらたち恋人じゃにゃいよ」
仕方ないじゃない、ちょっとうれしいんだよ。
「なあなあ佐倉、今日修学旅行の班分け決めるじゃん?」
「あっ」
そうだった、今日決めるのって修学旅行のことだ。
11月に行く修学旅行、行先は長崎だ。
「民泊するみたいだけどよ、どこの家がいいかね」
「それあらかじめ決まってるみたいだよ?」
「えっ、そうなのかよ」
「うん!
そうだったのか……漁師の家がいいんだけども。
「やべえよ、畑やってる家だったらどうしよう……」
佐々木の顔が青くなる。
佐々木、野菜食えないもんな。
「たたらも漁師さんの家がいいにゃー!」
「釣らないと夕飯がないって聞いたんだけど」
「釣ればいいだけのことだよユキちゃん!」
釣るのって簡単じゃないと思うんだけど……。
どうすんのよタイヤとか釣れちゃったら。
「まあ、班は4人1組みたいだし、俺と佐倉と秋川と倉持でいいよな!」
「ああ、それでいいよ」
「うー、いいにゃー、たたらは誰と一緒の班ににゃろうかにゃー」
多々良は普段俺たちといるから、あんまりクラスの女子と一緒にいる印象がない。
……が、多々良なら問題ないだろう。
クラスの女子からはマスコット的存在として可愛がられてるからな。
悪い扱いを受けるようなことはきっとないだろう。
「やっぱりユキちゃんたちの班に入りたいにゃー」
「残念ながら男女別です」
修学旅行で男女が一緒に泊まるなんて恐らく天地がひっくり返ってもないだろう。
「じゃあ綺月と」
「クラス別です」
「ううー……やっぱりユキちゃんたちとー」
「おいおい多々良、いいのかよ?俺たち男子4人と女子1人で泊まるんだぜ?夜になったらそりゃもう……」
「ギニャー!」
佐々木が多々良を脅すように言った。
さすが狼。
あ、そっちの意味の狼じゃなく。
「男は夜になりゃ誰だって狼だぜ多々良。気を付けた方がいいぞ?」
「と、リアル狼が申しております」
「おい佐倉。その言い方だと俺が年中発情期みたいになるんだが」
「うーん、ユキちゃんと一緒に寝てもそんにゃことにゃかったよ?」
ここで多々良が衝撃のカミングアウト。
それ佐々木に言わなくてもいいんじゃないですかねえ。
「佐倉!?」
「多々良の言う通り何にもしてないからな!」
「さて、1時間目は国語なんですがー……私の授業はもう進んでしまっているので、修学旅行のことを決めていこうと思いますー。班はどうしようとか、事前に話したりしていますかー?」
そうだ、いつ決めるんだろうと思ってたけど、国語の授業をつぶして決めるって先週言ってたな。
「1学期の説明会で説明したとは思いますが、修学旅行の班は4人1組になりますー。この時間で決めたいと思いますので、班を決めちゃってくださいー」
班員を書く紙が配られた。
このクラスは男子20人、女子20人だ。
ちょうど、4人1組で分けられる人数になる。
「俺たちは決まりだよな!」
佐々木が後ろから肩をがっしりつかんできた。
「僕もここでいいよにゃ?」
「俺もー」
席から立ち上がり、倉持と秋川が近づいてきた。
「班長はどうしようか」
「んー、倉持でいいんじゃないか?」
佐々木がそういう。
「にゃっ!?」
「俺もそれ思ってた」
「俺も倉持が適任かなーって思ってたよ」
秋川も同じことを思っていたらしい。
さすが倉持、俺らのリーダーだぜ。
「というわけで倉持でいいよな?」
「待て待て!たまには僕じゃにゃくてもよくにゃいか!?」
倉持が抗議してきた。
どうやら不満らしい。
「倉持的には誰がいいんだよ?」
「僕は佐倉でもいいと思うぞ。なんだかんだ、僕たちをまとめてくれるじゃにゃいか」
「倉持がデレた!」
「にゃんでそうにゃるんだ!」
まあそれは冗談として。
俺が班長か……。
「うん、やっぱり倉持が班長で」
「にゃんでだ!」
残念ながら班長は倉持で決定。
多々良の方はどうなってるかなー。
「多々良ちゃーん!私たちと一緒の班とかどうかな!?」
「私たちの班に来てくれてもいいよー!」
「こっち!こっちに来てほしいな!歓迎するよ!」
引く手あまただった。
というか女子は何で3人ずつで固まってるんだ。
あれでもし多々良が入らなかったらどういう班の構成になるんだ。
「多々良ちゃん、どこの班に来るー!?」
「私たちの方に来てほしいなー!」
「一緒に遊ぼうよー!」
「にゃ、にゃあ……」
多々良が困った顔をしている。
大変そうだなあ。
「佐倉、顔が笑ってるぞ」
倉持に突っ込まれてしまった。
いやあほら、微笑ましくて、つい。
「じゃあくじを作ったんで、多々良ちゃん引いて!1班から5班までのくじだから!」
「うーん、これ!」
多々良が勢いよくくじを取った。
書いてある数字は2だ。
「2班だねー!さあさあうちらの班においでー!」
どうやら多々良が入る班が決定したようだ。
残されたほかの班は、上手くやりくりして班が決まった。
なに、お前たち多々良基準で班を決めてたのか……。
多々良、ずいぶん人気だな。
「では自由行動の時間はどこに行くかとか決めてくださいねー。予約が必要になる場合は早めに先生に言ってくださーい」
お、どこに行くかか……。
一応、修学旅行中に行けるイベントはある程度リストアップされてるんだよな。
長崎ペンギン水族館とか、川下りとか。
「なあなあ、俺行きたいところあるんだけどさ、いいか?」
佐々木が俺らの方を向いた。
「いいけど、どこに行きたいんだよ?」
「いや、そこに行くと自由行動の時間をほとんど潰しちまうからよー。俺の勝手になっちまうんだが」
「もったいぶってにゃいで言えよ佐々木」
「軍艦島、行ってみたくないか?」
佐々木が真面目な顔で言った。
軍艦島か……ちょっと気になるな。
修学旅行ならある程度学割も利くし、この機会だしな……。
「川下りとか水族館よりも、俺はそっちのほうがいいかなー」
秋川が佐々木に賛同した。
よし。
「そうだな佐々木、俺も軍艦島にすげえ行ってみたかったんだ」
左手をポンと佐々木の肩に置き、右手でサムズアップ。
「嘘くさいんだけど」
「ひどいな佐々木!?」
「多々良ちゃん!夜いっぱいお話ししようねえ!」
「お
女子の声が聞こえてくる。
多々良もうれしそうだ。
普段、あまり女子と話すところを見ないからな……。
「多々良嬉しそうじゃねえか。俺らだけでずっとしゃべってるのもあまりよくないかもしれないな?」
「
「まあ、男4人に女子1人か2人だもんねえ」
ああそうか、姫川がいる。
「佐倉、お前もしかして女子に嫉妬してるか?」
「しししししてねーし」
多々良と話せないからって女子に嫉妬なんてしてねーし。
ってか、それで嫉妬なんかしてたら姫川と一緒に出掛けようもんなら嫉妬するようなことになっちまうだろ。
「というわけで紙に班員を書いて、希望ルートを書こう」
紙に各々の名前を書いていく。
希望ルートには、軍艦島上陸・観光ツアーと書いた。
「班長は倉持くんでいいんですねー?」
「佐倉がいいと思います」
「分かりましたー、倉持くんの意見を聞き、佐倉くんを班長にしておきましょう」
!?
「なんで!?」
「先生の気分ですー♪」
「理不尽!」
「理不尽、ですか?」
「あ、いや、なんでもないです……」
やだ、この先生怖い。
「……まあいいや、じゃあ俺班長で」
「あら、物わかりのいい生徒はいいと思いますー。軍艦島ツアーの予約をしておけばいいんですね?」
「はい、お願いします」
「分かりましたー」
よし決まった。
俺たちの旅行の日程は決まったわけだが……あとはどこに泊まるかだ。
民泊だよな……。
「はーい、みなさん班員が決まったところで、次は泊まる家を決めますー」
どうやって決めるんだろう。
泊まる家のリストを見せてもらえるのかな?
「男子と女子で分けてあみだくじで決めますー」
「雑ゥ!?」
なんていう決め方なの!?
というか修学旅行の内容をそんなもんで決めるの!?
「先生があみだくじを作ってきたので班長さんがどこからスタートするか決めてくださいねー」
でかいあみだくじが書かれた紙が黒板に貼られる。
あっ、これ先生がノリノリで作ってきたやつや……。
「じゃ、じゃあ俺ここー!」
一番乗りでスタート地点を決める。
先に決めておいた方がなんかいい気がする。
「あ、じゃあ佐倉くんたちの班はこっちから」
「変えないでください!!」
先生がまた横暴にスタート地点を変えようとする。
さすがにやめていただいた。
「はーい、他の班も決まったようですねー。では一番右からスタートしていきましょう」
俺たちの班は右から2番目。
よし、俺らの班はいいとこに当たりますように。
「はーい、ここで曲がってー?まっすぐ進んでー?進む……と思いきや曲がりー?」
先生のセルフ実況が続く。
うん、あみだくじに手が込みすぎじゃないんですかね。
「はーい、1班は及川家に決定ですー。では次に2班ですねー」
2班のあみだくじが始まった。
先生の指がゆっくり進んでいく。
よく見ると、俺たちの班のあみだくじは割と曲がることが少ないことに気づいた。
「まっすぐ進みまーす。ちょっと曲がりまーす。そんで進みまーす」
先生楽しそうだなあ。
「はい決まり。2班は
細波さんという人の家に泊まることになった。
厳しい人じゃないといいなあ。
「どんな人だろうな」
「僕は漁師の家を希望したい」
「倉持、それ魚食べたいだけでしょー」
秋川が倉持につっこんだ。
「う、うるさい」
「俺も魚食べたいかも」
「佐倉もかー。俺はたまご以外食べてもあまり変わらないからなー」
「秋川は味覚が犬の方に寄ればよかったかもな!」
「佐々木ー、それ俺気にしてるんだけど」
どうやら食べ物を味わいたいらしい。
「秋川、料理とかしないの?」
「味見しても味が分からないからとんでもないものが生まれるよ?」
……。
「佐々木は?」
「肉焼いて食うくらいかな」
……。
「倉持は?」
「
「お前らみんな料理できないんだな!?」
「「「そういう佐倉だって料理できない (にゃい)だろ」」」
……はい、ごもっともでございます。
そういえば、民泊で泊まるところってあらかじめ決まってるって朝聞いたけど、なんであみだくじで決めてるんだろ。
もしかして姫川のクラスだけなのかな?
「はーい、8班は
「にゃんでばらした!?」
まさかのネタバレ。
先生何やってんすか。
「というより決め終わった後に全班の分を言うつもりだったのですが、なんだかおもしろくないなと思いましてー」
先生の勝手な理由で多々良たちの班だけ先にネタバレされたのか……。
ってか、先生がフリーダムすぎる。
「俺たちの班の家がすごく気になる」
「佐倉、まだ焦る時間じゃないぜ」
「果報は寝て待てというじゃにゃいか」
「あ、じゃあ俺今から寝よー」
倉持の的外れな発言とそれに乗じて机に突っ伏す秋川。
うん、こいつらも十分フリーダムだ。
「はーい、全10班のあみだくじが終了しましたー。それではすべての班の家のお仕事を紹介しますねー」
さあ、審判の時間だ……!
「たぶん今佐倉の頭の中に中二病のようなセリフが浮かんでるぜ」
「そうにゃのか佐倉?恥ずかしいから早く卒業した方がいいぞ」
おのれ佐々木、なんで気づいた。
「ん~……へへ~」
机で爆睡する秋川。
あれ、俺らの班って変なやつしかいない?
あ、いや、俺は変じゃないけどね?
「1班の皆さんは及川家、こちらも農家の方ですー」
偏見かもしれないけど、地方だから農家が多いのかな。
そういえば農園と農家って何が違うんだろう。
「2班の皆さんは細波家、こちらは漁師の家ですー」
「やったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
倉持が立ち上がって叫んだ。
「うわふっ!?」
倉持の大声に、秋川が驚いて起きた。
「倉持くん、うれしいのは分かりますが座ってくださいねー」
「す、すみません……」
倉持が座る。
周りから笑いが起きた。
「倉持、中二病心をとどめておくよりも今の方が恥ずかしいぞ」
「う、うるさいにゃ!」
倉持が顔を赤くしてそっぽを向いた。
おいおい、そういう仕草は多々良がやるからかわいいんだぞ?
男はパスだ。
「漁師!漁師!魚が食べれる!」
嬉しさが隠し通せない倉持。
「……ん?」
なんだか視線を感じる。
「……いいにゃあ」
まあ予想通り、多々良でした。
そうだよな、多々良は農園で俺たちは漁師だもんな。
多々良も魚食べたいよなあ。
「また築地行こう、な?」
「……うん!」
よし、多々良へのフォローは完了。
「多々良ちゃん、さすが彼氏と仲良いよねー!」
「佐倉くんイケメンだし、多々良ちゃんうらやましい!」
班の女子からつつかれる多々良。
「にゃっ!ゆ、ユキちゃんは彼氏じゃにゃいし!」
「えー?違うのー?」
「でもすっごい仲良いよねー!」
「んにゃー!!」
いじられて嫌がる多々良。
そ、そうか、俺はクラスの女子からもイケメンと思われているのか……。
「ほんとに佐倉はいい思いするよな」
「ほんと、顔の造形で決まる世界ってひどいよにゃ……」
「というかマルちゃんがいじられてることについて何も思わないのかよ佐倉」
ああいう多々良もかわいいよな、見ていたい。
俺イケメンか……。
「こいつ今イケメンって言われて調子乗ってるぜ」
「ぶっ飛ばせばいいんじゃにゃいかにゃ」
「じゃあ俺が佐倉の顔の形が変わるまで殴ってやろうかなー」
「お、おいおいおい、怖いこと言わねえでくれよ」
秋川が人を殴るっていうのは想像できないんだが……。
あれ、でも佐々木が人を殴るところも見たことねえんだよな……。
「8班は先に言ったので次は9班ですねー」
「……ハッ、農園……うぅ」
多々良のテンションがまた下がった。
悲しそうな目で、こちらを見てくる。
「たっ、多々良!安心しろ!12月なら多々良の大好きなマグロの旬だからな!」
「まぐろー!」
よし、多々良のフォロー完了。
「えー、多々良ちゃん、彼氏とデートの予定ー?」
「いいなー!佐倉くんとデートかぁー!」
「優しい彼氏、大切にした方がいいよ多々良ちゃん!」
「だ、だからユキちゃんはそういうのじゃにゃいんだってばー!」
「中学生のころから思ってたけど、お前らもう夫婦レベルだよなあ」
「夫婦じゃにゃいって!にゃんにゃのよ佐々木っちまでー!」
昼休み、国語の時間のことで佐々木がいじってきた。
「ほら、俺たち幼なじみだし」
「それとこれとは別だよユキちゃん!」
「でも佐倉とマルちゃんはほんとに仲良いよね。俺にも仲の良い異性の幼なじみがいればなあ」
秋川がうらやましそうに言う。
そ、そうか……うらやましいか。
「ユキちゃん
「ああ、なんか新発売らしいぞ」
うちの高校の自販機は新商品が優先的に入ってくる。
なんでも、高校生を対象にして新商品が人気かどうかを調べているらしい。
ちなみに、新商品を購入した生徒はアンケート用紙に記入しなければならない。
モニター調査?というらしい。
「濃いめのカルピス、オレンジ味ねえ。ちょっとちょーだい」
「あ」
多々良が俺からペットボトルをひったくって飲み始めた。
「う~ん、甘いねー。あ、でもオレンジの味はちゃんとするね」
「そ、そうだな」
うん、俺もそれ甘いと思ってた。
濃いめって書いてあるし。
にしても、うん、俺が飲んだものを、多々良が……うん。
これって間接―――
「あ、倉持、秋川。今佐倉が多々良相手にエロいこと考えてるぜ」
「にゃっ!?お、おい佐倉!」
「わー、佐倉ってばやらしー」
「か、考えてねえよ!」
別に俺のカルピスを多々良が飲んだってだけ……俺の、カルピス、か……ふむ。
「にゃーっ!もうユキちゃん!今日の朝からにゃんにゃのさ!バカー!」
多々良がぽかぽか叩いてくる。
いやほんとすみません。
「佐倉ってイケメンのわりに頭の中エロい妄想でいっぱいだからなー」
「やめろ佐々木、俺を年中発情期みたいに言うんじゃねえ」
「だからって
「考えてねえって!」
「わー、佐倉ってばやらしー」
「お前は繰り返してるだけだろ!」
こいつらめんどくせえ!
キーンコーンカーンコーン
「あっ、予鈴鳴った。教室戻ろうぜ」
「わー、5限の授業世界史だぜ。眠くなるなー」
「授業中に寝るのは感心しにゃいぞ、佐々木」
「俺も眠いなー」
「秋川はさっき爆睡してただろ!」
とりあえず、アンケート用紙には甘いと書いておいた。
「さて、来週末は文化祭ですねー。このクラスはあまり大きな準備などは必要ないですが、事前になってあたふたしないようにしましょうねー。それでは、本日もお疲れ様でしたー。また明日」
帰りのHRが終わった。
そうか、来週末か……しかも来月は修学旅行。
忙しいっすね……。
「さて、帰るか多々良」
「……んー?」
「いや、帰るぞって」
「……おーいユキちゃん、にゃにか忘れてにゃいかい?」
「……いや、多々良の方が忘れてないかなって」
「あーっ!!ユキちゃん自分の財布を気にして朝の事にゃかったことにしようとしたー!ユキちゃん黒い!!」
多々良が大騒ぎした。
「多々良?お前どうしたんだよ騒いで」
騒ぎを聞きつけた佐々木が寄ってきた。
倉持と秋川はバイトだということで、先に帰った。
「実はユキちゃんと今日の帰りに甘いもの食べに行こうって約束してたんだけど……ユキちゃんがお財布を気にしてすっぽかそうとしたのー!」
「……佐倉、確かに高校生はあまり金があるわけじゃないがそれは」
「だって俺のおごりだって言われちゃったらさー!」
ちょっと財布気にしちゃうじゃん!
「多々良、佐倉におごらせるつもりなのか?」
「たたらが悪いみたいに言わにゃいでよー!今日のはユキちゃんが悪いんでしょー!!」
「……俺には分からねえぜ。何かあったのか?」
あ、ちょっと待って佐々木、それ聞くな。
「今日、たたらが着替えて裸ににゃってる時にユキちゃんが突撃してきたのー!」
「……佐倉」
「事故なんだって!」
佐々木にめっちゃ白い目で見られた。
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