第61話選択

「そんな相談室とか働くとか言われてもわからないよ。オレだって大人だから自分でやるよ」


 ダメだ、と桜は思いました。まだ障害者だとわかって一週間かそこらしか経っていない相手に、桜は辛抱できないのです。


 説得に失敗し、桜は思わず携帯電話を手にしました。電話番号は『元カレ』のもの。


「どうしたの?」


 暗く重たい声でした。でも桜には見込みがあるとわかりました。


「今つき合っている人がね……」


 桜は『元カレ』に、彼の欠点を次々と喋ります。極めつけは彼が、障害者であることでした。


「そんな人は何をするかわからない。今すぐに別れた方がいい」


 目の前が見えなくなる時の、懐かしい、いつもの話し方です。


「そっか……」


 それで、桜は自分を納得させてしまいました。


『もう会わない』


 彼へのメールです。


『わかったよ』


 返事がきて、桜はほっとしました。

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