密室

あひみての

密室

 薄暗い通路を抜けた先にある、狭い部屋。

換気の悪い籠った空気の中、消え入りそうな裸電球がぼんやり灯っている。

 ガラスに映った彼女と目が合い、彼は思わず目線を外した。


「緊張してる?」


『はい』


「大丈夫よ。私の言う通りにして」


『はい、、』


 汗ばむ手をズボンで拭いながら、彼は小さく答えた。


 彼の緊張と共に本番は始まった。


「ちょっ、何してんのよ?上よ、もっと上」


「あっ!違う!上だって」


『す、すいません』


 徐々に熱を上げる室内。

 彼の額には汗が滲む。


「そうそう。ゆっくりね」


「そのまま、もう少し上」


 彼はその声に応えようと必死に従う。

 彼女の左手は器用に棒を握り、微妙に動かしている。彼の手はまだ彼女のようには動かない。


「あっ!違うっっ。ダメっ!もっと下!!」


『すいませんっっ』


 彼はこの日の為に何度も練習し、イメージトレーニングもした。けれども、実践では何の役にも立たなかった。生でやるのは違うのだ。彼女の苛立ちが伝わって来るようで、いたたまれない。


「次は、私が上。貴方が下。」


「ゆっくりよ。焦らないでいいから、丁寧にやって」


 彼は、しっかりと狙いを定めた。

 今度こそ!と思う。


「どうぞ」


 目線は前を見据えたまま声だけが耳元に届く。


「下手ね」


 彼女が言う


「ゆっくり動かして、私に合わせて」


「奥まで追い込んだら戻して」


「しばらく繰り返して」


「チッ、、」


 彼女の舌打が聞こえた気がして、彼の緊張は更に高まった。


「上手、上手よ」


「どうぞ」


 淡々と彼女は指示を出す。


***************


 2時間の本番が終わった。



「初めてにしては、良く出来た方じゃない。明日も同じ事するから、復習しといてね」


「後ろの宿帳に名前書き込んだら、部屋の電気消してから下りてきて」


 彼女はそう言い残して、部屋を出た。



       完


 続きが気になる方は、次の章へお進みください。

 ご理解していただいた方には、お読み頂きありがとうございました(笑)


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