変態無敵超人は気紛れな助っ人

大雨の中少女は絶望に沈んでいた。

パーティの仲間である者達は既に意識を失い倒れている。

目の前には地竜と呼ばれるBランク上位の魔物が逃げ道を塞ぐように寝転がっていた。


「なんで…こんな事に…」


彼女の名前は『ソリテア』地球からの転生者である。

神に与えられたユニークスキルを使って冒険者をやっていたのだが受けた依頼が悪かった。

翼竜と呼ばれるCランクの魔物の巣に行って卵を持ち帰る筈が翼竜ではなく地竜だったというのだからどうしようもない。

BランクとCランクの魔物の差は果てしなく大きくCランクの魔物であれば倒せなくても追い払うことくらいは出来たのだがBランク相手ではどうしようもなかった。

彼女達は生かされているのである、理由は簡単で卵から生まれる子供の餌である。


「うそ…でしょ…」


雨が止んで少ししたら入り口に寝転がっていた地竜とは別の地竜が突然その姿を現し寝転がる地竜の毛繕いを始めたのだ。

一回り大きいそいつはきっと父親なのだろう、Bランクの魔物が2体。

山で遭難して熊2匹に狙われたと考えればどれだけ絶望的な状況か理解するに容易いと思う。


「はぁ…」


少女は自分の動かなくなった左足を見て溜め息を漏らした。

骨が折れているのがズボンの上からハッキリ分かるくらい違和感のある曲がり方をしている足に既に痛みはない。

自分の2度目の人生が終わりを迎えるのをただ認めるしかないのだと諦めたのだ。

しかし、奇跡は突然やって来た。


「あれ?お嬢さんどうしたの?」


その男は背が高く190はあるだろうか、整った顔立ちで日本ではイケメンと呼ばれたであろう美形であった。

ただ一つ、まるでバレエを踊る時に着るような白いドレスを身に纏い股間からは白鳥の頭部が生えていた。


「ん?おーい」


男は少女の目の前で手を振る。

それに我に返った少女は後退りしながら震える。

変態、まさにその言葉がこれほどピッタリくる存在は見たことがない。


「お友達達も倒れてるけど…もしかしてピンチ?」


男は入り口に寝そべる2匹の地竜を見てそう話す。

そして突然その場で踊り出した。

その踊りは見たこともない動きで両手をダラリと下げたまま下半身のみでステップを踏む不思議なものであった。

すると奇跡が起きた。


「ん…んん…」


倒れて意識を失っていた仲間達が目を覚ましたのだ。

そして、少女は気付く…いつの間にか自分の足も治っていたのだ。

すると捕まえていた獲物が動き出したのに気付いた地竜が起き上がり逃げられないようにするために近寄ってきた。


「ひ、ひぃぃぃぃ…」


仲間達が一斉に反対側の岩の方へ逃げる。

それはそうだろう、全員でかかって一匹相手に全滅したのに目の前には一回り大きい地竜も居るのだ。


「あトーマ♠血統破壊王子♠っ出口が開いた開いた」


そう言って白鳥男は地竜の横を通って外へ出ようとする。

だが地竜がそんな事を許すわけもなく巨大な尻尾が白鳥男を叩いた。

やはり餌にするために殺しはしないのだろう。

だが男に当たった尻尾はまるで電柱に木の棒を叩き付けたように白鳥男を中心に折れ曲がった。

そして、地竜は突然そのまま横倒しになり死んだ。


「え…ぇぇぇぇぇぇぇぇ?!?!」


少女の絶叫が響き渡る。

ただ地竜の一撃を無傷で受けてBランクである地竜を一撃で倒した。

それだけならSランクと呼ばれる冒険者ならありえない話ではない。

だが少女だけは近くにいたので見ていたのだ。

攻撃を受けた瞬間、股間の白鳥が地竜の尻尾に攻撃を加えていたのだ。

そして、攻撃が当たると同時に股間の白鳥は地竜の頭部に変化していた。

それは少女ともう一匹の地竜だけが気付いた現象でもう一匹の地竜は勝てないと即座に判断したのであろう、そのまま逃げるように反転して走っていったのだ。


「やれやれ、女を捨てて逃げるなんて酷い旦那だね」

「そう言ってやるな、あいつらも生きるのに精一杯なのさ」


少女は目を疑う、白鳥立った男の股間は地竜になって、いつの間にか人の頭部になっていたのだ。

だがその頭には黄色い角が生えていた。


「魔王は優しいんだな」

「よせよ死郎、そんなんじゃないって」


股間の顔を魔王と呼んでいる死朗は少女の視線に気付き慌てて股間の顔を隠した。

すると次の瞬間にはそこには最初と同じ白鳥の頭部が生えているのであった。


「いや、驚かせてごめん。俺は山岡死朗。職業はダンステイマーさ。今見たことは内緒にしてくれると嬉しいな、それじゃ」


そう言って山岡死朗は山の中へ駆けていった。

意味が全く分からないが少女達は助かったのだ。







この世界にはかつて世界を支配しようとした魔王が居た。

だがその魔王は異世界から来た一人の転生者のスキルによって永遠に封じ込められることとなった。

倒した者の魂をティムして股間から頭部だけ生やすことが出来、ティムした者の全能力を自身に加算できる『珍降霊ティム』。

そして、望んだ効果を見ている相手に与える躍りを踊れる『優柔不ダンス』

この二つのキチガイスキルを持つ変態無敵超人となった山岡死朗は今日も世界を適当に旅する。

倒した相手を勝手にティムしてその寿命すらも加算している彼は既に不老不死に近い存在となっているのをまだ彼は知らない…



END

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る