第15話 お姉様と文化祭の劇

「というわけで、コンテストで百合の乙女に選ばれることを目標にしようと思う」


「うん、いいと思う!」


 例によってモアと作戦会議をする。


「でもどうやって優勝するんじゃ?」


 なぜか鏡の悪魔がスク水姿で胡座をかく。なぜスク水なのかは謎だ。


「それなんだよな。百合の乙女コンテストは人気投票形式だし、ロッカが組織票を固めて取ってしまう恐れもある」


 俺たちが話をしていると、不意に部屋のドアがノックされた。


「はい?」


 ドアを開けると、そこに立っていたのはモズクだった。


「二人とも、どうしたんだすか、もう文化祭の劇の役決め始まるだすよ?」


 俺たちは顔を見合わせた。


「文化祭?」

「劇?」


「もしかして二人、今日が役決めの日だってこと知らなかったんだすか?」


 いやそれ以前に劇があるなんてこと自体知らなかったんだが。


「変だすな。全部の部屋にお知らせが配られてたはずなのに」


「モア、お知らせなんて見たか?」


「ううん、見てない」


 まさかとは思うが、ロッカのやつ、わざと俺たちに知らせなかった!?


「とにかく、早く行くだすよ!」


「ああ」


 モズクの後をついて、俺たちも急いで部屋を出た。


「すみません、遅れましたっ!」


 俺らが到着すると、もうすでに寮の大半の生徒が集まっていた。


「あなた達、遅いわよ」


 厳しい声のロッカだが、こちらの方はチラリとも見ない。


「とりあえず空いてる席に座って」


「は、はい」


 とりあえず席につくと、黒板にデカデカと『白百合姫と黒薔薇姫』という題目が書かれている。


 どうやら俺たちが来る前にすでに演目を決めてしまったらしい。

 危ない危ない。もう少し遅れていたら役柄まで勝手に決められる所だった。

 勝手に枯れ木だの岩だのそんな地味な役にされたらたまらないからな。


 『白百合姫と黒薔薇姫』は、こちらではシンデレラや白雪姫のようにメジャーなお話だ。


 美しくて可憐な白百合姫を黒薔薇姫が妬んで色々と意地悪をするものの、最終的には和解するというそんな感じのお話だった気がする。


「ツバキ様は当然白百合姫よね」


 満場一致で主人公が決まる。


「では黒薔薇姫は……」


「はい、ロッカ様がいいと思います!」

「私もロッカ様がいいと思う!」

「賛成!!」


 ロッカの取り巻きたちが推薦する。


 黒薔薇姫は意地悪なライバル役ではあるものの、あちら風に言うところのツンデレキャラで、一部マニアには白百合姫姫よりも人気があるのだという。


 要するに、主人公白百合姫と並ぶ花形だ。


「他にやりたい人がいなければ私が黒薔薇姫になりますが」


 ロッカが生徒達を見渡す。


 反対する生徒は見当たらない。


「お姉様、いいの?」


 モアが小声で確認する。


「ああ、俺が狙っている役は他にあるんだ」


 ああいう意地悪な役はロッカの方が合うだろうしな。


「次は、王子様の役です」


「はい!」


 俺は大急ぎで手を挙げた。

 俺の持ち味を生かすにはライバルの女キャラより断然王子様だ。だって元々男だったんだから、王子様役のほうがピッタリだろ?


 意外にも、王子役を希望するのは俺以外いなくて、すんなりと役は決まる。


「それでは、明日から練習を始めますのでサボらずに来てください!」


 ロッカの号令で解散する。


「お姉様、良かったね。王子様なんてぴったり!」


「モアのメイドの役も楽しみだよ」


 メイド服姿のモア! ああ、さぞかし可愛いんだろうなぁ。


「二人とも、きっとさぞかし似合うんでしょうね!」


 嬉しそうなモズク。


「そういえば、モズクって何の役になったんだ?」


「わたすですか? わたすは海辺に打ち上げられたワカメの役だす!」


「海辺に打ち上げられた……」

「ワカメ……??」


 そんな役があったのか!!


「地味なわたすには役があるだけでもありがたいだす」


 そう言って笑うモズク。


「そ、そんなことないよ!」


「そうだそうだ! ワカメだってコンブだって、生きているんだ立派な役だ!!」


「二人とも、こんなわたすを慰めてくれるなんてなんて優しいんだべ……」


 いや、モズクこそなんでそんなに自己評価が低いんだよ。


「皆さん、文化祭の劇、頑張るべさ!」


「うん!」

「おう!」


 こうして俺たちは、文化祭の劇に取り組むこととなった。





 劇で活躍して百合の乙女コンテストで優勝する、そんな目標を立てた俺たちは、次なる行動を起こしていた。


「おー、ここが青百合寮の練習場か!」

「お姉様、あんまり大声を出したらみつかっちゃうよ」

「悪い悪い、そうだな!」


 コッソリと青百合寮の練習を覗き見る俺たち。


「やあ、子猫ちゃんたち。こんな所で何をしているのかな?」


「ひぁっ!!」


 だが、あっけなくサツキ様に見つかってしまう。

 

「さ……サツキ様!!」


 お尻を抑えながら振り返ると、そこには爽やかな笑顔を浮かべたサツキ様がいた。


「こっそり敵情視察とはやるね」


 ウインクするサツキ様。


「ははは。ちなみに青百合寮は何の劇をするんですか?」


「『王様と青猫』さ」


 『王様と青猫』は弱虫な王様が青猫と冒険し、最終的には名君になるというお話だ。


「へえ。じゃあサツキ様は青猫役? それとも王様?」


 俺が質問すると、サツキ様はヤレヤレと首をふる。


「私は監督兼ナレーションさ」


「え? そうなんですか!?」


「実は私は演技は苦手でね。それに可愛い後輩たちが演技をしているのを見る方が楽しいしね」


「なるほど」


「というわけで、偵察するなら黄百合寮のほうがいいと思うよ? 何ったってスミレは女優の娘だしね」


「そうなんですか」


 女優の娘。俺たちの強力なライバルになりそうだ。

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