第43話 お姉様とさらば水の都
「やぁセラス、久しぶりだな」
そしてその二週間後、俺たちは再びセラスの城に来ていた。
「お姉様♡ 久しぶりね」
ニコリと笑って抱きついてくるセラス。
背後からモアの視線が痛い。
「今日はどうしたの?」
「ああ。あれから俺たち、Bランク冒険者にランクアップしたんだけど」
「まあ! それはめでたいことね」
そう、俺たちはあの後海のダンジョンに再挑戦し、何度かクエストをこなしてBランクに上がることができたのだ。
「それで、実は俺たち、そろそろここを離れようかと思ってて」
「そうなの?」
セラスが悲しげに視線を落とす。
「私たちも、もっとここに居たいけど、セシルにはあんまり高ランクのクエストが無いし」
モアも、寂しげに肩を落とす。
セシルには、C、Dランクの依頼が多くAランクやBランクのクエストがあまり無い。
もっと上を目指すには、ここを離れるしかない。モアと二人相談して、俺たちはそう結論付けたのであった。
「そう。寂しいけど、二人ならもっと上を目指せるわ。離れていても、私はずっとあなたを応援してるわ」
「ありがとう、セラス」
すると、ガチャリと部屋のドアが開いた。
「セラス姉さん? 言われてた書類できたけど――うわっ!」
ドアを開けて入ってきたのは、長い銀髪に青い目、白いリボンに白いフリフリのドレスを着た美少女――
「もしかして、ベルくん!?」
セラスがニッコリと微笑む。
「そうなのよ! この子ったら女装して船に潜り込んでたって言うし、私は女の子の兄弟が欲しかったからちょうどいいと思って!」
「もー! お姉様たちが来てるなら言ってよぉ! 恥ずかしい……」
顔を真っ赤にして足をモジモジさせるベルくん。
「全然恥ずかしくないわよ。似合ってるもの! ねぇ、今度は南大陸から取り寄せたこの猫耳カチューシャ、付けてみない?」
「嫌だぁぁあ!! 恥ずかしいよぉぉぉ!!」
どうやら、姉弟仲良く(?)楽しそうにしているようだ。
◇
「お姉様ーーっ!」
浜辺を歩いていると、聞きなれた声が俺を呼ぶ。オレンジ色のポニーテールが潮風に揺れる。アンだ。
「アン、久しぶりだな!」
振り返ると、アンはニコリと笑う。
「ええ、お元気ですか?」
「私たち、Bランク冒険者に上がったんだよ!」
モアが顔を綻ばせて報告する。
「ええ、聞きましたよ! おめでとうございます! てかむしろまだBランクだなんて、そっちの方が驚きです」
「へへ、ありがとよ」
俺たちは、砂浜でお互いの心境を報告し合った。
あれから無事、オディルは引越しを済ませたこと。
ベルくんが城に戻り、ネコミミ男の娘(?)として働いていること。
海底神殿では、壊れた城の再建が進み、そこで半魚人たちや人魚たちは再び平穏な日々を取り戻している。
「グレイス船長とロレンツ船長も上手くいきそうですよ。今はとりあえず休戦協定が結ばれて、二つの船が出会っても喧嘩してはいけないことになりましたし、マリンちゃんなんか、向こうの船に彼氏もできて――」
「それは良かった」
白い砂浜に、潮風が吹き抜ける。
青い海に照りつける太陽。
俺は水平線を見つめ目を細めた。
「――で、俺たちは、そろそろここを離れようかと思ってて」
俺が言うと、アンは悲しそうに視線を落とした。
「そうですか。寂しいですけど、二人が決めたのなら」
波の音。アンもセラスもベルくんも、俺は全員好きだ。離れたくない気持ちもある。でも――
「おーい!!」
「二人とも、久しぶりー!!」
そこへメリッサとグレイス、マリンちゃんが駆けてくる。
「みんな!」
「久しぶりだな!」
「実は二人、ここを離れるそうなんです」
アンが説明する。
「そうなの?」
「寂しいなあ」
肩を落とすマリンちゃんとメリッサ。
グレイスが提案する。
「そうか。君たちには世話になったな。そうだ、どうだい? 最後に船に乗ってこの辺をもう一度見て回るってのは」
「おお、いいね!」
「お姉様、行きましょう」
こうして俺たちは、海賊船に乗って最後の航海に乗り出した。
ドクロの旗が風ではためく。
どんどん遠ざかっていく白い壁に青い屋根の美しい街並み。港の風景。
風を切り、澄み切った青い海を割いて船は進む。
海の上では、陽気な女海賊たちの歌声が響く。
「錨をあげろーヨーホーホー」
「お姉様は」
「清き正しく美しいー」
「お姉様は」
「最強だ!!」
【お姉様 2nd season 完!!】
※10/1より第3章開始します。
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