お姉様(♂)最強の姫になる。~最高のスペックでの転生を望んだら美少女になりました~

深水えいな

第1部 始まりの物語編

第1章 お姉さまは最強

プロローグ:俺は最強の姫

「お姉さま、頑張って!」


 世界一可愛い妹、モアの声援が聞こえた。

 声のする方向に視線をやると、銀髪で青い目をした美少女が目をキラキラさせて手を振っている。


 ああっ、今日も可愛いなあ、モアは。天使だ。きっと神がこの世に遣わした天使に違いない。


 にやけ顔になりそうになるのをこらえながら闘技場の中央へと向かう。いかんいかん、試合に集中しなくては。


 拳を観客席に突き上げ勝利を誓うと、辺りから黄色い歓声が波のように湧き上がった。


 しょーがねぇなあ。みんな、美人が好きなんだから。


「きゃあ、ミア様よ。ああ、あの凛々しいお姿』

「ミア姫様ー、頑張って!」

「姫様、今日もお美しい」


 宮殿に併設された闘技場は、麗しい金髪の美姫――すなわち俺が、腕自慢の男を相手にするのをを見に来ようとする客で超満員。


「ふん、腕自慢の姫だか何だかしらねェが、あんな細い女がこの俺にかなうもんか」


 眉をしかめながら登場したのは、筋骨隆々、身の丈は俺の倍もあろうかという大男。


「一振りでケリをつけてやるぜ!」


 試合開始の鐘がなる前に、禿頭の大男が大剣を振り上げる。ちっ、卑怯な奴め。


「早漏は嫌われるぜ? オッサン」


 空を切る大剣。俺はその一撃を軽く横に飛び躱す。

 闘技場の床に穴が開く鈍い音。砕け飛び散る瓦礫。その向こう、目を血走らせている禿男。


 続けて第二擊。刃が日光を反射しながら横になぎ払われる。


 ――遅い!


 俺は身を屈めてその斬撃を避けると、剣を握る禿頭の右手を思い切り蹴り上げた。


 金属を打ち鳴らしたような鈍い音が闘技場コロシアム内に響き渡る。


 青空に弧を描き、遥か彼方へと飛んでいく男の剣。


 空を見上げ静まり返る観客たち。

 禿の大男もまた、右腕を抑えながら宙を見上げた。あんぐりと開いた口が微かに震える。


「馬鹿な」


「さて、これでトドメだ」


 俺は拳を握ると、禿の腹部に真っ直ぐ叩きつけてやった。


 知らない人が聞いたら、城に大砲が撃ち込まれたのかと思うような轟音が響く。


 シンプルなストレート。拳は空を切り裂き、男の腹部にめり込んだ。


 感触があった。苦しげなうめき声。


 一瞬の沈黙があった。

 観客が固唾を飲んで勝負の行方を見守る中、男は膝から崩れ落ちた。


「ふぅ」


 俺は汗をぬぐうと、つま先で倒れた男を蹴った。仰向けになる男。石畳の上、男は白目をむいて泡を吹いている。


 良かった、死んでない。生身の人間相手だと、手加減するのにいつも苦労する。でもこりゃ完全に気絶してやがんな。


「俺の勝ちでいいんだよな?」


 クルリと審判に向き直る。


「は......はい」


 呆気に取られていた審判は、慌てて男の様子を確認すると、俺の腕を取り高く掲げた。


「勝者――ミア姫!」


 関を切ったように歓声が溢れる。


「信じられない、あんな大男を姫様の細腕一つで」

「凄まじい怪力だ」

「キャーッ、ミア様カッコイイ!」


 沸き上がる観衆。


 闘技場には、ぬいぐるみやら花束やら、ラブレターやらが沢山投げ込まれる。やれやれ、人気者も困ったもんだ。


「きゃーっ、ミア姫さま!」

「素敵っ、こっち向いて」


 俺は歓声をバックミュージックに、右手を軽く上げ、脇目もふらずクールに城に戻る。フッ、決まった。


 俺、強い!!


 ふっふっふ、俺は今日も強かったし、可愛かったなあ。

 

 ニヤニヤしながらしばらく余韻に浸っていると、禿頭の爺が顔を真っ赤にして飛んできた。


「おう、爺や。武闘会で優勝したんだし、約束通り冒険者に」

 

「なりませぬ!!」


「何でだよ!!」


 爺は盛大なため息をついた。


「十六にもなって、まだ勇者になりたいだの、冒険者になりたいだの馬鹿げております。今回はたまたま相手が弱かったからよかったものの、万が一怪我でもなさったら嫁の貰い手も」


 またこれか。二言目には嫁の貰い手、嫁の貰い手って、うるせェにもほどがある。


「ハイハイ」


 俺は手をひらひらとさせると、大きな音を立てて部屋の扉を閉めた。


 ――勇者になりたくて、何が悪い!


「はー」


 大きなため息をつく。優勝したのに気分は晴れない。


「疲れた」


 重たいブーツを脱ぎ捨てる。装備していた茶色い革の胸当てとパンツ、白いシャツも躊躇なく床に投げ捨てる。

 

 裸足のまま豪華な装飾を施した鏡の前に立つと、映し出されたのは、俺の美しい姿だ。


 リボンで縛っている長い艶やかな金髪は、ほどくとシャンデリアの光を反射しながらすとんと流れ落ちる。


 猫を思わせる少し吊り目がちな目は鮮やかなグリーン。小さな唇は蕩けるような桜色。


 整った目鼻立ちの美人でありながら、どこか幼さを残して可愛らしい。


 レースに彩られた純白のビスチェから除く豊かな胸の谷間。細い腰に、すらりと伸びた長い脚。


「どう見ても完璧な美少女、だよな」


 自分の美しい姿に思わずため息が出る。


 だが美形でスタイル抜群、強い上に一国の姫、そんな完璧美少女の俺には秘密があった。


 それは実は俺が前世では男だったってこと。


 ......そして今でも、自分のことを男だと思っている。

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