37話 「ロリコンと食事」


 ボタンとバラ、この姉妹と胡蝶は相性が悪い。

 

 古家さんの家に着くと早々に玄関で胡蝶がボタンと喧嘩をし始めたことにより俺はこの先トラブルが起きないか不安になった。

 

 「大我様、ボタンとバラがはしたないことをしてすみません……私は先に行きますね」

 

 心春さんは少しひきつった笑みをうかべてそそくさと奥へ向かった。

 

 心春さん、もしかしてボタンとバラに言われたことを気にしてるのか?

 

 俺は心春さんが心配になった。

 

 「あ、あの大我さん私は夢見鳥をつれて部屋に一旦戻りますね」

 

 繭さんは顔を赤くしてパンツを握り締めて俺に言う。繭さんがパンツを持っている理由は夢見鳥ちゃんに盗まれたからだ。それをみんながいたこの場所でボタンから返された。

 

 「ねえ、繭……繭?」

 

 夢見鳥ちゃんが繭さんの様子を伺うように呼ぶが繭さんはそれを無視して奥にある部屋へ歩いて行く。

 

 「繭ぅー!」

 

 夢見鳥ちゃんは悲痛な声で名前を呼び慌てて繭さんの後を追いかけた。玄関には俺と胡蝶の二人だけになった。

 

 取り合えずここにいてもしょうがないので俺と胡蝶も夕食が用意されている奥の部屋に向かう。途中で後ろから胡蝶が俺のシャツを掴んできたので振り向く。

 

 「なあ大我、後でお前の部屋で話しがしたい」

 「……わかった」

 「お前が心春と浮気した内容を聞くと私は怒り狂うかもしれない……いや、みっともなく泣きわめくかもしれない」

 「胡蝶、俺は……」

 「今は言わなくて良い、ただ何で私じゃなくて心春を選んだのか私は知りたい」

 

 胡蝶が真剣な表情でまっすぐ俺を見つめて言う。その気迫に圧倒されて俺は黙って頷くしかできなかった。

 

 ……。

 

 「おお、久我君待っていたよ」

 

 奥の部屋に行くと古家さんが食卓のある畳みに座り待っていた。

 

 「すみません胡蝶と話しをしていて遅くなりました」

 

 食卓を見ると古家さんの前にくるように箸が置かれていたのでそこに座った。

 

 「大我、私は食事ができないからお前の部屋で待ってる」

 

 胡蝶はそういうと去って行った。きっと喧嘩する前であれば胡蝶は御飯が食べれなくても俺の側にいて会話をしていただろう。

 

 そういえば胡蝶が初めて俺の家にやってきたとき、只の人形の胡蝶に向かって話しかけて飯を食べていた。今思い出すと完全に危ないやつだ。

 

 胡蝶が命を持って動き出して一緒に暮らすようになり一人で寂しく飯を食べることもなくなったな。

 

 思い出すと悲しくなってくる、早く胡蝶と仲直りしたい。

 

 ……あれ?

 

 ふと疑問がわいた。

 

 確か古家さんは胡蝶達を最初から命を持たせた状態で造ったはずだ、なのに何故俺の元へ来たときは只の動かない人形だったんだ?

 

 「久我君、難しい顔をしてどうしたんだね、まぁ今日は色々あったけどそれは一先ず置いて食事にしよう」

 「古家さん……そうですね、後でちゃんと事情を話します」

 

 古家さんに話しかけられて我に返る。

 

 「お父様お食事を持って来ました」

 

 スイカズラちゃんがお盆に夕食を載せてやって来るとテキパキと食卓に並べる。夕食は御飯と汁物とあとはこの地域の伝統のような料理だ。とても美味しそうだ。

 

 「お待たせしました」

 

 夕食が食卓に並ぶのと同時に繭さんがやってきて俺の隣へ箸が用意されていたのでそこに座る。

 

 「繭さんも来たようだね、それじゃあ食べようか」

 

 古家さんが言うのと同時に今度はヒガンバナちゃんが瓶ビールと容器に入った麦茶を持って来た。

 

 「はいお父様お飲みものを持って来ました、それと繭さんはお茶で良かったですよね」

 「はいそうです、けど何で私がお酒を飲めないって分かったんですか?」

 「だって繭さん見た目が幼いから一目で未成年だって分かりました」

 「……私って幼いんだ」

 

 繭さんは少しショックを受けて呟いた。

 

 「いやすまない、どうか気を悪くしないでくれたまえ、たまにこの娘達は気を使いすぎる事があるんだ、決して悪気が有った訳ではないから許してやって欲しい」

 

 古家さんがそう言うとヒガンバナちゃんが申し訳なさそうに繭さんに謝る。

 

 「いえ、そんなに謝らないでください……そんなに気にしてませんから」

 

 繭さんは苦笑いをして言う。

 

 「まぁ、そう言ってくれるとありがたいそれじゃあ乾杯しようか」

 

 それぞれのコップに飲み物を注ぎ乾杯する。俺はビールに口をつけながら先ほどの繭さんが幼いと言われていたことを思い返す。

 

 繭さんが幼いかぁ、確かに繭さんは小さくて童顔でかわいいから何だが守ってあげたくなるんだよなぁ、しかも胸は少し大きい。

 

 「……大我さん何で私のことをニヤニヤして見てるんですか?」

 

 ブフッ! 

 

 繭さんの質問に俺はびっくりして口から少しビールをこぼしてしまった。

 

 「これは違うんだ! その、さっき繭さんが幼いって言われてて、確かに繭さんは小さくてかわいいって思ってただけで……あっ!」

 

 俺は繭さんにとんでもないことを言ってしまった。

 

 俺のバカバカ、このロリコン野郎!

 

 「わ、私が小さくてかわ、かわいいですか!?」

 

 繭さんは下を向いてモジモジする。

 

 「……あの、もしかして大我さんは小さい子が好きなロリコンさんですか?」

 

 繭さんがチラリと俺を見て言う。

 

 グサァ!!

 

 言われた瞬間俺の心臓に鋭いものが刺さった気がした。

 

 「俺はちゃんと大人のスタイルが良い女の人が好きです、だからロリコンじゃありません!」

 

 俺は繭さんに慌てて言い返す。

 

 「ええっ!? そんなのダメです大我さんはロリコンでいてください!」

 「ええっ!?」

 

 繭さんが必死に俺にロリコンでいてくれと言うので驚いた。

 

 「君達何を言ってるんだい?」

 

 古家さんに言われて二人して我に返り気まずい雰囲気の中目の前の夕食を食べる。

 

 美味い。

 

 「あ、これとても美味しいです」

 「ホントですか!?」

 

 繭さんが夕食の感想を言うとヒガンバナちゃんが興味津々で尋ねる。

 

 「ホントですよ初めて食べる料理ですけど味がしっかりしてて美味しいです」

 「良かったぁ実はこの夕食全部私とスイカズラの二人で調理したんです」

 

 へぇ、二人が作ったんだ。

 

 食べながら会話を聞いた。

 

 「私達は人形で味覚がないから最初は上手く調理できなかったんです、けどお父様のおかげで美味しい料理が出来るようになったんです」

 

 スイカズラちゃんが俺に説明してくれる。古家さんを見るとどこか遠い目をしていた。

 

 あぁ、この料理の美味しさはヒガンバナちゃんとスイカズラちゃんの努力、そして古家さんの胃袋の犠牲によって完成されたんだ。

 

 俺はあらためて感謝の意をこめながら美味しい料理を食べる。

 

 ……あれ?

 

 食べている途中で再び疑問がわいた。さっき人形だから味覚がないと言っていたよな? 確か胡蝶は味が分かっていたはずだ。

 

 胡蝶は過去に俺と公園に行ったときジュースを飲んでうまいと言っていた。

 

 「……あの古家さん?」

 

 俺は古家さんに思ったことを聞こうとしたが古家さんは繭さん、そしてヒガンバナちゃん達と楽しく談笑していた。今は聞ける雰囲気じゃない。

 

 もしかして胡蝶は他の球体関節シリーズと少し違うのか?

 

 疑問を持ちつつも今胡蝶と仲直りする方法を考えるのが先だと思いながら夕食を食べた。

 

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