第58話 ダンジョンは何処まで人間を試すのか・・・
ピコハンは立ち上がり深く深呼吸をして呼吸を整える。
目の前に立ちはだかるのは4体の千手観音と身長が3メートルを超える地蔵、いや観音菩薩である。
そして、ピコハンの方へ2体の千手観音がその手を物凄い速さで動かしながら近付いてきた!
「くっ?!」
ピコハンは後ろに下がりながらその攻撃を防ぎながら後退する。
目にも留まらぬ速さとは良く言ったもので、その数十本にも及ぶ腕は恐ろしい切れ味を持ったままピコハンに襲い掛かる!
流石のピコハンもそれを見切る事は不可能であった。
これが武器を手に振り回すのであれば対処も出来たかもしれないがそれは素手である。
リーチが短い分回転が速く、しかもその手は2体で先ほどの倍の数が襲い掛かるのである!
だがピコハンもただ闇雲に後退しているわけではなかった。
「足元がお留守だぜ!」
後ろにステップで下がると同時に地面に転がっていた倒した地蔵の欠片を蹴り飛ばし左の千手観音の下半身にぶつける!
衝突と同時に砕けて粉砕する破片ではあるがその衝撃が強かったのだろう、左の千手観音の前進が少し遅れた。
それと同時に右にステップするピコハン!
まさに策士!ここまでダンジョンで生き抜いてきただけはあった。
ピコハンの前に横並びになっていた千手観音は直線状に並ぶ形にされ1対1の状況を作り出したのだ!
「もう見切ってるんだよ!」
そのまま大きく振り被ったピコハンは直線状にならんだ千手観音の胸に向けて先程と同じように石刀の切っ先向けてを投げつけた!
手加減無しのその石刀は前に居た千手観音の胸を貫きそのまま後ろの千手観音にも突き刺さる!
体の中心を貫かれた前の千手観音はその衝撃で腹部を後ろに下げ前のめりになる!
それを狙っていたのかピコハンは飛び上がり前の千手観音の頭部を踏み抜いてそのまま後ろの千手観音に襲い掛かった!
まさに百戦錬磨とはこういう状況判断に強くなければいけないのだろう。
「す・・・すごい・・・」
アリーはピコハンの行動からもう千手観音はピコハンの相手ではないのだと理解した。
素手が鋭利な刃物の様な攻撃力を持つ腕が多数あり一見隙が無いように見えるのだが、その真上は無防備だと理解したのだ。
だがしかし、2メートル近くある頭部へ飛び上がり踏みつける事が出来なければこの戦法は使えない。
人間離れしたピコハンだからこそ使える戦法であった。
「お前も沈んどけ!」
並んだ後ろの千手観音もその頭部を踏み抜かれその活動を停止する。
これが頭部だけであればそこからまた腕が生えてピコハンを攻撃したのであろうが踏み抜かれた頭部は千手観音の胸の中まで押し込められていた。
多分あの腕は千手観音の中で圧殺されたのが直ぐに分かった。
動かなくなった地蔵2体の後ろに着地したピコハンは直ぐに前に駆け出す!
残った2体の千手観音を先に始末しようとしたのだ。
だがしかし、ピコハンが走り出すと同時に再び観音菩薩の目が開く!
それを予測していたのかピコハンはそこから横に数センチ動きながらダッシュする!
まるでレーザーが来るのを予測していたように動いたピコハンの思惑通りレーザーはピコハンの直ぐ横を通過して動かなくなった地蔵2体を飲み込んだ!
「それ卑怯なんだよ!」
そのままスライディングの様に残った左側の千手観音の足元へ滑り込むピコハン!
そう、頭部同様腕が届かない部分は完全に死角なのであった!
片足の足首辺りを蹴り砕きそのまま地面に手を付いて寝転んだ状態で千手観音の腰を蹴り飛ばしもう一体の千手観音にぶつける!
じつはこの千手観音、ダメージを受けると動きが少し停止するのをピコハンは前の2体と戦った時に理解していたのだ!
そして、動かない一瞬を利用して追撃を仕掛けるピコハン!
「オララララララララ!!!!!」
叩き込まれる拳が千手観音を腕の根元を次々と叩き壊し腕を全て無くして攻撃手段の無くなった千手観音を2体作り上げたピコハン!
その攻撃手段の無くなった千手観音の足を捕まえて目を閉じて動かない観音菩薩に向けて投げつけた!
恐るべき怪力である、全てが石の千手観音の重量は軽く70キロを超える。
それを持ち上げるだけでなく投げつけるその攻撃は予測していなかったのか観音菩薩は衝撃で少しよろける。
もう一体も同じようにピコハンは観音菩薩に投げつけそのまま自分も観音菩薩に突っ込んだ!
これまでの地蔵達との戦闘で相手はダメージを受けている最中は無抵抗になる事がピコハンには分かっていた。
「これでもくらえぇえええええ!!!」
ピコハンの予測通り目を開くことも無くよろけた観音菩薩にピコハンは飛び掛り胸部に拳を叩き込む!
先程とは打って変わってピコハンの全力の一撃である!
物凄い勢いでパンチの衝撃が観音菩薩を通り抜け奥の壁に衝撃がぶつかる!
そして、胸部から観音菩薩の全身にヒビが広がり全身を覆い尽くして観音菩薩はその場でバラバラに崩壊するのであった。
「ふぅ・・・とりあえずひと段落かな?」
観音菩薩が完全に崩壊したと言うのに次なる敵が現れない事からピコハンは続いたボスラッシュが一段落したのかと体の力を抜いた。
そして、アリーの方を向いて彼女が無事なのを確認しピースをするピコハン。
先程までの戦い振りでピコハンの事をとんでもない戦士だと考えていたアリーであったが、その仕草からピコハンが自分よりも年下の男の子だと言う事を思いだす。
「全く、なんて人なのかしら・・・」
アリーの顔から緊張していた表情が崩れ笑みが浮かんだ。
その顔を見てピコハンは軽く頷いて串刺しにされている為か、倒れていない千手観音の方へ近付き腹部を貫いている石刀を引き抜いた。
すると千手観音は硬直したまま倒れその体を倒れた衝撃でバラバラにする。
「さて、ここからどうやったら出れるのか・・・」
「えっきゃっ?!」
そこまで口にしたと同時に再び振動が2人を襲った!
地面に両手を付いてしゃがみ込んでバランスを取る二人。
少しして振動が収まり2人は目を点にして正面を見詰めるのであった。
「おいおい・・・嘘だろおい・・・」
「なんなのよ・・・こんな・・・」
2人の目線の先には先程と同じ身長3メートルを超える観音菩薩が4体・・・
そして、いつの間にか高くなった天井ギリギリまでの奥の壁が人型にくり抜かれそいつは歩き出していた。
全長10メートルにも及ぶその巨大な大仏は一歩歩くごとに部屋を揺らし意思を持っているかのようにピコハンとアリーを見詰める。
その歩く動きは普通の人間が歩行するように滑らかに動き振動が収まる前に次の足が置かれる為に地面は揺れ続けている状態となっていた。
「こ・・・こんなのどうしろって言うのよ・・・」
アリーの口から泣き言が出始めたがピコハンは重心を低く置いてバランスを崩さないように大仏と観音菩薩の動きに集中する。
ピコハンにとって自身の体にまだダメージが殆ど無い事から過去のダンジョンよりもマシだと認識できていた。
だがそれはピコハンがダンジョンの生物を殺すことでその存在の力を得て強くなっているからであったのだが本人にはその自覚が無かった。
幾度と無く死にかけた経験から自分はまだやれると自身を奮い立たせ石刀を握る手に力を込めて観音菩薩へ向けて駆け出す!
大仏が一体どれ程の強さを持っているのかは分からないが観音菩薩の目から放たれるレーザーは非常に厄介である。
その為、ピコハンは4体の観音菩薩を先に仕留める作戦に出ていた!
本気の踏み込みでまるでその場から消えたように瞬時に突撃したピコハンの動きには観音菩薩も追いつけなかったようで一瞬でピコハンの石刀が1体目の観音菩薩を頭部から叩き潰した!
石刀も既に欠け始め切れ味は悪かったのだがそんな事はお構い無しで力任せに突撃のスピードも加えて一気に振り下ろし叩きつけたのだ!
そして、即座にその場から真横に飛んだピコハン。
その場所へレーザーが通過する!
「次はお前だ!」
ピコハンはレーザーを目から放った観音菩薩目掛けて突っ込む!
このレーザーは連発できないのは先程実証されていた為にピコハンの標的は決まったのだ!
残りの2体もピコハンの方へ向けてレーザーを放つが全速力で動くピコハンに追いつけず2体目の観音菩薩も斜めに切りつけられ破壊される!
そして、まるで電光石火の様に残りの2体へ向けて走り出すピコハン!
レーザーを放ってしまった2体の観音菩薩はその瞳を閉じてピコハンの方を向こうとするがあまりにも早いピコハンの動きを追えず3体目の観音菩薩もピコハンの一撃で粉砕させられた!
「お前でラストだ!」
石刀をしっかりと握り返し最後の観音菩薩へ向けてピコハンが駆け寄ったその時であった!
ピコハンは決して油断をしていた訳ではなかった。
実際に観音菩薩が追えない程の速度で走っていたし大仏の動向にも気を配っていた。
だがその大仏の動きはピコハンの予想を遥かに上回る物であった。
「しまっ?!」
気付いた時には既に遅かった。
ピコハンの頭上に大仏の掌底が残った観音菩薩を巻き込む形で叩きつけられたのだ!
まるで近くを飛び回る羽虫を叩き潰すかのように手を出してきた大仏の手によりピコハンと最後の観音菩薩は物凄い音と共に地面と大仏の手で押し潰されるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます