第27話 ピコハン、盗賊と遊ぶ

「止まれ!」


ダンジョンを出てボロボロの格好で帰ってきたピコハンは、村の入り口に立っていた男に止められる。

それもそうだろう、ピコハンの体は汚れ着ていた服はボロボロになりズボンも何故か下着が見えないようにズタズタになっていた。

時代が時代なら間違いなく不審者である。

だがそれでも腰に剣を装備しているのとその体が子供にしては異様に発達した筋肉だった事から少なくとも人捨てされた子供には見えなかったのだろう。


「ボウズ迷子か?でもここはとある方の領地でな、普通の人は入れないんだ」

「いや、あの俺…」

「駄目だ!帰れ!」


有無を言わさず追い返されるピコハン。

既にピコハンの強さは目の前の兵士が複数で同時に襲い掛かってきても簡単に無力化出来るほどである。

だが門番の彼はピコハンの顔を知らず己の仕事に忠実なだけなのだ。

その為、ピコハンも無理やり通ったりする事は出来なかった。


「えっと…」


口篭るピコハン・・・

見た目は子供、まだ10歳なのだから仕方無いだろう。

どうするか悩んでいたピコハンだったが…


「坊主!」


門番が突然ピコハンの腕を掴んで引き寄せた。


「えっ?へっ?」


少しよろけながらも動いたピコハンは門番の近くへ寄せられた。

驚いたピコハンが何事かと思ったら門番の視線の先に複数の男達が現れた。

手に持っている武器に汚れた服装、人相が悪い分ピコハンの数倍は怪しいが肌の見えてる面積はピコハンの方が多い。

そのピコハンを見て男達は多分人捨てされた子供だろうと気にせずに門番の男に声を掛ける。


「さて、返事を聞こうか」

「ふざけるな!村の財産半分と女全員なんてそんな条件聞けるわけないだろ!」

「はんっ、俺達に村が守ってもらえる事を考えたらいい条件だと思うがな」


男達は盗賊なのだろう、ゲラゲラ笑いながら手にした武器をフリフリと見せびらかせるようにアピールする。

会話の内容からピコハンが不在の間にこの村にちょっかいを掛けてきた盗賊だろうとピコハンは判断した。


「別に俺らは無理やり略奪をしても良いんだぜ」


一人の盗賊が前に出てニヤニヤしながら告げる。

明らかに武器を持つ姿勢が整っている、多分何処かで修練を積んだ人間だと一目で分かる。

事実その男は町の警備兵の一員として働いていたが裏で不正な取引を行った事がバレて町を追い出された人間であった。


「お前一人くらいなら俺一人でも簡単に切り捨てる事が出来るんだぜ」


門番の手に力が入る。

威圧で自身が勝てないのを悟ったのだ。

だが門番は村の人達の為に引かない、代理村長であるルージュに報告すれば何かの対処はしてもらえるかもしれないがその間に盗賊達は村に入るだろう。

なので自分はこの場を離れるわけにはいかない!

ピコハンは門番のその真剣な目を見て嬉しそうに笑顔を作り一人前に出た。


「おっおいっ」


門番が声を上げるがピコハンは左手をヒラヒラと振るだけで盗賊の方へ歩み寄る。


「あーん?なんだお前は?」

「お兄さん強いの?ならちょっと勝負しようよ」


ピコハンはムカデの大群を倒して自分が人間相手にどれくらい強くなったのか試してみたくなったのだ。


「あん?お呼びじゃないんだよ!」

「坊主!」


盗賊が手にしていた剣を振り下ろす!

片手剣の縦振りだが、まるで腕を鞭のように撓らせて加速させる独特の技術で振り下ろされたその技は門番の肉眼で捕らえられる速度を超えていた。

だがその剣をピコハンは紙一重で見切り振り下ろされた剣の側面を人差し指で押しながら反対側へ体を動かしてかわした。


「へっ?」


真っ直ぐに振り下ろした筈の剣が左に反れた事もそうだがピコハンが盗賊の前髪を1本掴んでいたのだ。


「それじゃあ攻撃を受けるたびにお兄さんの髪の毛1本ずつ抜いていくね」


ピンッと前髪が一本抜かれて風に飛ばされる。

それを唖然としてみていた盗賊であったが当然怒りに震えて剣を横になぎ払う!

真横に振れば避けるのは困難だと思ったのだろう。

だがピコハンは盗賊に密着するように逆に近付き最小限の動きで盗賊の背後に回りこんだ。


「はい2本目」


再びピンッと髪の毛が抜かれ盗賊は剣だけでなく蹴りや地面の土を蹴り上げて目潰しに使ったり無茶苦茶に攻撃を繰り返し行なう!

だがピコハンはそれを次々とかわしそして男の目の前に立ち。


「土の蹴り上げは一塊って事で塊で貰うよ」


そう告げ男の前髪を鷲掴みにしてそのまま盗賊を飛び越えた!


「あっあぎゃああああ!!」


ごっそりと髪の毛を抜かれた男のおでこはハゲて痛みでのた打ち回る。

それを離れて見ていた盗賊達は唖然としている。

彼らの中で頭一つ抜けて強かった男が遊ぶように翻弄されているのだ。

しかし、我に返った男達が石や弓を使って遠距離から攻撃してくる!


「うわっこれは酷いね」


ピコハンはそれすらもかわす。

まるで攻撃が通過するポイントを理解しているように動きそこを弓矢が通り抜け男の太股に刺さる。


「うぎゃああああああ!!」


そして、その攻撃も回数に数えピコハンは男の髪を抜く!


「おぎゃあああ!!!」


更にハゲの面積が増えた男はもう涙目であった。

それはそうだろう、ピコハンに攻撃が避けられる度に髪の毛が抜かれ頭はハゲだし、仲間からの攻撃をピコハンがかわすので自分に当たるのだから。


「お、お前等止めっ?!」


ちょうどそう叫んだ男の顔面に少し大きめの石がぶつかり男は目を回してそのまま倒れた。


「あらら・・・んじゃあ今度はそっちに行くね」


ピコハンは離れて攻撃を繰り返す残りの盗賊達の方へ歩いて向かう。


「ひっ来るな!来るなぁ!!!!」


盗賊達は我先にと逃げ出す。

それはそうだろう、一切攻撃をしていないのに盗賊の中で最強の男が無力化され更に自分達が飛び道具で攻撃を仕掛けているのに全てかわされ傷一つ付いていないのだから。


「なんなんだ一体・・・」


門番はとりあえず気絶した男を拘束しピコハンの方を見詰める。

そして、盗賊が走って逃げて行ったので仕方なくピコハンは戻ってきて・・・


「逃げられちゃっいました」


と嬉しそうに笑い門番に拘束されている男に近付き。

丁寧に髪の毛を数えて・・・


「32本頂きます!」


っと逃げていった盗賊達に攻撃された回数分だけ気絶した男の髪の毛を毟って良い仕事した~と額の汗を腕で拭う。


「これは何事です?!」


丁度そこに村の中から一人の女性が近付いてきてそれに気付いた門番が敬礼をする。

それを見てピコハン、本当に真面目な人だなぁと感心しながらその女性に手を振る。


「ルージュ様、先程こないだの盗賊達がまた来まして・・・」

「ダーリン!」


門番の説明を無視して走り寄ってピコハンに抱きつくルージュ。

唖然とする門番の横でルージュに抱き締められたピコハンは一言。


「ただいま」


そう告げるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る