第12話 村の存在を知った領主の手が伸びる
「ダーリン正気なのか?!」
「ピコハンさん・・・それはさすがに・・・」
2人はピコハンの提案に否定的な表情を見せる。
特にルージュは今回の稼ぎは全て換金できれば金貨数億枚は確実だと理解しているからこその反応。
「いや、でもこんなに金が有っても使い道がな・・・」
「だからって・・・」
「そうですよ、これはピコハンさんが命懸けで・・・」
「でもルージュが居なかったら俺は死んでいた。アイが居なかったらあそこから出られなかった。だからこれは2人への恩返しって事も込めてさ」
2人は黙る、金の為に助けた訳ではないのだがピコハンが2人に返せるのはこれしかないと考えているのを理解しているからだ。だからこそ怒った。
「ふざけんじゃないよ!あんたはもう私たちに沢山色んな物をくれたんだ。だからこんなのは違う!」
「そうです。ピコハンさん、私はまだ何もしてません!だからこれは受け取れません!」
2人の勢いに少し押されたピコハンは・・・
「うん・・・ごめん」
一言謝って二人を抱き寄せる。
それを2人は何も言わず受け入れる。
それが3人が本当に家族となった瞬間でもあった。
その日からは忙しかった。
ピコハンは蟻の解体の手伝いに参加した。
特に同じ刃物を使ってもピコハンの力は段違いで剥ぎ取りの速度は段違いで予定の半分近くの時間で毎日作業は進んだ。
ルージュは街の商会と今回の残った品物を売りさばいたりして町と家を忙しく行き来する。
特に街に入れない2人の衣類等を揃えるのに一番忙しかったのは彼女であろう。
そして、アイは片腕になりながらも炊事洗濯を少しずつ慣れるように頑張った。
食材のカットだけはピコハンに任せないと駄目だったがそれでも彼女は家に居た頃に料理を担当していたらしくその腕は本物であった。
こうして各々の生活が続き一月ほどしてピコハンの家の周りには10軒程の家とお店、そして孤児院が建てられた。
周囲に野生の獣や魔物から集落を守る壁が設置され一つの村と言う感じに出来上がり朝晩の気温が水を凍らせるくらいになった頃に事件は起こった。
「この村の代表者とお会いしたいのだが」
貴族、それも見た目にもかなり上流階級と思われる者とその従者が数名その村を訪れたのだ。
そして、代表としてピコハンと秘書的立場でルージュがの2人が立ち会った。
見た目にも子供な10歳のピコハンであるが成長の遅い種族もこの世界には居るので特に気にされはしなかった。
その二人に対してその人物が言い放ったのは・・・
「この村は我がオズラック領土に存在する。なので税金を今後徴収させてもらう」
要は領主の配下の訪問であった。
この村が多大な収益を得ていると言う情報が出回るのはルージュも予想していたのだが…
しかし、ピコハンは告げる。
「僕達は人捨てで戸籍を抹消されました。なので存在しない人間です。存在しない人間から税金を取るのですか?」
その言葉に領主の配下はピコハンを睨みつける、それはそうだろう。
この国の法律で人捨てされた人間は戸籍を失う、だが戸籍を失った人間が再び戸籍を得る方法は無いのだ。
そして、戸籍のない人間は存在しない者として扱われる。
ピコハンの返答にその男は不機嫌な表情を向ける。
それはそうだろう、まさか村を作ったのが人捨てをされたこんな子供だとは思いもしていなかったのだ。
そしてそれに追加するようにルージュが告げる。
「この村の村長はこのピコハンだよ」
ルージュがそう言い放ち領主の配下の男はピコハンを再び睨みつける。
もしそれが本当だとしたらこの村は存在しない人物が作った存在しない村だと言う事となる。
それだけならこの村の全ては徴収されても文句は言えないのだが問題はこの村がダンジョン産の物を出荷していると言う事に有った。
事実ダンジョン産の物を定期的に出荷できるこの村の存在価値はピコハン達が考えている以上に貴重な存在で領主のせいでそれが止まってしまったら国レベルの大問題に発展する可能性があるのだ。
既に王都の方にも噂は流れており最悪は揉み消すしかないのだがこの村に居るダンジョンを攻略している人物の力を恐れているのだ。
それはそうだろう、過去に王都の兵士の軍隊でダンジョンに潜って半日で壊滅したと言う話は国中の者が知っている事実だ。
まさかこの男もピコハンがそのダンジョン攻略者でこの村だけでなくこの国でも飛びぬけた強さを既に持っているなど想像もつかない。
「こ、後悔するなよ!」
自分にはどうする事も出来ないと判断したその領主の配下の男はそう言い残して帰ることしか出来なかった。
追い返せたのは良いのだがピコハンとルージュは今後の事を考えると頭を悩ませるのであった。
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