3
□ □ □ □
「……あっ」
街中を少し歩くと、ようやく子瑛さんがどこに行こうとしていたかが分かった。
甘味処『翠』――瑠衣さんのお店だ。
あんまり美味しい物を食べて喜びたい気分じゃないけど、子瑛さんはそんな気分を知った上で少しでも良くしようと思って連れて来てくれたのかなぁ。
……よし。綾芽のこともとっても心配だけど、今だけは子瑛さんの顔を立てて楽しもう。せっかく瑠衣さん達にも会えるんだし。
そう考えると現金なもので、グゥとお腹の虫も賛成し始めた。
入口のドアを開けると、カランコロンとベルの音が店内に響き渡る。すぐに店員のお姉さんが用意してくれた席に着いた。
でも、肝心の瑠衣さんも黒木さんも奥の方にいるのか、フロアの方には姿が見えない。
「黒木さん、瑠衣さん、いる?」
子瑛さんがメニューを持って来てくれた店員のお兄さんに尋ねてくれた。
すると、お兄さんはやはり奥の方を見て困った風に笑った。
「やっぱりおいそがしー?」
「あ、いや! ……えっと、その、店長が黒木さんに怒られてて」
「……んん」
決まり悪そうにこっそり教えてくれるお兄さんに、子瑛さんも
「あ、でも、きっと呼べば大丈夫だと思うから! ちょっとこっちに来てくれる?」
「ん」
そう言って奥の方へ誘導してくれるお兄さんの後ろへ着いて行き、店員さん達しか入らないバックヤードのドアから少しだけ顔を覗かせた。
「ほら、ここから呼んでみて」
「ほんとにいいんですか?」
「うん、大丈夫だよ。君が来たら呼ぶように言われてるんだけど、僕じゃちょっと怖くて入れないから」
そう言って、お兄さんはこめかみを指でかいた。
怖くて入れない? 黒木さんってば、普段一体どんな怒り方をしてるんだろう?
非公認ではあるものの、瑠衣さんとはもうすっかり二人合わせて怒られ仲間。
「るーいーさん!」
そんな怒られ仲間を救出すべく、私は声を張り上げた。
ガタッと椅子を引く音がさらに奥から聞こえてきてしばらく。
「雅ちゃん?」
瑠衣さんがひょっこりと奥の部屋から顔を出し、私の姿を見つけるや部屋から駆け出して来た。その後を黒木さんもゆっくりと追いかけてくる。瑠衣さんはそのまま
瑠衣さんの体に染み付いている甘い匂いがふんわりと
「良いところに来てくれたわ! さすが雅ちゃん!」
「こんにちは、雅ちゃん」
「えへへ。こんにちはー。……るいおねーちゃま、またおこられてた?」
「違うの! 気に入らないお客……お客様と呼ぶのも他のお客様に失礼ね。気に入らないヤツと口論になっちゃって、それで反省会をしてたのよ」
「はんせいかい」
それはまたの名をお説教会とは言わない? 言わないやつ?
「また反省をしない」
「反省はしてる! でも、後悔はしてない!」
「……はぁ。まったく」
黒木さんは呆れたとばかりに深い溜息をついた。
「もう! 思い出したらさらに腹が立ってきたわ! 雅ちゃん、今日私の家に
「ぱじゃまぱーてぃー」
それはとっても楽しそう!
……だけど。
一瞬乗り気になったものの、すぐに綾芽のことを思って気分がしぼんだ私に、瑠衣さんも黒木さんも不思議そうに顔を見合わせている。
「どうしたの? 元気ないわね」
「ん。あのねー」
ここに来るまでの
綾芽は私のこっちの世界での保護者だけど、同時に命の恩人でもあるんだ。少しでも問題の解決に手助けしたい。
瑠衣さん達もここまで深刻な話だとは思っていなかったのか、表情が暗い。やっぱり別の大人の目から見ても深刻なのか、今の状況は。
「……それは、確かに仕方のないことなのかもね」
「え? るいおねーちゃま、なにかしってる?」
「まぁ、少しは、ね」
瑠衣さんは黒木さんと顔を見合わせた。
きっと私にも聞かせていいことなのか決めかねているんだろう。
この姿だから?
この幼児体型だから、皆が私を見た目相応に
なら、元の姿に戻れば話してくれる?
でも、二人の様子からしてそういう問題でもなさそうな気もする。
きっと、これは綾芽にとって相当根深い問題に違いない。
「……分かったわ。知らないままは嫌だろうし、なにより知ろうとして無理しそうだから、特別に教えてあげる」
お菓子のおねだりの時以上にジッと瑠衣さんを見つめる私に、根負けした瑠衣さんが
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます