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 ■□■□



 次の日、とうとう温泉に行く日がやって来た。


 でも、気分はあんまりよろしくない。


 言わずもがなで昨日の瑠衣さんと黒木さんのことだ。



 あの時、葵さんと茜さんと計画したこと、ちゃんと上手くいけばいいんだけど。


 ……大丈夫かなぁー?



「なに浮かない顔してんだ?」

「んー」



 今は劉さんの車で劉さん、夏生さん、海斗さん、綾芽と五人で温泉宿へ向かっている最中。


 他の人達も車に分かれて乗り込んで向かっている。


 しかも、この車、ちゃんとチャイルドシートも用意されているんです。あはは……ハァ。



 隣に座る海斗さんからも心配される始末。


 ちなみに綾芽は三列シートの一番後ろでスヤスヤと眠っている。


 今ここにペンがあって、私の身体の自由がきいたら間違いなく顔に落書きしてるに違いない。



「きのうのことなのよ」

「あ、あー。例のヤツな」



 昨日帰ってすぐに綾芽達に連絡して、葵さんと茜さんの考えも伝えた。



 あの時、瑠衣さん、戻ってきた時ちょっと鼻が赤かった。


 お化粧でなんとか誤魔化してはいたけど、そんなのバレバレだ。


 強がっていても、ショックを受けていたのは間違いない。


 いつも可愛がってもらってる分、なんとかしてあげたいんだ。



「くろきさん、もうほんとうにるいおねーちゃまのことなんかどーでもいーのかな?」

「だからそれを確かめるんだろ?」

「陛下もこの問題には頭を悩まされていたからな。喜んで力を貸してくださるそうだ。だからお前ら、ぬかるなよ?」

「はいよ。こいつが元気ねーと、どーも調子狂うからなぁ」



 それはなんか、悪いね。ごめんなさい。



「瑠衣は仕事終わってから合流だったな」

「あぁ。午前中までって言ってたから、そう待たずにすむと思うぜ」

「ったく。世話の焼ける」



 そう言いながら、夏生さんは煙草に火をつけた。


 窓を開けるけど、寒いもんだから申し訳程度。


 そんな隙間から煙が逃げる量なんてたかが知れている。



「ちょっと、夏生はん? この子もおるんやから」

「あ? あぁ、わりぃ」



 綾芽、起きてた!


 危ない。落書きしなくて良かった。



「それにしても、よく許可したよな」

「何が」



 夏生さんが灰皿に煙草の吸殻を擦り付けつつ、視線をちらりと海斗さんの方へ投げた。



「瑠衣が一緒に行くことだよ」

「流石に公衆の面前で外見はどうあれ十六のガキを男風呂に入れるわけにはいかねーだろ」

「……今更じゃね?」

「うっさいわ。どっちにしろ結果オーライなんだからいいだろ」



 その点はほんと今更だよ。


 もはや今の私に失うものなんてありやしないわ!


 羞恥心?


 そんなもの、燃えないゴミの日にゴミ捨て場にアノ人と一緒に投げ捨てた。



「大体、そんな穴どころか突き抜けて地球の裏まで行けそうな作戦はどうにかなんなかったのか?」

「ほかにいいあんありますか?」

「んなもん、二人に任せときゃいーって何度も言ってんだろ? なるようになる」

「とんでもないほうこうにむかってますが、そのてんについてはどのように!?」

「……知るか」

「ほらー!」



 だから、私は二人には仲良しでいて欲しいんだよ。


 喧嘩してたっていいけど、今のこの状態は違う。


 絶対違う!



「とりあえず、一週間も休暇もらえたんやから、黒木はん来るまではのんびりしましょ」

「そうだな。俺としては休暇の間くらい子守はご免被る」

「だってよ、チビ」

「おめぇもだよ」

「俺も!?」



 なぜ自分だけ外れると思ってたし。


 夏生さんの中ではまだまだ君もコチラ側ってことだよ、海斗さん。



「チビ、その顔やめろ」

「え?」

「お前、考えてること顔に出すクセ、改めねぇといつか刺されんぞ」

「なんと」



 それは嫌だ!


 頬をぐにゃぐにゃと撫でくりまわして、海斗さんの言う“その顔”を変えてみた。



「そや、君、知ってる? これから行く宿、出るんやって」

「……え?」

「何が?」

「何がって海斗、自分、そんな当然のこと聞くん?」



 寝転がっていた綾芽が急に起き上がって、前の席の頭を当てるところに腕を巻きつけながら不穏なことを口走り始めた。



 や、やめておくれ。


 私の危険察知センサーは今、瑠衣さんと黒木さんのことで酷使しすぎてお休み中なんだ。


 そんなところに、そんな爆弾……



「瑠衣はんと黒木はんのことに一生懸命なっててもかまへんけど、連れて行かれても知らんでぇ」

「いーやー!」

「うるせぇ!!」



 そんな怖いこと、耳元で言わないでぇ!!


 そして、夏生さんもうるさいよぅ!!



「大丈夫大丈夫。病院とこのよりかは可愛らしいもんやって」

「うそだね! ぜったいうそだね!? かおがまじなやつだもん! まがおだもん!!」

「大丈夫やって。自分、ウソついたことないやろ?」

「いまウソついてるーっ!」



 どの口がそんなこと言うかっ!


 この口か、この口が言うんか!?

 


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