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 家の近くまで着くとお母さんに降ろしてもらって、自分の足で走った。両手で家の引き戸をカラカラと音を立てて開ける。



「あ、とーるおじちゃん!」

「お前……雅、か?」

「そーだよ! ただいまー」



 白衣はくいはかま姿の、お母さんのお兄ちゃん、つまり私にとっては伯父さんにあたる人が雪駄せったを履きかけていた。


 透おじちゃんといえば、全国の神社の神職特集でイケメンベスト3の中に入っているくらい、知る人ぞ知る有名人。残りの二人はきちんとイケメンっぷりを騒がれていたのに、透おじちゃんに関しては終始美人だ美人だと騒がれていた、らしい。

 ここだけの話、その雑誌が世に出た時、出版社に直談判に行ったとか行かなかったとか。

 ちなみに現在、独身貴族謳歌おうか中だそうな。



「その姿、どうした? ……優姫の小さい頃にそっくりだな」

「ほんとー?」



 さすがは伯父さん。

 普段、お友達と一緒に人外のモノと触れ合うことがあるせいか、多少は驚いているものの、それ以上騒ぎ立てることもない。



「さっきかえってきたの。いまはおつかいまちよ」

「おつかい?」



 うーん。私にもよく分かんない。説明はオネエさんにしてもらおう。


 丸投げするために、後ろから来ているお母さん達の方を振り向く。

 すると、先程まではいなかった女の人が私のことを見下ろして立っていた。



「この子ですか?」

「あら、早かったわね。そうよ」



 オネエさんが女の人にヒラヒラと手を振る。

 すると、女の人が私を抱え上げた。



「ふふっ、可愛い子。とりあえず、中へ上がらせてもらいましょう」

「そうね。ちょっと、私、ぬるいお茶ね」

「わ、分かりました」



 お母さんが慌てて奥の台所へ走って行く。

 残されていまいち状況が分かっていないはずの透おじちゃんも、神様であるアノ人がいるからか、こちらへどうぞとうやうやしく客間へうながした。




 やって来た女の人はかなでっていうお名前で、例の元老院?ってところで薬草の管理とかのお仕事をしている人なんだって。


 お母さんが用意したお茶請けの最中もなかを見て、目がキランと輝いたから分かった。


 この人、私と同じくお菓子好きだ!

 お菓子好き甘い物好きな人に悪い人はいない。うん、会ったことないもの。


 お母さんや透おじちゃんは私が失礼なことをしでかさないかソワソワしてるけど、そんなことはしない。私がやらかすのは、私が嫌いな人認定した人だけなんだから。



「ねぇーねぇー、かなでさま。わたし、もっとあやめたちといたいの」

「そうねぇ。この国は貴女が神修行するにはちょっと平和すぎるし。たぶんだけど、貴女が元の姿に戻らないのは貴女自身が元に戻りたくないって少なからず思ってるからだと思うのよね」

「なんと!」



 私、この姿の方がいいと思ってたんだ。

 ……うん、思ってる気がする。不便なこともあるけど、なんだかんだいってこの姿でやれることを楽しんでるし。


 すると、顔を伏せて何かを熟考していたお母さんが、奏様の方へ勢いよく頭を下げた。



「あの、ご迷惑をおかけすることになるお願いだって分かってます。でも、長く離れてるとやっぱり不安になるんです。向こうにこの子が行くとして、時々会わせていただくことはできませんか?」

「……いいわ。特別に門を通る許可証を出してあげる」

「本当ですか!?」

「えぇ。ただし、本来なら人間のみで通ることは許されていない門だから、人外のモノと一緒に行動してね」

「分かりました。ありがとうございます」



 ホッとした様子のお母さんに、透おじちゃんがそっと肩を撫でた。



「おかあさん、わたし、もどってもいーの?」

「……仕方ないでしょう? あなたが戻りたそうにしてるんだから。私は雅の気持ちに反対はしないわ。……ちょっと寂しいけどね」



 肩をすくめながらも、笑ってくれた。


 やっぱり、お母さんはお母さんだけだ。いつも私のこと、一番に考えてくれているんだもの。



「戻るのはいつにする? 別にこれからすぐでもいいわよ?」

「あ、一日だけ待ってもらえますか?」



 最中もなかの二つ目に手を伸ばしつつ尋ねてくる奏様に、お母さんが待ったをかけた。


 それもそっか。すぐに準備ができるってわけじゃないよね。



「今日はこの子の誕生日なんです。せめて、祝いの日は家族で過ごしたいので」

「あっ!」



 そういえば、今日は私の誕生日だったっけ!


 毎年毎年、誕生日が来る度に当日は明るく振舞うけど、前日にはすごく思い詰めてるようなお母さんをこっそり見てきたから、あんまり自分の誕生日を毎回考えないようにしてたら忘れてた。


 ちょうどハロウィンの日だし、友達みんなお菓子くれるし。

 なら、こっちの日でいいじゃない的なノリで過ごしてたよ。



「分かったわ。今度は間違いなく安全に送り届けてあげるから、家族水入らずでゆっくりと誕生日を楽しみなさい。私はまだ仕事があるから、また明日来るわね」

「よろしくおねがいしましゅ」



 正座したまま深々と頭を下げた。


 それから自称・パパさんや。

 ちょっと後で、あの時気づいたら戦場にいた件についてお話があります。もしかして、私を向こうの世界に送り出す時、使う門を間違えてませんでしたか、このやろー。



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