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 なんだか鼻をくすぐるいい香りがする。


 なんだろう? 甘くて、おいしそうで……



「……ほんまや」


 

 遠くから綾芽の声がした気がする。


 でも今は、この甘いいい匂いのする方へ……



  ぱくっ



「ちょっ! 食い意地張ってんなぁ!」

「海斗、昼寝の邪魔せんといてやってや。夜寝られんくなったらあかんやろ」

「だ、だってよぉ。劉からあんなこと聞いたら試さずにはいられないだろ」



 いつも綾芽と一緒にお仕事してる海斗さん。


 彼が初めて綾芽と会った時に綾芽を呼びに来た人だ。


 その海斗さんの声もする。



 それよりも、口にくわえたナニカがすごく甘い。


 これは……



「チョコレート……」



 目を開けると、布団のすぐ横で何かを差し出している海斗さんがいた。


 彼の髪と同じ、焦げ茶色の、四角い……


 ……犯人はこいつか。


 むくりと身体を起こし、チョコを持っている手ごとがぶっとくわえてやった。



 私で遊んだ罰だ!


 さぁ、その手に持っているチョコをもらおうか!!



「ちょ、保護者、こいつなんとかしてくれ!!」

「うぅー!」

「唸り声とか。ほんと小動物じゃねーか!」



 すぐ側の壁際で本を読んでいた綾芽に助けを求める海斗さんの顔は、言葉に反して笑顔。


 うん。これは全く反省してませんね?



「そこらへんにしときぃ」

「……うぇー」

「あんまりくわえたままやったら、危ない菌がうつるで」

「……」



 そう言われて、そろそろと口を離す私。


 悪くないと思う。



「ちょっと待て!! なんの菌も持っちゃいねーよ!」

「かいと、ふけつー?」

「……あーやーめー」



 恨めしそうに綾芽を見る海斗さん。


 でも、当然気付いているだろうに知らんぷりの綾芽。



 ささささっと綾芽の横に移動し、ばっちぃものを見る目でじっと海斗さんを見てみた。



「な、なんだよその目は……」

「……」



 さっきよりも目に見えて格段にショックを受けている海斗さんに、これは、と内心にやけた。



 食べ物を食べられた恨みも恐ろしいけど、食べ物で遊ばれた恨みも恐ろしいんだよ。


 ムフン。


 お気をつけあれ?



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